作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍
『すべての悩みは武器になる』として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。
もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。
クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
- 水野
- 令和時代、これからの夫婦関係をどうするんだ
っていう話だと思うんですけど、
たしかに僕の周りにはいろんな選択をした夫婦がいて、
家庭によっていろんな形があっていいんだと
僕は本気で思っています。
籍を外して一緒に暮らしたり、役割分担を決めたり、
自分が望む夫婦関係や家族の形の選択肢は
広がってきていますよね。
- 岸田
- ケンセツテキ!
- 水野
- そう。って‥‥ちょっと軽くないですか?(笑)
- 岸田
- 違うんですよ。
まだ、「夫婦関係は詰め将棋」っていう
衝撃から立ち直れてないんです。
だって、詰め将棋って言い換えたら思いやりですよね。
相手を怒らせないように、地雷を踏まないように、
できるだけ穏便な日々を送れるように詰むわけで。
- 水野
- そうですね。
- 岸田
- でも、詰め将棋をやりすぎた結果、
無関心や諦めが生まれるなんて‥‥。
- 水野
- 岸田さん、想像してみてください。
ある日のことです。
その日はめちゃくちゃ原稿がはかどって、
ただ、はかどったゆえにぎりぎりまで仕事をしていたから
家に帰ったらすごく疲れていた。
その状態で子どもに引き算を教えていたら、
「やりたくない!」と暴れて、
水をバシャーってかけられて、
「うっっわ‥‥」みたいな。
- 岸田
- 水野さんの引きつった表情。
- 水野
- 余裕があるから思いやりを持てるけれど、
忙しいとどんどん諦めに変わっていく。
- 岸田
- ああー‥‥。
- 水野
- 離婚について悩んでいる方には
「思い切って不満を言ってみよう」みたいな
ハッピーエンドを目指す回答が多いと思うんですけど、
「今のままでもいいかもね」
ということもあると思います、僕は。
- 岸田
- 前向きなだけがいいわけじゃないですよね。
- 水野
- 我慢して生きていくとして、
推し活をしたり趣味を見つけたり、
別の夢中になれるものを見つけることで
夫婦関係に折り合いをつけていくことも、
僕はいいんじゃないかなって思っています。
- 岸田
- ‥‥ゾッとしました。
- 水野
- ゾッとしました?
- 岸田
- 夫婦関係って、
折り合いをつけようとするじゃないですか。
私も「観葉植物に水をやれ」と言われてもできなくて、
水をあげる時間にタイマーをセットして、
ジョウロに水を入れてても、その間に、
「あ、ラーメン食べよう」とか思っちゃうんです。
それで、ジョウロに入れた水をそのまま、
茹でるための水にしてしまう。
- 水野
- あははは(笑)。
- 岸田
- 最初は夫も笑って許してくれていましたけど、
最近は「ああ、もうやっといたよ」って。
- 水野
- 折り合いをつけちゃっていますね。
- 岸田
- まさに、詰め将棋と折り合いの道へ
一歩踏み出し始めていますよね。
- 水野
- 夫婦間に口出ししたくないですけど、
テクノロジーを活用して水やりはどうですか?
水を勝手にあげてくれるやつとか。
- 岸田
- もう、それは使ってます。
土に刺して自動でやってもらうんですけど、
その機械に水を補給するのを忘れるんです。
- 水野
- そいつに、また補給してくれるテクノロジーは‥‥
- 岸田
- ない。
というか、植物を育てるなって話なんです。
なのに私は家に鉢を持って帰ってしまう。
そうすると、夫が悲しそうな顔をするんです、
俺が責任を持つ命が増えた、と。
だから、向こうはもう諦めてます。
「もういいよ、育てたらいいんじゃない」って。
- 水野
- 諦めが行きすぎると、無関心になっていくんで。
- 岸田
- なっちゃいますよね。
- 水野
- そこは、お互いに回復するルートを
用意しておいた方がいいと思います。
「これをしたら自分たちの関係が回復するよね」
っていうテンプレートみたいなものを。
- 岸田
- 水野さん家の場合はあるんですか?
- 水野
- たとえばですけど、
この間映画『鬼滅の刃』の最新作を
妻と観に行ったんです。
直前までちょっとした言い合いをしてたんですけど、
鬼滅を観たら「最高だったね!」という気持ちで
楽しく会話できるようになっていました。
お互いに共有できるものというか、
「最高だったよね」って言えるものを間に挟むと
回復するっていうのはあるかもしれないです。
- 岸田
- そっちの方が諦めや無関心より全然いいです。
いろんな形の夫婦があるっていうことなら、
無視され続ける状態でも、
養育するパートナーとして割り切って一生を終える、
という考えもあるってことですよね。
でも、それは悲しいから、
私は回復するルートを見つけたい。
- 水野
- ぼくも「無関心な状態」っていうのは痛ましくて、
やっぱり回復したり、希望があったり、
より関係が深まっていくことを大事にしたいんですけど、
そうできない人の気持ちも今ならわかります。
- 岸田
- そうか‥‥でも、私も水野さんと同じ考えです。
わかった、詰め将棋を「光の詰め将棋」にする。
- 水野
- いいですね、光の詰め将棋。
- 岸田
- 闇の詰め将棋じゃなくてね。
無視され続けていたら
夫婦関係はもたなくなると思うんです。
どれだけ割り切っていたとしても、
何十年も見て見ぬふりをしていると、
いざ腹を割って話すことが
難しくなってくるじゃないですか。
それだけは避けたいというか。
- 水野
- ただ、夫婦関係ってそのままじゃいられないというか、
突然風がうわっと吹いて、
関係が問い直されるときがくるかもしれない。
- 岸田
- かもしれない。
- 水野
- 思いがけない風が吹いたときにどう対処するのか、
というのが大事だなと思います。
- 岸田
- うちは、お父さんが亡くなったことで、
親子関係がガラッと変わったんです。
お母さんは、母として自分に求める基準が高くて、
完璧なごはんをつくらなきゃいけないし
子どもに迷惑をかけちゃダメだし、
母たる理想がありました。
でも、病気をして歩けなくなったことで、
理想からものすごく遠くなってしまったんです。
- 水野
- どうしようもないことですしね。
- 岸田
- でも、そこじゃないって私は思っていました。
お母さんの価値はそんなところにない、
生きているだけで、話を聞いてくれるだけで、
「お母さん」としての価値がある
ってことを何度も伝えました。
- 水野
- ああ、素晴らしいですね。
- 岸田
- 隕石みたいなデカいことが起こらないと、
家族関係って変わらないなって思います。
家族の誰かが入院をしたり、家がなくなったり、
全員で力を合わせてどうにかしないと
いけない瞬間が起こったらすごく変わるはず。
- 水野
- 岸田さんの人生には、
嵐と隕石が人より多めに降り注いでますよね。
- 岸田
- そんなつもりはないけれど。
- 水野
- 多めですよね?
- 岸田
- 私の場合は隕石が自分じゃなかったんです。
お父さんが亡くなって、
お母さんが病気になって、
おばあちゃんが認知症になって、
外から隕石が落ちてくるばっかりで、
それによって良い方向に人生が転換した人間で。
なので、これからはきっと、
私が隕石を落とす側に?
- 水野
- いや、無理にならなくていいんじゃないですか(笑)。
人工的に落とそうとしても無理な話で、
人の意思とは関係のないところで嵐が起きて、
そこにどう反応できるかってことなのかなと思います。
(つづきます)
2025-09-26-FRI
すべての悩みは武器になる
~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。
好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
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(C) HOBONICHI