風は吹くし、隕石は落ちてくるし、波が押し寄せてくる。水野敬也×岸田奈美×糸井重里
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍『すべての悩みは武器になる』
として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。

もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。

クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
第1回 夫婦関係は詰め将棋。
水野
ポッドキャストを聴いてくださっている方が、
こんなにいるんだなと、今実感しています。
岸田
ありがとうございます。
不思議な気持ちです。
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──
今日はせっかくなので、
放送のように恋愛相談に答えていただきたいと思います。
テーマは「離婚と不倫」、
番組にもっとも寄せられた相談だったのですが、
あまりにも生々しい話が多く
本には入れられなかったので、
ぜひこの場でお話しできたらと思います。
岸田
ちょっといいですか?
まず、「LOVE相談」という番組では必死に
同じような体験を思い出して、
責任を持てる範囲のことを言っていたんですけど、
離婚と不倫はどっちもやったことがない。
僭越ながら、私、新婚なんです。
水野
僕も先日結婚式にお邪魔させていただきました。
岸田
だから、「村娘の清らかさを守ろう」という思いで、
家で一番白い服を着てきました。
水野
この話題に染まるまいと。
岸田
そうです。
水野
僕がこのテーマにまつわる話題をひねり出すとしたら、
ChatGPTに、「僕が不倫でニュースに出たら
どういう記事になりますか?」
って聞いたことがあるんですよ。
そしたら、もう一瞬でChatGPTが記事を書き始めて。
文春砲ですよ、やってもないのに。
タイトルまで書いてくれました。
「『夢をかなえるゾウ』の作者は、
夜のベッドの上で夢を語ってる」。
会場
(笑)。
水野
めちゃくちゃノリノリで書いてくる記事を、
震えながら読みました。
「君の夢はなんだい? と水野は聞いた」とか。
岸田
うまい(笑)。
水野
離婚と不倫について話せるのはそれぐらいですけど、
個人的な感覚としては昔と扱いが変わりましたよね。
離婚は以前よりカジュアルになって、
実際に選択する人も増えていて、
子どもの頃に感じていた重さが
今は減ったような気がします。
逆に不倫は重たさが増しているというか。
時代が大きく変わっているなかで、
今日は素人なりに切り込めるところは
切り込んでいこうかなと思います。
岸田
そんな、みのさんみたいな人でしたっけ?
水野
切り込みます。
今日はいつも以上に切り込みます。
──
ありがとうございます。
さっそくメールを読ませていただきます。
1通目は、主婦の方からいただきました。
内容を抜粋してお読みします。
「数年前から会話もなく、
夫は家族に興味も関心もなくなりました。
ずっと仕事だけをしています。
こんなことになるなら結婚しなければよかったけれど、
子どもを一人で養う勇気はありません。
夫に無視され続けるのがしんどいですが、
離婚に踏み切る勇気がありません」。

2通目も、離婚すべきかどうかというお悩みです。
「夫に触れるのが気持ち悪いです。
口臭が気になり、体臭も気になり、
ギリギリで暮らしています。
ケンカする体力もなく、
嫌なことがあっても我慢しています。
会社にやさしくしてくれる既婚の男性上司がいて、
クソだなぁと思いながらも、
飲み会の後に誘われると
ついて行ってしまいそうになります。
私はどうしたらいいのでしょうか」。
岸田
私は今、披露宴のすごく楽しかった様子を、
必死に思い出して‥‥
水野
素晴らしい披露宴でしたけど、現実はね。
岸田
現実が押し寄せてきます。
水野
今は白い服で来ていますけど、
これがあり得るってことなんですよ。
岸田
やっぱり、あるんですかね。
水野
あると思います。
最近の話で、デニーズに家族で行ったんです。
お会計をしているときに、
70代くらいのふたり、ご夫婦でしょうね。
レジの前で大喧嘩していたんですよ。
岸田
えっ! その年齢で、デニーズで。
水野
大声だからケンカの理由が聞こえてくるんです。
「私はね!店員さんが『アプリをもう一回立ち上げて』
って言われた通りしたの!
それをなに、あんた言うのよ!」みたいな。
写真
岸田
うわぁ‥‥アプリでケンカ‥‥。
水野
アプリについて旦那さんが言ったんだと思います。
そしたら、奥さんがブチ切れてるわけです。
僕が結婚していなかったら、
ふたりを見て「なんて愚かだ」と思っていたでしょう。
いい歳をして、アプリで喧嘩って‥‥と。
しかし、今の僕は喧嘩する気持ちがわかるんです。
岸田
わかる?
水野
これは、アプリも店員さんも、
そんなことどーーでもいいんです。
それまでの恨みつらみの歴史があるわけで、
溜めに溜めてきた怒りが
デニーズのアプリをきっかけに吹き出してしまった。
岸田
アプリはきっかけに過ぎないんですか。
水野
そうです。
これまで溜めてきたものが、
アプリがきっかけで溢れただけ。
だから、僕はふたりの背中に向かって
「わかるよ」って語りかけていました。
会場
(笑)。
水野
僕は「LOVE相談」の放送で
「喧嘩しなくてもいいんじゃないか」
って話をしたことがあると思うんですけど、
それは前向きなアドバイスというより
気持ちがわかるからなんです。

先輩面をしてこのまま語らせてもらいますけど、
夫婦喧嘩をしないのは、
言い返した後に何が起きるかわかるから。
こちらの発言に対する相手の出方が
予想できるようになっていくという、
つまり夫婦関係は詰め将棋みたいなものなんです。
ここでこうなると、こう返されて、
「ああ、詰んだわ」って。
岸田
夫婦関係は詰め将棋‥‥
めちゃくちゃ衝撃的なんですけど。
水野
そこで勝負に打ち勝てるような
秘技があればいいんですけど、これがなかなか。
岸田
でも、詰んでるってことは、
そこに至るまでの過程で、
相手のことを前向きに諦めているんじゃないですか?
水野
いやあ、溜まっていくんです。
我慢しているうちに心の中でどんどん仲間が増えて、
もうストが起きる手前で円陣を組んでいて、
最後の最後に「アプリが来たあぁ!」。
会場
(笑)。
水野
デニーズの前でも関係なく大爆発です。
岸田
水野さんは結婚何年目ですか?
水野
9年くらいですかね。
岸田
10年いってなくても、
そんな詰め将棋ができるようになるんですね。
水野
人によるでしょうけど、
夫婦生活が長くなればなるほど
詰め将棋がどんどん上手くなっていきますね。
岸田
でも、相談をくださった方は、
夫に興味も関心もなくなっているじゃないですか。
今の話でいうと、詰め将棋をしてるってことは、
相手に関心があるわけですよね。
水野
そうですね。
岸田
夫婦で無関心になってしまうのが、
一番怖いなって思います。
水野
無関心というか、諦めに近いのかもしれないですね。
「ここでこう言ってもこうなるな」
っていう詰め将棋がずっと行われてきた結果、
相手のことを諦めてしまう。
岸田
ああー。シミュレーションしすぎて、
戦に挑む前に終わらせてしまう。
水野
そうなんですよ。
岸田
なるほど。
え? 結婚って終わりじゃないですか‥‥。
水野
そうとも言えますけど‥‥
いや、ちょっと待って、でも。
岸田
どうしたらいいの?!
会場
(笑)。
写真
(つづきます)
2025-09-25-THU
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すべての悩みは武器になる

~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。

好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
ポッドキャストはこちらから聴けます。
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