大事なことよりも、大事なこと。

糸井重里

・「いいことをしていると自分が思ってるときには、
 ちょっと悪いことをしていると思うと、 
 ちょうどいいんじゃないでしょうか」
 というのは、吉本隆明さんの言ってたことです。
 いつごろ聞いたのか忘れましたが、時間が経つほどに、
 これが、ほんとうに大事なことだと思います。
 
 いかにも吉本さんらしい、逆説的にみえることばですが、
 いまごろになって思えば、親鸞の教えにある
 「善人なおもて往生をとぐ。いわんや悪人をや」と、
 とても近いところにあることばです。
 
 「いいこと」「大きいこと」「大事なこと」は、
 ずいぶんと人を酔わせます。
 だから、人は「悪いこと」「小さいこと」に目もくれず
 「大事なこと」「いいこと」に邁進したりします。
 こういうのが、だめなんだと思うんですよね。
 
 ぼくは、まだ吉本さんにお会いしてなかったころ、
 富岡多恵子さんのエッセイを読んでいて、
 夕方、買い物カゴを持った吉本隆明をときどき見る、
 というような文章に出会いました。
 「共同幻想論」の、あの吉本隆明が夕食の支度をしている。
 詩人の富岡多恵子が黙ってそれを見ている下町の夕暮れ。
 それは、のちに、いかにもただそのままの事実だったと、
 ぼくもあらためて思うことになるのですが、
 二十歳そこそこのときにも、いいなと感じてたんですね。
 
 あと、これもうわさ話みたいなものかもしれませんが、
 明石家さんまさんが、木村拓哉さんについて、
 「木村は、ちゃんとおとうさんやってるから、ええなぁ」
 と語ったという話があります。
 ぼくも、まったくそのとおりだと思いますし、
 「そこを言う」さんまさんも、ええなぁと思います。
 たぶん、木村くんは「だって実際におとうさんなんだから」
 と、なにがええんですかという顔で言うことでしょう。
 そうなんだけどね、それがすごく大事なことなんだよ。
 なかなか、できそうで、できないことでもあるしね。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
酔ってる最中の人は、「酔ってない!」って言いますからね。