| ── | おおー、カッコいい! 
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        | 和枝 | この人たちの着ている法被みたいな着物は 「大漁看板」というんです。
 
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        |  | 
      
        | ── | 大漁の‥‥カンバン? 
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        | 和枝 | そう、大漁だったときに着る衣装なんです。 
 船が出航するときと、
 それから、船が大漁して帰ってきたときには
 宴会が開かれるんですけど、
 そういうときに、
 漁師さんたち、こういうのを着て行くそうです。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | カンバン‥‥という名前からしても ふだんとはちがう、特別な衣装なんですかね。
 
 | 
      
        | 和枝 | そう、漁師さんの家のおかみさんは、 どんなに忙しくても
 これが必要だということになったら
 一晩で縫うってこともあったようですね。
 
 | 
      
        | 紀子 | つまり「着せてあげたいもの」なんです。 
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        |  | 
      
        | ── | 港町のステイタス・シンボル。 
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        | 和枝 | たとえば東京のほうのお祭りかなんかでも カンカン帽の人たちが
 着物の上に法被を羽織ったりしてますけど、
 そういうものなんじゃないかと。
 
 | 
      
        | ── | 歴史あるものなんですね。 
 | 
      
        | 和枝 | このふたりが着ている大漁看板は そこまで古いものじゃないらしいんですが
 なかには、
 明治時代からのものもあったり、ね。
 
 | 
      
        | ── | うわあ、すごそう。見てみたいです。 
 | 
      
        | 和枝 | 今では 大漁祈願の歌を伝承するときに着る
 衣装になっているみたいです。
 
 | 
      
        | ── | このおふたりは、本物の‥‥。 
 | 
      
        | 紀子 | そうです、モデルさんじゃないですよ。 れっきとした、大島の漁師さん。
 
 養殖業をやられていて、
 これから大島の漁業を担う、おふたりです。
 
 | 
      
        | ── | もう、立ち居姿が「海の男!」って感じで、 カッコいいですよね‥‥。
 
 なんだか、年齢もまだ、お若そうですし。
 
 | 
      
        | 紀子 | たしか37と38とか‥‥。 
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        |  | 
      
        | ── | あ。 
 | 
      
        | 和枝 | はい? 
 | 
      
        | ── | この左の人って、「小松武さん」ですか? 
 大島で「ヤマヨ水産」という
 牡蠣の養殖業を営んでいらっしゃる‥‥。
 
 | 
      
        | 和枝 | あ、そうそう。 
 | 
      
        | ── | 僕、以前「東北の仕事論。」という連載で 取材をさせていただきました。
 
 | 
      
        | 和枝 | ああ、そうでしたね。 
 なんか、躰道(タイドウ)という格闘技の
 チャンピオンさんなんですよね。
 
 | 
      
        | ── | タイドウ? 
 | 
      
        | 紀子 | 拳法かなんかでしょ。 
 | 
      
        | ── | え? その、チャンピオン? 
 | 
      
        | 和枝 | そうそう、なんだか。 すごい筋肉でしたよ。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | 小松さんって そんなにもお強い人だったんですか‥‥。
 
 取材でお会いしたときには
 すごく柔和な感じだったので驚きました。
 
 | 
      
        | 和枝 | ムキムキでしたもん。 
 | 
      
        | ── | じゃあ、右側の人も養殖の人ですか? 
 | 
      
        | 紀子 | そうですね。 
 このかたは
 トシヒロさんといって、すごくファンの多い人。
 なにせ
 JTBのツアーが寄るとか寄らないとか(笑)。
 
 | 
      
        | ── | こちらの方も、滅茶苦茶カッコいいですね。 
 | 
      
        |  | 
      
        | 紀子 | ああ、ボンバーマンのTシャツの人は (菅野)一代さんとこのご主人の、弟さんです。
 
 | 
      
        | ── | あの、唐桑御殿の、一代さんの? 
 | 
      
        | 紀子 | そう、船の船頭さん。 
 | 
      
        | ── | 青い空に、はためく色とりどりの旗に、太い腕。 これ以上ないというくらい、決まってます。
 
 | 
      
        | 和枝 | 船のおもて(船首)には 「船名旗」と「屋号旗」が並んでいます。
 
 ちなみに「大漁旗」のことは
 気仙沼では「福来旗(ふらいき)」と呼んでます。
 
 | 
      
        | ── | センメイキ‥‥というのは、船の名前の旗? 
 | 
      
        | 和枝 | そうですね。 
 新しい船の門出となる「新造船」のときには
 この船名旗に、
 わたしたち業者が贈る大漁旗、
 それに日の丸を掲げて、船体を飾るんですよ。
 
 大漁旗には、新しい船名が入り
 さらに、贈った業者さんの名前が入るんです。
 
 | 
      
        | ── | つまり新造船の船名の下に 斉吉さんなら「斉吉」と旗に名前が入る、と。
 
 | 
      
        | 和枝 | はい、そうです。 大漁旗は、この日いちどきりしか飾られない。
 
 この新造船の日にだけ、
 こうして船に華を添える役割をするんですが、
 その後、飾られるということは、ないんです。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | じゃ、しまっとくんですか。 
 | 
      
        | 紀子 | そうなんです。 
 うちや斉吉さんみたいな関連業者にとっても
 新造船というのは、
 本当に本当に、嬉しいことなんです。
 
 ですから、旗を、お祝いで差し上げるんです。
 
 | 
      
        | ── | 船のお披露目を関わるみんなで祝うんですね。 でも旗は、いちど飾っただけでしまっちゃう。
 
 | 
      
        | 和枝 | そうです。 
 このときしか飾らないから、あとは畳んでおく。
 だからこの日は、本当に「ハレの日」です。
 
 | 
      
        | ── | おもしろーい。 
 | 
      
        | 和枝 | そういう意味では「花嫁衣装」と同じですよね。 
 | 
      
        | 紀子 | うん、その日しか着ないもんね。 
 | 
      
        | 和枝 | この左の人は、マグロ漁獲量で日本一の船頭さん。 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | え、日本で一位! 
 | 
      
        | 紀子 | こちらも有名な大船頭さんですよ。 
 石見(いしみ)船頭とおっしゃるんですが
 サンマの水揚げ日本一ですから。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | マグロの次は「サンマ日本一」ですか。 
 | 
      
        | 和枝 | それも、わかっているだけで 15年ぐらい
 ずーっと「1位」なんです、気仙沼で。
 
 つまり「気仙沼で」ということは、
 おそらく「日本で」なんですけれども。
 
 | 
      
        | ── | ものすごい人です。 
 | 
      
        | 和枝 | 毎年「2億」とか、 そのくらいの金額を気仙沼に揚げてます。
 
 それをもう、十何年も続けているという。
 
 | 
      
        | ── | そんなにも長く1位を続けられるのには、 どういう理由があるんでしょうか。
 
 | 
      
        | 和枝 | そうですね、まず船頭さんって 「船のすべてを決める親分さん」なんですが、
 やはり信頼されている人のところには
 いい船員が集まりますし、
 ずっと、メンバーも変わらないんです。
 
 | 
      
        | ── | 優秀な漁師が集まっていて、 しかも、
 長年やっていてチームワークがいい‥‥と。
 
 | 
      
        | 紀子 | 信頼が厚いので 会社から、最新装備を積んだ「いい船」を
 預けられているってこともあります。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | なるほど、なるほど。 
 | 
      
        | 和枝 | でもね、実際に見たわけじゃないんですが 魚を水揚げしたときに
 氷と海水を混ぜつつ魚を水槽に入れていく、
 その「呼吸」って、あるみたいなんです。
 
 だから、同じ装備を持っていても
 A船とB船とC船、ぜんぶ、ちがうんです。
 
 | 
      
        | ── | 魚の状態が? 
 | 
      
        | 紀子 | そうなんです。 
 同じ場所、同じ漁法で捕って
 同じ気仙沼の港に入って来たとしても
 船によって、魚は、ちがう。
 
 | 
      
        | 和枝 | でも、石見さんの魚なら、安心よね。 
 | 
      
        | ── | そこが「腕」なんでしょうね。 
 | 
      
        | 和枝 | 買受人からの信頼も厚いですし。 
 | 
      
        | 紀子 | ちなみに、ポワンとしたピンク色の、 ちょっとエッチな感じの色の光を灯すと
 オスばっかり寄ってくるんだって(笑)。
 
 | 
      
        |  | 
      
        | ── | ドリフみたいですね(笑)。 
 | 
      
        | 紀子 | そうそうそう、でも、ほんとらしいよ? 魚も色に騙されるんだなあって
 ある船頭が言ってた(笑)。
 
 ‥‥すみません、へんな話しちゃって。
 
 | 
      
        | ── | いえいえ、大丈夫です(笑)。 
 でも、今までお話をうかがったような、
 おふたりが「カッコいい!」と思う漁師さんを
 たっぷり集めたのが、
 こちらの「漁師カレンダー」‥‥なんですね。
 
 | 
      
        | 紀子 | そうです! 
 | 
      
        | 和枝 | 私たち気仙沼のスーパーヒーロー、です。 | 
      
        |  | 
      
        | <つづきます> |