食べものの道すじがわかる人。──サブレのひとくちに隠れていること──

ほぼ日 HOBONICHI

兵庫県養父市(やぶし)の自然豊かな山あいに
「le fleuve(ルフルーヴ)」という
お菓子の工房が建っています。
そのオーナーシェフである上垣河大さんとほぼ日が、
一緒にサブレを作りました。
かわいらしい動物のかたちをした、
黒豆、栗、黒糖、全粒粉の4種類です。
ひとくち食べると、
口いっぱいに素材の豊かな風味と
心地いい食感が広がります
それは思わずじっと見つめてしまうほど。
どうしてこんなにおいしいの? 
そのわけは、山あいの工房を訪ねて、すぐにわかりました。
たとえば4つの味はすべて
使う小麦粉まで違うことなどなどなど‥‥。
上垣河大さんのプロフィール

おいしいものは、
手に入りにくい‥‥?

──
世界中でいろんなものを試食されるということですが、
「おいしい」という基準がないと、
判断が難しそうです。
上垣
それは、
僕の中で修行時代からはっきりとありました。
育ってきた環境の影響が大きいと思いますけど、
大事に育てた鶏の卵や、
近くで採れる新鮮な野菜を食べてきたので、
味覚は敏感というか、
食べればどういうふうに育った作物か、
だいたいわかります。
──
食べものの、これまでの道すじがわかるなんて‥‥。
そうやっていろんなものを食べてこられた上垣さんが、
今いちばんおいしいと思うものを
お菓子として作られているんですね。
上垣
でも、この「おいしさの世界」って、
技術が高ければいいというものでもないと思っているんです。
次元が高すぎることをしても、
一般のお客さまには「なんのことやら」ですし、
そもそも求められていないかもしれない。
だから僕らは、
高い次元で取り組みながら、
それをおいしいと思ってもらえる商品に
落とし込んでいくという作業をしています。
F1に挑戦しながら市販車を作るみたいなイメージですね。
──
そうなんですね。
たとえば、どういった要素がありますか。
上垣
たとえばこのサブレ、
割ったときに真ん中が白いですよね。
外と中で食感や風味が違うようにしてるんですけど、
言われなかったら、たぶん気づかない。
──
‥‥全然気づかないです。
ただおいしいなと思っていただいていました。
上垣
いいんです。
その、「ただおいしい」のために
こうなるように作っているんです。
この焼き具合は割らないとわからないですけど、
割ってしまうと売りものにならないので、
割らずにわからないといけない。
でも火の通り方って、
そのときの生地や鉄板の温度によっても変わりますし、
同じオーブンの中でも
熱が入りやすい場所と入りにくい場所があるので、
途中で鉄板を入れ替えたりしています。
そういう技術や材料の選定、味のつくり方、
すべてにおいて、
「それって違い出るの?」
と思われるような細かいことばかりですけど、
ものすごくたくさんの要素が詰まってます。
──
すごい世界ですね。
この1枚のサブレの中に、
見えてないことがいっぱいある。
上垣
実はいっぱいあります。
僕らの仕事って、
お菓子を作って終わりじゃなくて、
お客さまの口に入るまでがお菓子作りだと思うんです。
たとえば今日お昼に焼き上げたサブレを、
夕方頃まで置いてから箱に詰めても、
もうおいしくないんです。
湿気を帯びると風味も飛びやすいし、
劣化もしやすいので、
焼いたらすぐに包装します。
そういう、温度や湿度のコントロール、
材料やでき上がったお菓子の管理を、
とても大事にしています。
──
見えないけど大事なこと。
上垣
はい。
賞味期限も、通常30日くらいでも大丈夫なところを、
うちでは15日に設定しています。
お菓子はやっぱり、できたてがおいしいですから、
「できるだけ早く食べてくださいね」
というメッセージも込めて。
「ギフトに使いたいけど、
賞味期限が短いからやめておきます」
と言われてしまう可能性も増えるんですけど、
それはもう、しょうがないことだと思っています。
おいしいと思ってもらうことが、
一番大事なので。
──
ルフルーヴはオンラインストアだけで、
実店舗を設けられていないのも
そういった理由からでしょうか。
上垣
そうですね。
実店舗があると、
ある程度商品を並べておかなくてはいけないので、
一生懸命作っても、お客さんに届かずに余ることになります。
材料や生産者のことを考えると
それはもったいないですし、
お店に並べなければ避けられることなので、
オンラインショップという形にしました。
今は出荷日だけを決めて、
注文数に合わせてスタッフ5~6人で作るので、
受注生産に近いですね。
──
無駄がなくて、かっこいいです。
上垣
近頃ようやく、
年間を通して仕事が安定するようになってきたかな
というところです。
これまで、チョコは冬にしか売れないので、
冬だけ忙しくて夏は暇だったんですけど、
今は夏の間にプラリネ(チョコレートの中に詰める、
ローストしたナッツをキャラメリゼして
ペースト状にしたもの)の味を決めたり、
コンフィ(シロップ漬け)を仕込んだり、
1週間ほどかかる材料の火入れをしたりと、
冬のための準備をする時間に当てています。
──
お仕事の設計の仕方が、
第一次産業に近い気がします。
上垣
あ、ほんとに近いですね。
僕も農家なので、
生産者さんの手元がわかるんですよ。
手間をかけて育てた農作物を、電話1本で
「これだけの量をいつまでに欲しい」
と言われても、
彼らは自然を相手に仕事をしているわけですから、
そんな約束、できないんです。
僕は父を見てそれを知ってるので、
「いつでもいいので、
できるぶんだけ、分けてください」
とお願いしています。
──
自然にも根ざした作り方だから、
結果、いちばんおいしいものができるんですね。
上垣
農家さんも、
僕が理解していることをわかって
「お前のところにはいくらでも出してやる」
と言って分けてくださるので、
ありがたいことです。
だから基本的には毎年同じ生産者さんから
材料を買わせてもらうんですけど、
決め打ちするのは難しい部分もあるんです。
なぜかというと、
そこの農家さんの畑で今年採れなかったら、
当然供給できないわけですよね。
市場に流通しているものは特に、
それを避けようとして、常に供給できる材料で
製造設計されていると思うんですが、
僕の場合は、それもそれとして取り引きをしています。
農業って、そういうものなので。
──
それを踏まえておいしいものをつくるためには、
やっぱり技術が必要ですよね。
上垣
そうですね。
僕の方は技術でカバーできるんですけど、
農家さんはそういうわけにはいかないですから、
本当に大変だと思います。
でもね、
おいしいものは、あるところにはあるんですよ。
けれど市場には出ない。
市場が求めるものは、安定と低価格なので、
そちらを優先されると、
ほんとうにおいしいものは出回らないんです。
──
なるほど。
‥‥でも今回は4種類のサブレという形で
届けていただけるんですよね。
とてもうれしいです! 
上垣
頑張りました。
楽しんでもらえたらうれしいです。
──
大事にいただきます。
どうもありがとうございました!
(おわります)
2025-09-28-SUN

基本材料から最適なものを吟味。
ぜひ食べ比べて、
サブレの奥深い世界をご堪能ください。

「ほぼ日のおかし」シリーズに
おいしいサブレの詰め合わせが登場します。
兵庫県養父市(やぶし)のお菓子工房
「le fleuve(ルフルーヴ)」の上垣河大さんに
この季節にあわせた味覚の
オリジナルサブレを作っていただきました。
かわいらしい動物のかたちをした、
りす、アルパカ、くま、ハリネズミ。
この4種類はそれぞれ、
卵、砂糖、バター、小麦粉の基本材料を吟味し、
まったく異なる風味のサブレに仕上げています。
ひとくち、ふたくちと食べ進めるうちに
工夫を凝らした、隠されたおいしさが顔を出しますよ。

ルフルーヴのサブレ 3.990円(税込・配送手数料別)

2025101日(水)午前11

※10月7日(火)より順次発送となります。
※常温便でのお届けです。
※賞味期間が短いため、他の商品とのとりまとめはできません。

「ルフルーヴのサブレ」
かわいらしい動物のかたちをした、
4種類の味を詰め合わせました。
  • りす

    りす
    兵庫県丹波産の黒豆コンフィを混ぜ込んだ
    タルト生地のようなサクサク食感。
  • アルパカ

    アルパカ
    自家養蜂の栗の蜂蜜と
    イタリア産の栗パウダーを合わせた
    風味豊かなサブレ。
  • くま

    くま
    沖縄県今帰仁産の黒糖の、
    コクと香ばしさがアクセント。
  • ハリネズミ

    ハリネズミ
    兵庫県豊岡産の全粒粉を使った、
    ホロホロ食感。