2023年夏の服に多く使われている
大麻(ヘンプ)素材について、
三谷さんにくわしく伺いました。
日本では、とても古くから使われていたんですって。
(話し手 = 三谷武)
三谷武さんのプロフィール
みたに・たけし
1981年生まれ。
高等専門学校でコンピュータプログラムを学び、
SEへの道を志していたなか、
ファッション雑誌で見た
モードの世界に魅かれて進路を変更、
文化服装学院アパレルデザイン科へ進む。
ハイブランド、ハイファッションに夢中になるいっぽうで、
ファッションで巨額の資金が動く生産の背景に
不当な労働を強いられている人々の存在を知り、
「そうじゃないものづくりを」と、
長く着られ、引き継がれる
「現代の民族服」をと考えるように。
アパレル2社の勤務ののち、
1年半ほどの準備期間を経て
2013年にMITTANを立ち上げる。
生地は遠州、播州、尾州といった
日本各地の機械織りの産地をはじめ、
インド、ラオスといった
アジア圏の手織りのものを主に使用。
可能な限り自ら直接機場に赴き、
独自の素材開発にも取り組んでいる。
現在の拠点は、京都・左京区。
●MITTANのウェブサイト
https://mittan.asia/
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春夏の衣服として馴染みのある 「麻」。
麻は、吸湿性が高く、肌に触れると涼しく感じるので
春夏ものの衣服や寝具などに使われます。
総称のように「麻」と呼ばれていますが、
衣料品に使われるものは、おもに、
亜麻(あま)=リネン、苧麻(ちょま)=ラミー、
大麻(たいま)=ヘンプ、この3種類です。
亜麻、苧麻、大麻はそれぞれ違う植物で、
その茎から繊維をとります。
原料になる植物から、別のものなんですね。
原産地と言われている地域も、
亜麻はコーカサスから中近東、
苧麻は東南アジア、大麻は中央アジアと
異なっています。
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こちらはMITTANの定番素材である大麻の生産地、
中国・黒竜江省の大麻畑です。MITTANでは主に
原料の大麻はこちらのものを使用しています。
(詳しい産地のご紹介は下げ札に記載されている
QRコードからご覧いただけます。)
大麻繊維はチューブ状の穴が空いていて、その構造の
周りに水蒸気を出す微細な穴があるので、そこから透湿して
早く乾く特性があるんです。
この繊維構造のおかげで、大麻は抜群の吸湿発散性を
持っていて、糸になっても植物として生えていたときと
同様に水を吸い、空気を通します。自然の構造をうまく
衣服に取り入れることで快適な着心地を感じることができます。
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「麻」という言葉は、日本では古くから「大麻」のことを
指していましたが、現在では広い解釈で用いられています。
大麻は縄文時代草創期の遺跡からも発掘されているように、
日本に古くから自生し、栽培され、日本の暮らしには
欠かせない植物として、生活に用いられてきました。
神社のしめ縄や横綱の綱に使われるなど、身近な植物として
親しまれてきました。木綿が一般に普及するのは江戸時代、
それ以前は日本各地で栽培できる大麻や苧麻が衣料に
用いられる繊維の主流でした。
亜麻が普及するのは明治時代以降だと聞いています。
第二次世界大戦後にGHQの指示下で制定された大麻取締法により、
大麻生産や流通が許可制となり、国内生産は激減し、
今日では栃木県等で僅かな生産がみられるのみの状況のようです。
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
「大麻」という言葉からは、
マリファナも連想されてしまいます。
ヘンプとマリファナは、アサ科アサ属の、
同じ種類の植物です。
しかし、衣料に使われる繊維用の大麻は
陶酔作用成分をほとんど含まない品種なのです。
ですから、ヘンプで作られた布や服はもちろん、
それらをつくる過程でも、
人の体に悪い影響を与えることはまずありません。
また、大麻は養分が少ない土壌でもよく育ち、
水も多く必要とせず、早い成長過程で二酸化炭素を吸収し
土壌改善の役割もあることから、
比較的環境負荷が低いとされています。
MITTANでは歴史的な背景と共に優れた機能性、
低い環境負荷の点にも着目して、
継続的に大麻素材を使用しています。
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(おわり)
2023-07-11-TUE