食べものの道すじがわかる人。──サブレのひとくちに隠れていること──

ほぼ日 HOBONICHI

兵庫県養父市(やぶし)の自然豊かな山あいに
「le fleuve(ルフルーヴ)」という
お菓子の工房が建っています。
そのオーナーシェフである上垣河大さんとほぼ日が、
一緒にサブレを作りました。
かわいらしい動物のかたちをした、
黒豆、栗、黒糖、全粒粉の4種類です。
ひとくち食べると、
口いっぱいに素材の豊かな風味と
心地いい食感が広がります
それは思わずじっと見つめてしまうほど。
どうしてこんなにおいしいの? 
そのわけは、山あいの工房を訪ねて、すぐにわかりました。
たとえば4つの味はすべて
使う小麦粉まで違うことなどなどなど‥‥。
上垣河大さんのプロフィール

4つのサブレ、その中身

──
今回販売させていただくサブレについて
教えてください。
上垣
このサブレのボックスは、
卵、砂糖、バター、小麦粉の
4種類の基本材料にフォーカスしました。
卵や蜂蜜はうちで採れたもので、
バターと小麦粉は北海道産、
砂糖は沖縄の黒糖などをブレンドして、
「それぞれの素材の味がしっかりわかるクッキー」
をテーマに作りました。
──
素材の味を、しっかり。
上垣
そう。お菓子全般について、
「結局プレーンがいちばんおいしいんだよね」
って、思ったことないですか。
──
すごくよくあります。
上垣
サブレもそうで、
たとえば生地にカカオを入れると、
カカオの味が際立ちます。
「カカオサブレ」ならいいとして、
そうでない場合は
生地に含まれる素材自体の味が
どうしてもわかりにくくなるんですね。
なので、素材の味とのバランスを大切にしながら、
今回は栗や黒豆を生地に練り込みました。
──
なるほど。
ベースの生地は、4種類とも同じでしょうか。
上垣
ベースの生地から、それぞれ変えています。
まず、「りす」は
ルフルーヴの一番シンプルなサブレ生地に
丹波の黒豆のコンフィ(シロップ煮)を混ぜました。
黒豆は丹波の名産品で、ふっくら大きいんですよね。
小麦は北海道産とフランス産をブレンドしてます。
食感もそれぞれ楽しんでほしくて4つとも違うんですけど、
りすは、「パートシュクレ」という
タルトの底生地をベースにしていて、
固めの食感です。
──
あっ、ほんとだ、タルト生地! 
サクサクしておいしいです。
4つの動物の形も、かわいいですね。
上垣
僕が小さい頃から動物が好きで、
この4つは特にシルエットもかわいいなと。
味や素材も、それぞれのイメージに合うように作りました。
「アルパカ」は、
イタリア産の栗のパウダーと、
うちで採れた栗の蜂蜜が入っています。
──
先ほど上垣さんのお父さまが、
川で蜂の巣枠を洗っていらっしゃいました。
もしかしてあちらが‥‥?
上垣
あ、そうです。
あれがサブレに使った栗の蜜の巣枠です。
蜜蝋が固まって蜂が巣を作りにくいので、
たまにああやって掃除をしてあげるんです。
ちょうど今、栗の花が咲く時期で、
栗の蜂蜜は風味がとてもいいんです。
上垣
「くま」のサブレは、
黒糖の風味をメインに出したいなと思って作りました。
沖縄のミネラルが豊富な黒糖なんですが、
バターとの相性も良くて、
焼くと黒糖の香りが濃縮されて、
香ばしさも際立ちます。
──
いい香りです! 
黒糖ということは、
この「くま」は黒くまですか。
上垣
黒くまですね(笑)。
そして「ハリネズミ」は、
隣街の豊岡にあるオーガニック農家・
ナカツカサファームさんの全粒粉を使っていて、
注文時に小麦から挽いて粉にしてもらっているので、
小麦粉の豊かな風味と、
ホロホロした食感がたのしめます。
──
豊岡と言えば、コウノトリの郷の。
上垣
はい、一時期激減したコウノトリを育てるために、
農薬や化学肥料を使わない農法を
積極的にとっている町ですね。
ナカツカサファームさんの小麦粉は、
関西のパン屋さんで
素材を大事にされているところなんかでよく使われていますが、
オーガニックだから生産量は多くないので、
あまりに新規には卸せないと聞いたことがあります。
有機野菜も作られているんですけど、
それでカレーを作ったりすると、
すごくおいしいんですよ。
せっかく仕入れるなら、
考え方に共感できる方がつくったものを
使いたいと思っています。
──
ほかの材料は
どのように選ばれているんでしょうか。
上垣
最初はネットで情報収集をしたり、
仲よくしている同業者に
「黒糖を使いたいんだけど、おすすめはある?」
って聞いたりしますが、
最終的には食べて決めますね。
産地や種類によって全然味が違うので、
何種類も試します。
──
たまに海外に行かれているそうですが、
食材やレシピの研究のためもあるのでしょうか。
上垣
それも大きいです。
たとえばバニラなら
マダガスカルのブルボン産が有名ですけど、
他の国や地域でも作られているので、
それらを知ることによって、
「このお菓子を作るときには、
あそこのバニラとここのバニラをブレンドしよう」
ということができるようになるので、
再現できる味の幅が広がるんです。
それからいろんな種類を知っておくと、
例えば材料の卸売業者さんから
「このバニラを使ってみてほしい」と言われたときに、
そのバニラがどのレベルのものなのかがわかります。
自分が最高だと思っていた素材を超えるものに出会えたら、
そのときは「買い」ですね。
──
おいしいものを作るための道って、
果てしないような気がしてきました。
上垣
ええ、終わりはないです。
だから常にアンテナを張っていて、
いま最高だと思って使ってるものも、
今後はそうじゃないかもしれないという前提で、
レシピも材料も、どんどんアップデートしていきます。
──
既製品だと、
いつ食べても同じ味であることが
良しとされていると思うんですけど、
それとは逆ですよね。
上垣
僕はずっと同じ味がいいとは思ってないです。
むしろ、どんどん良くすればいいじゃないかと。
味も、時代によってトレンドがあって、
古くなっていくものだと思うんですよ。
イタリアに行ったときに感じたんですけど、
地方や田舎のほうが
素材はいいし技術もあるんだけれど、
作り方が昔のルセット(レシピ)のままなんです。
都会の方が、移り変わりが早い。
その土地の風土や時代の変化、
いろんな要素があって、
人が食に求めるものも変わっていきますから、
当然、作り方も変わっていくはずです。
おいしさって、変わりつづけるんですよね。
(つづきます)
2025-09-27-SAT

基本材料から最適なものを吟味。
ぜひ食べ比べて、
サブレの奥深い世界をご堪能ください。

「ほぼ日のおかし」シリーズに
おいしいサブレの詰め合わせが登場します。
兵庫県養父市(やぶし)のお菓子工房
「le fleuve(ルフルーヴ)」の上垣河大さんに
この季節にあわせた味覚の
オリジナルサブレを作っていただきました。
かわいらしい動物のかたちをした、
りす、アルパカ、くま、ハリネズミ。
この4種類はそれぞれ、
卵、砂糖、バター、小麦粉の基本材料を吟味し、
まったく異なる風味のサブレに仕上げています。
ひとくち、ふたくちと食べ進めるうちに
工夫を凝らした、隠されたおいしさが顔を出しますよ。

ルフルーヴのサブレ 3.990円(税込・配送手数料別)

2025101日(水)午前11

※10月7日(火)より順次発送となります。
※常温便でのお届けです。
※賞味期間が短いため、他の商品とのとりまとめはできません。

「ルフルーヴのサブレ」
かわいらしい動物のかたちをした、
4種類の味を詰め合わせました。
  • りす

    りす
    兵庫県丹波産の黒豆コンフィを混ぜ込んだ
    タルト生地のようなサクサク食感。
  • アルパカ

    アルパカ
    自家養蜂の栗の蜂蜜と
    イタリア産の栗パウダーを合わせた
    風味豊かなサブレ。
  • くま

    くま
    沖縄県今帰仁産の黒糖の、
    コクと香ばしさがアクセント。
  • ハリネズミ

    ハリネズミ
    兵庫県豊岡産の全粒粉を使った、
    ホロホロ食感。