─
Miknitsが本格的にはじまった2013年から、
ずっとご一緒しているTEMBEAさん。
はじめて作っていただいたのが「編み針ケース」で、
一作目から完成されたデザインでした。
一度も変更していないですよね?
早崎
配色はいろいろなバリエーションがありましたが、
設計は一度も変わっていないです。
─
今日、持ってきていただいた編み針ケースは、
早崎さんのご私物ですか?
早崎
僕の妻が使っているものです。
気に入って長く使ってくれていて、
家族から受け継いだ編みもの道具が収納されています。
使い込んだ道具が入っていても
雰囲気がピッタリ合うなと思います。

─
「編み針ケース」はMiknitsの人気アイテムで、
とくに赤×茶はロングセラーです。
早崎
三國さんのリクエストで決まった配色ですよね。
─
そうでした。
TEMBEAさんに編み針ケースをお願いしたのも、
三國さんの「カッコいい編みものグッズをつくりたい」
という要望からでした。
市販のものは可愛らしいものが多いけれど、
クールなものがほしかった。
マニッシュで、丈夫で、おしゃれ、
というグッズをつくってくれるのは、
TEMBEAさんじゃないかと、
三國さんがおすすめしてくださったんです。
早崎
そうでしたね。
─
すごく緊張しながらお店をおとずれたら、
「組む理由があるかどうか一度考えます」と言われまして。
白石
怖いこと言いますね(笑)。
早崎
Miknitsさんに声をかけてもらった当時は、
まだコラボの話も少なくて
つくるのに時間がかかってたんです。
それに、2012年は白石が入社したばかりで、
社員はまだ3人。
人が少ないし、どんどんモノを作れる体制ではなく、
なかなかスムーズにこなせない時期でした。
なので、「一度考えます」とお返事をして、
できたときに声をかけることを伝えたと思います。

─
難しいのかなと思ってしばらく待っていたら、
「これだったらつくれそうです」と、
編み針ケースの設計図を送ってくださったんです。
それは、現在商品化しているものとほぼ同じ。
はじめから完成されていて驚きました。
早崎
Miknitsさんから要望をいただいていたので、
声を拾いながら設計していくことで
完成まで持っていけたんだと思います。
─
自社と別注の場合ですと、
どのような違いがありますか?
早崎
自社で作っているアイテムに
やりたいことをつめこんでいるので、
基本的に別注は、
できるだけ相手の要望を汲むようにしています。
もちろん、僕らのベースはあるんですが、
せっかくなら「こうあるべき」からはみ出して、
自由に料理してもらいたい気持ちが強いです。
一緒にやる理由がないと、
途中でダメになることもありますけど、
別注をやる際の心持ちとしては
「なにを出してくれるんだろう?」という
楽しみな気持ちがあります。
─
わたしたちは試されているんですね。
早崎
そう、試してます(笑)。
自分たちで作るものって枠からはみ出せないんです。
「これは売れないかな」「面倒だな」とか
頭の中で計算して理屈で考えてしまう。
でも、コラボだと案件ごとに全然違うじゃないですか。
ときには大変な要望や
自分では思いつかないアイデアもあって、
コラボだとやってみようかなと思える。
そうやって、できるかわからないけれど
チャレンジすることを繰り返していくと
自分たちの幅も広がって、経験値も得られました。

─
デザインもシンプルなものが多かったと思うのですが、
今ではプリント柄も定期的に発表されています。
はじまりはいつ頃だったのでしょうか?
白石
この犬柄の、足跡のついていないバージョンが
はじめて描いた図案です。
2013年のS/Sに発表しました。

早崎
プリント柄は白石が入社してからはじまって、
そこからずっと描き続けてくれています。
─
まさか、この繊細な線画が
白石さんの手描きだとは思っていなくて、
海外のアンティーク本や
既存のアレンジだと思っていました。
早崎
ほんとうにいい絵を描くので、
もっと前に出てもらいたいんですけど、本人がなかなか。
これを機に思いっきり前に出てもらおうと思います。

白石
(笑)。
─
プリントのアイテムがこれだけあるのに、
10年以上ご一緒してきて
今までお願いしなかったのは自分たちでも不思議ですが、
今年ようやく実現できて、よかったです。
白石
そう言っていただけてうれしいです。

早崎
僕たちもうれしいです、やっとですよね。
─
しかも、編みものブランドにぴったりの、
「羊」と「イエティ」の柄があって。
チームでもすぐに柄が決まりました。
白石
羊とイエティはMiknitsさんにぴったりですよね。
─
どんなところからインスピレーションを得て
描いた柄なんでしょうか?
白石
羊は、2019年F/Wで発表したものです。
冬なので羊がいいかな、とひらめいて
本や資料をたくさん探しながら形にしました。
わたしは犬がすごく好きなんですけど、
じつは羊に犬が紛れ込んでいるんです。

─
....あ、ほんとですね!
白石
牧羊犬といって、
羊の群れを誘導したり見張ったりする犬です。
こういう風に、こっそり遊びを入れるのが好きみたいです。
早崎
隠れキャラがどんなプリントにもだいたい居ますね。
あとは、ちょっとひねりをきかせている。
イエティもTEMBEAのキャップを被っていたり、
軍手が枝に刺さっていたりします。

─
個人的にイエティの柄が大好きです。
これだけ個性的な絵でも、
ファッションに馴染むのが素敵ですよね。
白石
イエティは羊と同じくF/Wに発表した柄です。
わたしは山に登るので、
雪山に行ったときの感覚がわかるんです。
そこにイエティがいたらおもしろいなと
思ったのが絵を描いたはじまりで、
山に座っているのは友だちが休憩している様子を参考に、
写真を見ながら描きました。
─
犬や山など、白石さんご自身とつながるところから
アイデアが生まれているんですね。
白石
生活からヒントをもらうことが多いですね。
100%想像だけで絵を描くのは難しくて、
経験からイラストのアイデアを出すほうが、
実感を持って描ける気がします。

─
野球のモチーフも大谷翔平選手がきっかけだとか。
白石
そうなんです。
横浜ベイスターズさんとご一緒する機会があって、
野球の柄を描くことになったんですね。
絵を描くなら見たり聞いたり
「経験して描きたい」と思うタイプなので、
そこから野球を見るようになりまして。
早崎
とんでもなくハマってました。
白石
ものすごく野球好きになりました。
ベイスターズも好きですし、
大谷翔平選手の活躍も話題だったので
アメリカまで観に行って、
球場の感じがすごくよかったんです。
その感じを柄に残したいと思って描きました。
─
プリント柄を描く際に、
早崎さんから白石さんにリクエストはあったのでしょうか?
白石
「図鑑みたいな無機質な感じで」というのは言われました。
私も線画が得意だったので、
動きがなく整然と並んでいる方が描きやすいですし、
TEMBEAらしいのかなと思います。

─
線画をプリントする、しかも帆布生地に、
というのはいろいろむずかしいと思うのですが、
とてもきれいにプリントされていますよね。
白石
プリント屋さん泣かせな細い線かつ、
帆布は凸凹とした生地なので
うまくプリントが載らないことがあるんです。
でも、工場の方が幾度も調整して、
完璧な仕上がりにしてくださっています。
実は、プリントってよく断られるんです。
─
技術力が必要になりますもんね。
早崎
僕らの場合は最初から同じ方に作ってもらっていて、
だいぶおもしろい人なんです。
「いいプリントをしたい」「きれいにプリントをのせたい」
という欲が強い熱心な職人さんで(笑)。
─
いいですね(笑)。
早崎
職人さんというよりアーティストに感覚が近くて、
僕らの理解が及ばないような話をされるんですけど、
決して「プリントが出ない細い線はやりたくない」
みたいな態度ではないんです。
ただ、きれいなプリントのものをつくりたい欲が強い故に、
ものすごく厳しい。
白石
私も何回も怒られました。
でも、そうやって試行錯誤して一生懸命つくって、
仕上がったものをみるとほんとうに感動します。
すごく工夫してくださっているなって思います。

早崎
抜群にプリントがうまいと思います。
─
今回のトートバッグと編み針ケースの
できあがりを見ていかがですか?
早崎
柄とボアの組み合わせがいいですよね。
─
羊はボア、イエティはファーで、
柄に合わせてテクスチャーを変えたのがポイントです。
ボアの色やバッグのかたちに悩んで、
たくさん話しましたよね。
サンプルもいろいろ出してくださって
ありがとうございました。
早崎
白色にするか黒色にするか、
いろんなパターンで考えましたよね。
─
そこで、ズバッと白石さんが
「白がいいと思います」と提案してくださって。
白石
でしゃばってしまって、すみません。
─
全然そんなことないです。
使い勝手なら黒かな....という意見もあったのですが、
白石さんが「ウールなのでそんなに汚れないです」と
背中を押してくださって、
私たちも気持ちがかたまりました。
白石
羊なら白や生成りの方がイメージしやすいかなと思って、
ご提案させていただきました。

─
かわいさも、断然「白」でした。
早崎
僕も白がよかったと思います。
自社でつくっているアイテムの色も、
ほとんど白石が決めているんですよ。
─
そうなんですね!
TEMBEAさんのアイテムは色づかいが絶妙だと思っていて、
好みだけだと偏ってしまうと思うのですが、
色づかいのバランスはどのようにとっているんですか?
白石
そうですね....美大に通っていたんですが、
受験で絵をたくさん描いて色の勉強をしたときに、
色彩感覚みたいなものが育まれたと思います。
色の組み合わせだったり、
目立たせるために彩度を調整したり。
─
描いて、描いて、描くことで身につけたものなんですね。
白石
美大の受験だと、
いろいろな技法を習得しなければいけないので、
デッサン、立体、平面構成など授業がたくさんありました。
プリント柄で描いているものは、
デッサンの授業で学んだ「形を正確にとらえる」
ということが生かされていると思います。
色についても、ひとつの絵の中で
見やすさやわかりやすさを出すためには、
どの色をどうやって配置するか、
どこを足し算して引き算するのか、
そういうことを教えてもらいました。
たとえばイエティなら、
あえてまわりの登山客を無色にすることで
イエティが目立つようにしたり。

─
個性的な柄ですが、
色づかいや帆布という素材のおかげもあって
ふだんづかいしやすいですよね。
白石
大人の方にも持ってもらえるバッグにしたいので、
配色はかなり気にしています。
2色づかいがほとんどで、
アクセント的に色を入れると3色になることもあります。
─
編み針ケースの設計はこれまでのものと同じ。
バッグはTEMBEAさんのアイコン的なアイテムである
「BAGUETTE TOTE(バゲットトート)」の
Miknits別注になります。
このバッグは、ブランドとして
はじめて企画したバッグなんですよね?
早崎
そうです。
もともと僕たちは洋服を作っていて、
生地のスワッチを取り寄せる中に
たまたま混ざっていたのが帆布でした。
綿カスが入っていないので通常よりも白くて、
糸の繊維が長綿なので見た目がきれい。
しなやかなさわり心地かつコシがあって、
すごく惹かれたんです。
その頃、20代の僕は気に入ったカバンがなくて、
ポケットに荷物をつめ込んでいたんです。
ただ、独立して会社をやりはじめたので、
布製でも男性が使えるものがほしかった。
当時の主流であるナイロンかレザーはピンとこなくて、
帆布でカバンを作ってみたいと思って企画しました。
─
自分がほしいカバンを追い求めた結果が、
帆布のトートバッグだったんですね。
早崎
まさに、「こういうのがほしい」という
自分の欲求に合わせて作っていました。
「電車で邪魔にならないように縦長がいいな」とか
「肩紐は一本の方が出し入れしやすいな」とか。
─
カバンのハンドルが一本、っていうのは発明ですよね。
早崎
僕、無精なんです。
なので、気兼ねなく使えるっていうのが大事で、
汚れても洗濯機でガシガシ洗いたいですし、
モノの出し入れがしやすいようにハンドルは一本。
内側に仕切りがないのもうまく使いこなせないから、
ドサッと入れている方がいいんですよね。
そういう、無精さから生まれた心地よさが、
このトートバッグには全部つめこまれていると思います。
─
編みものも、ガサッとバッグやカゴに入れて
気楽に楽しんでいる人が多いと思います。
そういう意味でも、TEMBEAさんのバッグはピッタリ。
編みもの道具と毛糸を入れて持ち運んでも丈夫ですし、
袋口が広いので毛糸も取り出しやすい。
ふだんづかいもできるすぐれものです。
ポケットだけは、特別につけてもらいました。
白石
カバンの中で携帯やイヤホンが見つからなくなるので、
内ポケットは便利だなと思いました。

─
イエティの「BRANCH TOTE(ブランチトート)」は、
どのような由来なんですか?
早崎
僕たちのバッグの名前は、
リアルに入るものの名前をつけています。
バゲットトートは、細長いパンのバゲットを
縦に入れられる高さがあるという意味。
“入ってそう”みたいな半分冗談的な部分もあります。
BRANCHは枝という意味。
これを設計したときはコロナ禍で、
河口湖にある会社の保養所に
1ヶ月半くらいこもっていたんです。
そこで、枝を集めたり木を切ったりする生活をしていて、
枝を集めるためのバッグがほしいと思って作りました。
斜めがけができるショルダータイプで、
背負ったままでもモノの出し入れがスムーズです。

─
早崎さんも白石さんも、
生活のなかから発想を得るタイプなんですね。
早崎
そうですね。まったくなにもないところから
考えられないので、
生活の中からヒントをもらっています。
枝を集めるときは背負ったまま出し入れをしたいので、
ショルダーが身体に沿うように片側につけました。
ショルダーの長さ調整ができるので、
肩にかけたり斜めがけにしたり
便利に使ってもらえると思います。

─
最後に、長年Miknitsを伴走してくださっていて、
なにか感じることはありますか?
ご意見があれば聞いておけたらと。
早崎
ご意見は、ないですよ(笑)。
─
(笑)。せっかく長いお付き合いなので。
早崎
でも、Miknitsさんとの12年って長いのか短いのか、
ちょっとわからないところですよね。
すごく昔な気もするんですけど、
「まだ12年しか経っていないのか」とも思う。
ただ、新しいものをつくり続けているので、
後ろを振り返ったときに
「12年前と全然違うことをしているな」と思うと、
自分たちがやってきた実感はありますね。
もちろんベストセラーだけ売り続けても
商売としては成り立ちますが、
僕たちの姿勢として売れているものがあったとしても
必ず新しいものを出すと決めています。
─
たしかに帆布だけでなくて、
どんどんアイテムの幅が広がっていますよね。
早崎
年に3回展示会をしているんですが、
僕も白石もある意味「意地」として、
絶対に新しいものを毎回出しています。
リスクをともなうものですし、
すごく苦しいときもあるんですけど、
最後まで粘って諦めずにやっていると
ふといいものができることがある。
それは、新しいものをつくり続けているから
進化できているのかなと思います。
なので、Miknitsさんにも
「なにか新しいことをやりましょう」と
お伝えしたんです。
─
そう言っていただけてうれしかったです。
わたしたちも常に新しいことに挑戦をしていきたい、
と思っているので。
早崎
長くブランドを続けていると、
停滞するときってどうしてもありますよね。
偉そうに聞こえるかもしれないんですが、
停滞しているときこそ新しいことに挑むのが、
大事なんじゃないかなと思います。
変わらない部分も必要だけれど、
ずっと同じだとつまらなくなります。
ただ、いきなり突飛なアイテムだと売れないです。
商品を届けるには段階がちゃんとあって、
お客さんが想像できる半歩先のなかで
進化し続けなきゃいけない。
そういう意味で、自分たちらしさと、
お客さんがついて来られる範囲の変化が必要で、
Miknitsさんはそこができているなと感じます。
─
長くご一緒している早崎さんに言ってもらえると、
とても自信になります。
早崎
こちらこそ、こうしてずっと、
一緒にアイテムを作らせてもらえてありがたいです。
─
ありがとうございます。
これからも、末永くよろしくお願いします!
早崎、白石
よろしくお願いします。
