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| 糸井 | トメさんは、漫画や文章を、ずっと 書き続けていらっしゃいますよね。 スイッチが入って一生懸命やってると、 「うわあ、おもしろい!」 なんて、言っちゃうとき、あります? |
| 上大岡 | 描いてて「クスッ」となってしまうことは けっこうあります。 それが世間の反応と重なるときもあるし、 「あ、私だけ?」みたいなこともある。 |
| 糸井 | うん、僕もそうです。 重ならないときって、あるよね。 |
| 上大岡 | 私は『キッパリ!』を書き上げるぐらいのころ、 すごく悩んでたんです。 それは、私のような無名の人が、 「自分を変える方法」というものを 本にまとめようとしているけど、 自分は変わってないし、 そんな本を誰が読むんだろうって ものすごく考え込んでいました。 そのとき、「ほぼ日」で 天童荒太さんの連載をやってました。 そこで天童さんが 「まず、自分がおもしろければいいんです」 とおっしゃっていました。 「ああ、そうなんだ。それでいいんだ」 って、すごく助かったんです。 |
| 糸井 | うん、うん。逆に、 「自分がおもしろくない」 ということだって、あるわけですもんね。 |
| 上大岡 | がんばって描いても、 イマイチだ、腑に落ちない、 でも締め切りが来ちゃった、 ということもあります。 自分のおもしろいものと みんなのおもしがってくれるもの、 それぞれ脳の報酬系があるのかなぁ。 |
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| 糸井 | アマチュアだったら きっと違うと思うんです。 だけど、プロとして仕事を続けていくと 喜びを確かめるのが どんどん難しくなるから、 お金が欲しくなったりするんでしょうね。 |
| 池谷 | それは、自分の価値の再確認 ということですよね。 |
| 糸井 | そうですね。 「お金にして確認させてくれよ」って 言いたくなるんでしょうね。 |
| 上大岡 | 数字がいちばんわかりやすいですからね‥‥ だけど私は、 絵を描いていていちばん楽しいのは、 らくがきなんですよ。 |
| 池谷 | へぇえ。 |
| 上大岡 | いま、娘が高校生で、息子が中学生なんです。 先日、娘の学校で PTAの集まりがあったので行ってきたんですが、 もらったプリントに、 ついつい先生の似顔絵を描いちゃったんです。 「よくできた」と思って、娘に見せたら、 娘が「うわ、似てる!」って言ってくれました。 これが、けっこううれしかったんです。 |
| 一同 | (笑) |
| 糸井 | 数字よりもね。 |
| 上大岡 | そのプリントを、今度は 娘が学校に持っていって友達に見せました。 「みんなにウケたよ」なんて反応があると もっと、すっごい、うれしかったりします。 自分もおもしろくて、 身近な人たちもおもしろい、 私にとっては これがいちばんの報酬系かなぁ。 |
| 糸井 | そのあたりのことは、最近、 ちょうど僕もテーマにしていることなんですよ。 中崎タツヤさんの『じみへん』って漫画、 知ってます? |
| 上大岡 | もちろん、もちろん。 |
| 糸井 | 僕はあれが大好きなんです。 あの漫画にね、ご近所の人気者、という人が 出てくる回があるんですよ。 ヨッ、ヨッ、○○さん、元気? ヨッ、元気だ! そういう奴がいて、最後に 「あんた、ホントにご近所の人気者どまりだね」 のようなことを言われる、 それだけの漫画があるんです。 |
| 一同 | (笑) |
| 糸井 | 読み終わって、 「俺はこれがやりたいんだ」って思ったの。 |
| 池谷 | ふむ、ふむ。 |
| 糸井 | あまりにそう思ったんで、 それをかみさんに見せたんです。 そしたら、かみさんもそのとおりだと言うんです。 「あなたはほんとうに ご近所の人気者として生きているフシがある」 |
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| 一同 | (笑) |
| 糸井 | 「ご近所の人気」が、きっと 僕にとっていちばんうれしいことなんでしょうね。 これは「ご近所どまり」という欲望の小ささだ、 という話ではありません。 きっと、みんなそうじゃないかな。 トメさんの「娘と娘のクラスメイト」と同じ、 人間の単位って そのぐらいなんですよ、きっと。 |
| 上大岡 | うん、うん、わかります。 |
| 糸井 | メディアを通して 遠くのほうの100万人が喜んでいる、 なんていうのは、 ほんとうにはわかんないです。 先日、社会学者の山岸俊男先生と 対談させていただいたんですが、 そのとき、山岸先生が、 人間の扱える単位はだいたい 150人だと言われてますねって、 おっしゃったんです。 原典は『ティッピング・ポイント』という本です。 バレンタインとかホワイトデーとかの範囲も、 自分の係長や、部長、同僚でしょ。 トヨタも新日鉄も、 全係長にチョコはあげないですよね。 |
| 上大岡 | 同じ部署くらいまでですね(笑)。 |
| 糸井 | 大きい会社であっても、関係する人は その単位のところまでで区切る。 そうしないと人間は 生きていけないように できているんじゃないでしょうか。 |
| 池谷 | そう言われれば、僕もそうです。 自分の研究で発見したことを 論文にしたり 学会で大勢に発表するよりも、 研究室のラボの10人ぐらいに 「こんなおもしろいデータが出たよ」 「え、この裏にどんな真実が 隠れているだろう?」 って、あの瞬間がいちばんうれしいんですよ。 |
| 糸井 | ホントに(笑)、そうだと思う。 |
| 上大岡 | だけど、たくさんの人に受け入れられた、 ということも、 絶対に、うれしいはずですよね。 |
| 糸井 | それはもしかしたら、 そのニュースがあることによって、 身近の150人に対して 幅が利くからじゃないかな。 「俺はノーベル賞をもらったぞ」 という喜びは、 大勢に通じたことがうれしいんじゃなくて、 「大勢に通じたよ」ということを、 150人に言えるからなのかも。 |
| 上大岡 | そうか!(笑) |
| 糸井 | それで思い出したんですけど、 スティーヴン・キングって、 草野球のチームで選手やってるんですよね。 それはね、ものすごく正解だと思います(笑)。 そこで打つ一本のヒットはヒットだし、 ベストセラーはベストセラーだし、 どちらもひじょうにうれしいことだけど、 野球チームの人に 「大ベストセラーらしいじゃん」 って言われて 「いやいやいや」 という、そのときがうれしいんですよね、きっと。 |
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| (つづきます) | |
| 2009-04-06-MON | |




