04 新しいことをやりましょう。TEMBEAさんのお話

ニッターのためのオリジナルグッズを、
TEMBEAさんとつくりました。
ブランドを象徴する帆布をつかった
丈夫なトートバッグと編み針ケースに、
羊やイエティの柄をプリント。
そばにあるだけでうれしくなる、
存在感のあるグッズです。
TEMBEAの代表、デザイナーの早崎篤史さんと
デザイナーの白石美久さんにお話をうかがいました。

Miknitsが本格的にはじまった2013年から、
ずっとご一緒しているTEMBEAさん。
はじめて作っていただいたのが「編み針ケース」で、
一作目から完成されたデザインでした。
一度も変更していないですよね?

早崎

配色はいろいろなバリエーションがありましたが、
設計は一度も変わっていないです。

今日、持ってきていただいた編み針ケースは、
早崎さんのご私物ですか?

早崎

僕の妻が使っているものです。
気に入って長く使ってくれていて、
家族から受け継いだ編みもの道具が収納されています。
使い込んだ道具が入っていても
雰囲気がピッタリ合うなと思います。

「編み針ケース」はMiknitsの人気アイテムで、
とくに赤×茶はロングセラーです。

早崎

三國さんのリクエストで決まった配色ですよね。

そうでした。
TEMBEAさんに編み針ケースをお願いしたのも、
三國さんの「カッコいい編みものグッズをつくりたい」
という要望からでした。
市販のものは可愛らしいものが多いけれど、
クールなものがほしかった。
マニッシュで、丈夫で、おしゃれ、
というグッズをつくってくれるのは、
TEMBEAさんじゃないかと、
三國さんがおすすめしてくださったんです。

早崎

そうでしたね。

すごく緊張しながらお店をおとずれたら、
「組む理由があるかどうか一度考えます」と言われまして。

白石

怖いこと言いますね(笑)。

早崎

Miknitsさんに声をかけてもらった当時は、
まだコラボの話も少なくて
つくるのに時間がかかってたんです。
それに、2012年は白石が入社したばかりで、
社員はまだ3人。
人が少ないし、どんどんモノを作れる体制ではなく、
なかなかスムーズにこなせない時期でした。
なので、「一度考えます」とお返事をして、
できたときに声をかけることを伝えたと思います。

難しいのかなと思ってしばらく待っていたら、
「これだったらつくれそうです」と、
編み針ケースの設計図を送ってくださったんです。
それは、現在商品化しているものとほぼ同じ。
はじめから完成されていて驚きました。

早崎

Miknitsさんから要望をいただいていたので、
声を拾いながら設計していくことで
完成まで持っていけたんだと思います。

自社と別注の場合ですと、
どのような違いがありますか?

早崎

自社で作っているアイテムに
やりたいことをつめこんでいるので、
基本的に別注は、
できるだけ相手の要望を汲むようにしています。
もちろん、僕らのベースはあるんですが、
せっかくなら「こうあるべき」からはみ出して、
自由に料理してもらいたい気持ちが強いです。

一緒にやる理由がないと、
途中でダメになることもありますけど、
別注をやる際の心持ちとしては
「なにを出してくれるんだろう?」という
楽しみな気持ちがあります。

わたしたちは試されているんですね。

早崎

そう、試してます(笑)。
自分たちで作るものって枠からはみ出せないんです。
「これは売れないかな」「面倒だな」とか
頭の中で計算して理屈で考えてしまう。

でも、コラボだと案件ごとに全然違うじゃないですか。
ときには大変な要望や
自分では思いつかないアイデアもあって、
コラボだとやってみようかなと思える。
そうやって、できるかわからないけれど
チャレンジすることを繰り返していくと
自分たちの幅も広がって、経験値も得られました。

デザインもシンプルなものが多かったと思うのですが、
今ではプリント柄も定期的に発表されています。
はじまりはいつ頃だったのでしょうか?

白石

この犬柄の、足跡のついていないバージョンが
はじめて描いた図案です。
2013年のS/Sに発表しました。

早崎

プリント柄は白石が入社してからはじまって、
そこからずっと描き続けてくれています。

まさか、この繊細な線画が
白石さんの手描きだとは思っていなくて、
海外のアンティーク本や
既存のアレンジだと思っていました。

早崎

ほんとうにいい絵を描くので、
もっと前に出てもらいたいんですけど、本人がなかなか。
これを機に思いっきり前に出てもらおうと思います。

白石

(笑)。

プリントのアイテムがこれだけあるのに、
10年以上ご一緒してきて
今までお願いしなかったのは自分たちでも不思議ですが、
今年ようやく実現できて、よかったです。

白石

そう言っていただけてうれしいです。

早崎

僕たちもうれしいです、やっとですよね。

しかも、編みものブランドにぴったりの、
「羊」と「イエティ」の柄があって。
チームでもすぐに柄が決まりました。

白石

羊とイエティはMiknitsさんにぴったりですよね。

どんなところからインスピレーションを得て
描いた柄なんでしょうか?

白石

羊は、2019年F/Wで発表したものです。
冬なので羊がいいかな、とひらめいて
本や資料をたくさん探しながら形にしました。
わたしは犬がすごく好きなんですけど、
じつは羊に犬が紛れ込んでいるんです。

....あ、ほんとですね!

白石

牧羊犬といって、
羊の群れを誘導したり見張ったりする犬です。
こういう風に、こっそり遊びを入れるのが好きみたいです。

早崎

隠れキャラがどんなプリントにもだいたい居ますね。
あとは、ちょっとひねりをきかせている。
イエティもTEMBEAのキャップを被っていたり、
軍手が枝に刺さっていたりします。

個人的にイエティの柄が大好きです。
これだけ個性的な絵でも、
ファッションに馴染むのが素敵ですよね。

白石

イエティは羊と同じくF/Wに発表した柄です。
わたしは山に登るので、
雪山に行ったときの感覚がわかるんです。
そこにイエティがいたらおもしろいなと
思ったのが絵を描いたはじまりで、
山に座っているのは友だちが休憩している様子を参考に、
写真を見ながら描きました。

犬や山など、白石さんご自身とつながるところから
アイデアが生まれているんですね。

白石

生活からヒントをもらうことが多いですね。
100%想像だけで絵を描くのは難しくて、
経験からイラストのアイデアを出すほうが、
実感を持って描ける気がします。

野球のモチーフも大谷翔平選手がきっかけだとか。

白石

そうなんです。
横浜ベイスターズさんとご一緒する機会があって、
野球の柄を描くことになったんですね。
絵を描くなら見たり聞いたり
「経験して描きたい」と思うタイプなので、
そこから野球を見るようになりまして。

早崎

とんでもなくハマってました。

白石

ものすごく野球好きになりました。
ベイスターズも好きですし、
大谷翔平選手の活躍も話題だったので
アメリカまで観に行って、
球場の感じがすごくよかったんです。
その感じを柄に残したいと思って描きました。

プリント柄を描く際に、
早崎さんから白石さんにリクエストはあったのでしょうか?

白石

「図鑑みたいな無機質な感じで」というのは言われました。
私も線画が得意だったので、
動きがなく整然と並んでいる方が描きやすいですし、
TEMBEAらしいのかなと思います。

線画をプリントする、しかも帆布生地に、
というのはいろいろむずかしいと思うのですが、
とてもきれいにプリントされていますよね。

白石

プリント屋さん泣かせな細い線かつ、
帆布は凸凹とした生地なので
うまくプリントが載らないことがあるんです。
でも、工場の方が幾度も調整して、
完璧な仕上がりにしてくださっています。
実は、プリントってよく断られるんです。

技術力が必要になりますもんね。

早崎

僕らの場合は最初から同じ方に作ってもらっていて、
だいぶおもしろい人なんです。
「いいプリントをしたい」「きれいにプリントをのせたい」
という欲が強い熱心な職人さんで(笑)。

いいですね(笑)。

早崎

職人さんというよりアーティストに感覚が近くて、
僕らの理解が及ばないような話をされるんですけど、
決して「プリントが出ない細い線はやりたくない」
みたいな態度ではないんです。
ただ、きれいなプリントのものをつくりたい欲が強い故に、
ものすごく厳しい。

白石

私も何回も怒られました。
でも、そうやって試行錯誤して一生懸命つくって、
仕上がったものをみるとほんとうに感動します。
すごく工夫してくださっているなって思います。

早崎

抜群にプリントがうまいと思います。

今回のトートバッグと編み針ケースの
できあがりを見ていかがですか?

早崎

柄とボアの組み合わせがいいですよね。

羊はボア、イエティはファーで、
柄に合わせてテクスチャーを変えたのがポイントです。
ボアの色やバッグのかたちに悩んで、
たくさん話しましたよね。
サンプルもいろいろ出してくださって
ありがとうございました。

早崎

白色にするか黒色にするか、
いろんなパターンで考えましたよね。

そこで、ズバッと白石さんが
「白がいいと思います」と提案してくださって。

白石

でしゃばってしまって、すみません。

全然そんなことないです。
使い勝手なら黒かな....という意見もあったのですが、
白石さんが「ウールなのでそんなに汚れないです」と
背中を押してくださって、
私たちも気持ちがかたまりました。

白石

羊なら白や生成りの方がイメージしやすいかなと思って、
ご提案させていただきました。

かわいさも、断然「白」でした。

早崎

僕も白がよかったと思います。
自社でつくっているアイテムの色も、
ほとんど白石が決めているんですよ。

そうなんですね!
TEMBEAさんのアイテムは色づかいが絶妙だと思っていて、
好みだけだと偏ってしまうと思うのですが、
色づかいのバランスはどのようにとっているんですか?

白石

そうですね....美大に通っていたんですが、
受験で絵をたくさん描いて色の勉強をしたときに、
色彩感覚みたいなものが育まれたと思います。
色の組み合わせだったり、
目立たせるために彩度を調整したり。

描いて、描いて、描くことで身につけたものなんですね。

白石

美大の受験だと、
いろいろな技法を習得しなければいけないので、
デッサン、立体、平面構成など授業がたくさんありました。
プリント柄で描いているものは、
デッサンの授業で学んだ「形を正確にとらえる」
ということが生かされていると思います。

色についても、ひとつの絵の中で
見やすさやわかりやすさを出すためには、
どの色をどうやって配置するか、
どこを足し算して引き算するのか、
そういうことを教えてもらいました。
たとえばイエティなら、
あえてまわりの登山客を無色にすることで
イエティが目立つようにしたり。

個性的な柄ですが、
色づかいや帆布という素材のおかげもあって
ふだんづかいしやすいですよね。

白石

大人の方にも持ってもらえるバッグにしたいので、
配色はかなり気にしています。
2色づかいがほとんどで、
アクセント的に色を入れると3色になることもあります。

編み針ケースの設計はこれまでのものと同じ。
バッグはTEMBEAさんのアイコン的なアイテムである
「BAGUETTE TOTE(バゲットトート)」の
Miknits別注になります。
このバッグは、ブランドとして
はじめて企画したバッグなんですよね?

早崎

そうです。
もともと僕たちは洋服を作っていて、
生地のスワッチを取り寄せる中に
たまたま混ざっていたのが帆布でした。
綿カスが入っていないので通常よりも白くて、
糸の繊維が長綿なので見た目がきれい。
しなやかなさわり心地かつコシがあって、
すごく惹かれたんです。

その頃、20代の僕は気に入ったカバンがなくて、
ポケットに荷物をつめ込んでいたんです。
ただ、独立して会社をやりはじめたので、
布製でも男性が使えるものがほしかった。
当時の主流であるナイロンかレザーはピンとこなくて、
帆布でカバンを作ってみたいと思って企画しました。

自分がほしいカバンを追い求めた結果が、
帆布のトートバッグだったんですね。

早崎

まさに、「こういうのがほしい」という
自分の欲求に合わせて作っていました。
「電車で邪魔にならないように縦長がいいな」とか
「肩紐は一本の方が出し入れしやすいな」とか。

カバンのハンドルが一本、っていうのは発明ですよね。

早崎

僕、無精なんです。
なので、気兼ねなく使えるっていうのが大事で、
汚れても洗濯機でガシガシ洗いたいですし、
モノの出し入れがしやすいようにハンドルは一本。
内側に仕切りがないのもうまく使いこなせないから、
ドサッと入れている方がいいんですよね。
そういう、無精さから生まれた心地よさが、
このトートバッグには全部つめこまれていると思います。

編みものも、ガサッとバッグやカゴに入れて
気楽に楽しんでいる人が多いと思います。
そういう意味でも、TEMBEAさんのバッグはピッタリ。
編みもの道具と毛糸を入れて持ち運んでも丈夫ですし、
袋口が広いので毛糸も取り出しやすい。
ふだんづかいもできるすぐれものです。
ポケットだけは、特別につけてもらいました。

白石

カバンの中で携帯やイヤホンが見つからなくなるので、
内ポケットは便利だなと思いました。

イエティの「BRANCH TOTE(ブランチトート)」は、
どのような由来なんですか?

早崎

僕たちのバッグの名前は、
リアルに入るものの名前をつけています。
バゲットトートは、細長いパンのバゲットを
縦に入れられる高さがあるという意味。
“入ってそう”みたいな半分冗談的な部分もあります。

BRANCHは枝という意味。
これを設計したときはコロナ禍で、
河口湖にある会社の保養所に
1ヶ月半くらいこもっていたんです。
そこで、枝を集めたり木を切ったりする生活をしていて、
枝を集めるためのバッグがほしいと思って作りました。
斜めがけができるショルダータイプで、
背負ったままでもモノの出し入れがスムーズです。

早崎さんも白石さんも、
生活のなかから発想を得るタイプなんですね。

早崎

そうですね。まったくなにもないところから
考えられないので、
生活の中からヒントをもらっています。
枝を集めるときは背負ったまま出し入れをしたいので、
ショルダーが身体に沿うように片側につけました。
ショルダーの長さ調整ができるので、
肩にかけたり斜めがけにしたり
便利に使ってもらえると思います。

最後に、長年Miknitsを伴走してくださっていて、
なにか感じることはありますか?
ご意見があれば聞いておけたらと。

早崎

ご意見は、ないですよ(笑)。

(笑)。せっかく長いお付き合いなので。

早崎

でも、Miknitsさんとの12年って長いのか短いのか、
ちょっとわからないところですよね。
すごく昔な気もするんですけど、
「まだ12年しか経っていないのか」とも思う。
ただ、新しいものをつくり続けているので、
後ろを振り返ったときに
「12年前と全然違うことをしているな」と思うと、
自分たちがやってきた実感はありますね。

もちろんベストセラーだけ売り続けても
商売としては成り立ちますが、
僕たちの姿勢として売れているものがあったとしても
必ず新しいものを出すと決めています。

たしかに帆布だけでなくて、
どんどんアイテムの幅が広がっていますよね。

早崎

年に3回展示会をしているんですが、
僕も白石もある意味「意地」として、
絶対に新しいものを毎回出しています。
リスクをともなうものですし、
すごく苦しいときもあるんですけど、
最後まで粘って諦めずにやっていると
ふといいものができることがある。
それは、新しいものをつくり続けているから
進化できているのかなと思います。

なので、Miknitsさんにも
「なにか新しいことをやりましょう」と
お伝えしたんです。

そう言っていただけてうれしかったです。
わたしたちも常に新しいことに挑戦をしていきたい、
と思っているので。

早崎

長くブランドを続けていると、
停滞するときってどうしてもありますよね。
偉そうに聞こえるかもしれないんですが、
停滞しているときこそ新しいことに挑むのが、
大事なんじゃないかなと思います。
変わらない部分も必要だけれど、
ずっと同じだとつまらなくなります。

ただ、いきなり突飛なアイテムだと売れないです。
商品を届けるには段階がちゃんとあって、
お客さんが想像できる半歩先のなかで
進化し続けなきゃいけない。
そういう意味で、自分たちらしさと、
お客さんがついて来られる範囲の変化が必要で、
Miknitsさんはそこができているなと感じます。

長くご一緒している早崎さんに言ってもらえると、
とても自信になります。

早崎

こちらこそ、こうしてずっと、
一緒にアイテムを作らせてもらえてありがたいです。

ありがとうございます。
これからも、末永くよろしくお願いします!

早崎、白石

よろしくお願いします。

写真・川村恵理

(おわります。)
2025-10-06-MON