また思い出す「顧客の創造」。

糸井重里

・もう四半世紀も前のことだった。
 たくさんのミステリの本をバッグに詰めて、
 バリ島で正月休みを過ごすことにしていた。
 プールサイドで、部屋のなかで、庭の四阿で、
 ずっと本を読んで過ごすばかりの5日間だった。
 こんなことを、何年か続けていた。
 ところがある年に、どういうわけかミステリに混じって、
 ドラッカーのビジネス書が入っていた。
 むろん、じぶんで選んで入れたのだけれど、
 「ちょっと読んでみようかな」というくらいの
 軽い気持ちだったのはもちろんだ。
 いつも読み慣れたミステリ小説の合間に、
 軽い気持ちのままに読みはじめたら、なんとこれが
 ミステリよりもおもしろくなってしまった。
 食事の時間にも読むのを中断したくないとさえ思った。
 いまにして思えば、なにを理解してなにを読み取ったのか。
 いまでは、そのときの気持ちは想像するしかない。
 
 ずっと覚えていて、話したりもするのは、このことばだ。
 〈企業の目的の定義はひとつしかない。
 それは顧客の創造である。〉
 There is only one valid definition of business purpose:
 to create a customer.
 「顧客の創造」、ちょっと言い方を変えてもおもしろい。
 「市場を創り出すこと」、「ごひいきができるか」、
 「いままでいなかったお客さんが、つくりだせるか」
 いかにもビジネスビジネスしたビジネスでなくても、
 それはお笑いをやっている人にだって言えるだろう。
 お客を奪い合うというよりも、お客を生み出す。
 それは、あたらしい付き合いがはじまることでもあり、
 さらに、あたらしいたのしみが増えていくことでもある。
 仕事というと「男は外に出たら七人の敵がいる」だとか、
 「生き馬の目を抜く」だとか物騒なものだと思っていたが、
 「お客を創造する」ということなら、おもしろそうだ。
 
 時代は、大きく小さく「変わり目」の連続なんだけど、
 どう変化しても「顧客の創造」は変わらないと思う。
 AIの暴風がそこに見えても、やることは「顧客の創造」だ。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
経営のシロウトのじぶんにも、よくわかる気がしたのだった。