糸井 |
そういう、言葉にならないことって
忘れられがちです。
価値としてカウントされないんですよ。 |
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上大岡 |
見えないからですよね。 |
池谷 |
そうなんです。
例えば企画会議で、
「こういうものはいいと思います」
「なんでですか?」
「だっていいと思うんだもん」
これはおそらく
通用しないんじゃないでしょうか。 |
上大岡 |
「なんとなくいいと思うんですけど。
うまくいきそうな気がするんです」
って言っちゃいますけどね。 |
池谷 |
あはは(笑)。
こういう会議のときって、
きちんと理由が言えて、
「こっちがこうなってこうなります。
だからこのほうが売り上げが見込めるし、
こういうのが、今後、流行します」
と、ちゃんと論理的に理由をくっつけた人が
いわゆる、頭がいいとされる
タイプですよね。
これって、脳を見ると、
ものすごく、理にかなっていない(笑)。
むしろ、言葉で説明できることは、
理にかなってないような気がするんです。 |
糸井 |
うちの会社では、そこのところはけっこう
意識的にやっている部分があります。
理にかなった説明があったときは、逆に
「どうしてそうじゃないんだろう」
「そうするとどうダメになるか、わかった」
という説明をしようとします。 |
池谷 |
なるほど。それは重要ですね。 |
糸井 |
自分がものを買うときだって、
考え抜いてなんか買わないですから。
もっと言えば、いちばん大事な、
恋愛だってそうですよね。
筋書きで判断する人、いないですから。 |
池谷 |
ないですね(笑)。 |
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糸井 |
大きな暗黒大陸みたいなものを、
心に残しておけるかどうかが
分かれ目な気がします(笑)。
そうだ、『のうだま』の次の次くらいの本で、
おふたりで、性のことぜひやってくださいよ。
ずっと前から思ってるんですが、
性については、いつか誰かに
ちゃんとやってほしいんです。
みんな幻想で、何かちがったものを前提にして
やっている気がするんですよ。
つまり、大事にしすぎているか、
さげすみすぎているか、どっちかなんですよね。
世の中の水準が高いところに
ありすぎるような気もするんですよ。 |
上大岡 |
でもわりと、若者は、
逆にもっと淡白な印象があるんですが。 |
糸井 |
それは、機会を失ったルーザーに
なりたくないからじゃないかなぁ。 |
上大岡 |
逆に、構えているんですか。 |
池谷 |
そう。ルーザーになりたくない欲求って、
いま、ものすごく強いですね。
毎日、大学で学生と接していて、
年々それを強く感じるようになっています。
例えば、最近の傾向として感じるのは、
やたらとみんながお互いに
ほめあうんですよ。
カッコいいとか、カワイイとかね。
なんでもすぐほめるんです。
よーく考えると、その欲求って、
要するに「負けたくないから」
というところから来ているんだと思います。 |
上大岡 |
ほめることで負けない、
というのがありますよね。
考えてみると変だけど。 |
池谷 |
自分が痛い思いをしたくないから、
先にほめておくんですね。
そしたら相手も、きっと、ほめてくれる。
いまでは、その光景が
当たり前になってきちゃったけど、
はじめはショックでした。 |
糸井 |
負けることで、
唯一可能性があるのが恋愛だったんですけどね。
「あの子でなければ嫌だ」という理由が
あるはずだから。
あとはもう、金で買えるものは
バイトすれば買えたりするので、
ルーザーにならないですむんだけど、
恋愛だけはだめだったはずなんです。 |
池谷 |
そういう意味では、恋愛観もずいぶんと
変わってきているのかもしれませんね。
学部全体の傾向として、
研究室内でつき合う学生って
少なくなったんじゃないかと思います。
彼氏や彼女がいる人は多いんですが、
恋愛は外でするんですよ。
それもたぶん
内部で傷つきたくないというのが
あるんでしょうね。
お互いに知らない人とつき合っていれば
負けたりはしないですからね。 |
上大岡 |
取った取られた、がないから。
なんかそういうことを
負けるっていう感覚が‥‥
そんなのいいじゃん! |
池谷 |
近くにいる人を好きになっちゃったら
もう好きになっちゃうわけだし、っていうのが
わりとない雰囲気ですよ。 |
上大岡 |
そこまで考えちゃうんだなぁ。 |
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糸井 |
それはやっぱり、
説明できるものさしで、
ジャッジしているからですよね。
これから、もっとそうなりますよ、きっと。 |
池谷 |
やはり、そうですかね‥‥。 |
上大岡 |
それは、転ぶのが嫌だから
自転車に乗らない、という考えや
先に死んじゃうのが嫌だから、
犬を飼わない、というのと
同じようなことですよね。 |
糸井 |
しかも、どっちがよりよいものを
手に入れられるか、というマニュアルは、
どんどん発達していくわけですから、
「飼うときは愛想のいい犬を」
「歩行者天国で子どもに人気の犬を」
ということが常識になるわけです。
だけど、ほんとうに自分が飼いたい犬、
好きな人、っていうのは、違うわけです。 |
上大岡 |
ほんとうに、
わかりづらくなっていきますね。
怖いな。 |
糸井 |
でも、なんだかいまの景気やら社会やらが、
逆にいいチャンスになればいいなと思います。
しまった、こけた。
泥ついちゃった。
ええい、やけになって、好きになっちゃえ!
そういうのがあるといいなぁ。
‥‥最後は
とりとめもなくなってしまいましたが(笑)、
今日はこのあたりにしましょうか。 |
上大岡 |
長い時間、ありがとうございました。 |
池谷 |
ありがとうございました。 |
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(おしまい) |
2009-04-09-THU |