脳に対する、からだの反乱。

糸井 トメさんと池谷さんの出会いは、
この本、『のうだま』ですか?
上大岡 いえいえ、
最初のきっかけは、私が一方的に、ですが、
『海馬』です。
池谷さんが
脳は30歳過ぎたら違う働きをするんだぞ、
とおっしゃってるのを読んで、
ものすごく勇気が出ちゃったんです。
私の持ってる『海馬』って、すごいんですよ。
ほとんど全部の行にアンダーラインが引いてあって
「アンダーラインがないところが逆に重要?」
というくらい。
池谷 うん、すごかったです(笑)。
上大岡 それから、別の仕事で
池谷さんにお会いする機会がありました。
そのとき、
『キッパリ!』』
の本の表紙になっている
テンコブポーズは、
実は脳科学的にも根拠があると
教えてくださいまして。
 
池谷 うん、うん。
上大岡 からだを先に動かすと、
やる気はあとからついてくるんです、って
言ってくださったんです。
「あれは私の勝手な発見じゃなくて、
 脳科学的にちゃんと
 説明できることだったんだ」
そのあたりがスタートで、
何年もかかりましたけれども(笑)、
『のうだま』が誕生することに
なったんだと思います。
糸井 うん、うん‥‥。
まず、池谷さんは、やさしいんですよね。
池谷 突然ですね(笑)。いやあの‥‥うれしいです。
ありがとうございます。
糸井 僕も、きっとトメさんもそうだと思うんですけど、
まるで「自然界」みたいな人間なんですよ。
体系だった何かをしているわけじゃない。
春になれば花が咲いて、
腹が減ったらおもしろくない。
上大岡 そうですね、そうです(笑)。
糸井 池谷さんは、そういう人をやさしく見ていて、
ちょっとだけ指差して、
「こうじゃないかな?」って
言ってくれるんですよ。
ほんとうに、よく見ていてくれるから、
『キッパリ!』の表紙について、
そういう発見ができたんだと思います。
「発見して説明し出してからの池谷さん」は
たくさんの著書になっているけど、
実は、発見する直前の池谷さんが
すばらしいんですよ。
池谷 そういうふうに言っていただいたこと、
はじめてです(笑)。
上大岡 ホントにそう思います。
池谷さんは、いつもすごくよく見ている。
糸井 それは、一般的には「愛」と
言われちゃうものなのかな?
一同 (笑)
糸井 その部分があるかないかは、
池谷さんの研究にも
かかわっていると思うんですが。
上大岡 ああ、きっとそうでしょうね。
糸井 脳を専門に研究していると、
「ここを押さえればここが動くはずだよね」
というような発想のことが
たくさんあると思うんです。
だけど、そういう発想でいくと‥‥
池谷 ええ、ある種の危険が出てきますよね。
糸井 『海馬』が出た頃も、すでにそうだったけど、
いまはもっと、
脳について書かれた本が売れていますね。
脳を勉強したり、よくわかっているということが
偉いわけでもないのに、なぜか
「いちばん大事なことをやっている」
という感じがしてしまうんですよね。

脳の話って、
「根本のところではこうなんです」
みたいなパターンになっちゃうんだけど、
トメさんと池谷さんの
『のうだま』は逆ですね。
これは‥‥脳に対する、
からだからの反乱ですよね。
上大岡 うん、たしかに。
池谷 そうなんです。
糸井 「違うんだよ」ってことを
このふたりは言いたいんだな、
それを強く感じました。
今回、僕がこの本をいいなと思ったのは
そこです。
池谷 たしかに、少し前に
脳ブームのようなものがあって、
みんなが脳、脳と言いはじめました。
なんでも脳から説明していこう、
という風潮に対して、
僕もちょっと辟易しているところがありました。
脳科学者がこんなことを言っちゃ
ほんとうはいけないのかもしれません。
だけど、
「それは、脳じゃないんじゃないの?」
ということを伝えたいという
モチベーションは、ありました。

身体性の重要性について、なんて、
そんなのみんな、ほんとうは知っていることです。
だけど、ここで改めて再認識してみたいという
気持ちがありました。
糸井 それにはトメさんとの組み合わせが
ぴったりですね。
トメさんの、自然界、そのものさが。
上大岡 はい(笑)。歩く自然界ですから。
糸井 というのもね、イラストって、
無意識で思っていることを
表現しちゃうものだからです。

あの『キッパリ!』が売れたのは、
僕は徹底的に表紙だ、と思ってます。
あの中に、トメさんから発信されている振動が
ものすごく強く入っているんです。
あの絵の、目の見開き方、口、目、顔の形、姿勢。
描くときに込められたものというのは、
やっぱりそのとき、
その人しかできないものだという気がします。
そういう人との組み合わせが
ピッタリだな、と思いました。
上大岡 私はもともと理系なので、
見えないものに関しては、
理論が欲しいと思ってしまう
頭の堅いところがあります。
自分では感覚的に
見えないものをとらえていても、
それを裏づけるものが欲しいな、
という要求が、いつもあったんです。
(つづきます)
2009-03-30-MON
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