うまく言えない。

糸井重里

・「うまく言えない」ことを大事にしてほしい。
 若い人にばかりでなく、働きざかりの人にも、
 老人にも、赤ちゃんにも、じぶんにもそう言いたい。
 
 立て板に水とか、
 プレゼンテーションの名人とか、
 そういうのは、仕事上の技術としてはあるだろう。
 アナウンサー口調というのも、聞きやすいし、
 それはそれで訓練のたまものだ。
 
 なんでもうまく説明してくれる人も、ありがたい。
 たぶん、その人は、考えて考えてきたのだ。
 そして、相手の理解に合わせて、
 じぶんの考えたことを伝えてくれる。
 これは、とてもありがたいのだ。
 
 しかし、あなたが(ぼくが)、
 「うまく言えない」と思うことがあるなら、
 その「うまく言えない」ところを、
 うまく言おうとするのを、
 いったんやめておいて、
 「そのまま」をキープしておこうよ。

 「正解」みたいなことばに、
 うまいことまとめてしまうのは、
 いったんがまんしよう。
 そういうことが得意な人ならいるさ。
 いちばん得意なのはAIだろうと思うけどね。

 でも、「うまく言えない」思いの
 かたまりだか、けむりだか、匂いだかを、
 「胸に持ってる」と感じるのは、
 たぶん人間だからじゃないかな。
 
 「うまく言えない」ことは、
 いずれ、別のかたちで姿をあらわすかもしれない。
 夢のなかから、別の人のことばから、風のなかから。
 そいつが、見つかったら大いに笑おうや。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
ぼくは、たぶん、「うまく言えない」が得意な人間です。