風は吹くし、隕石は落ちてくるし、波が押し寄せてくる。水野敬也×岸田奈美×糸井重里
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんが
恋愛相談にこたえる番組『LOVE相談』が、
書籍『すべての悩みは武器になる』
として刊行されたことを記念して、
三省堂書店神保町本店で
糸井も交えたトークイベントを行いました。
テーマは、番組に最も寄せられた相談、
離婚と不倫について。

もっと深刻な話になるかと思いましたが、
恋愛の奥深くにある「欲望」をめぐって
話はさまざまな方向に揺れました。

クローズドな会でしたが、
この盛り上がりを伝えたく、
一部編集をして公開できる範囲でお届けします。
*水野敬也さんはご本人の意向で、
この日から顔出しをやめました。
白熱する様子を想像しながらお読みください!
第3回 ただの波の話。
──
話も盛り上がってきたところで、
糸井を呼んで、3人でトークができたらと思います。
糸井さん、よろしくお願いします。

(拍手)
写真
水野
(苦い顔をしている糸井に対して)
どんな気持ちの表情ですか?(笑)
ポジティブではなさそうですけど。
糸井
お笑いの会場だからさ、俺は入れないんだよ。
水野
いやいや、そんなことないですよ。

糸井
僕が今日のトークショーについて聞いてたのは、
あまりにも深刻な離婚と不倫の相談が来るんで、
これは対処できないからクローズドな空間で、
どんなに暗くなっても、どんなに心が痛んでもいいから、
ふたりが思いっきりその話をしますってことで
「俺はそこに参加できるかなぁ‥‥」と思いながら、
遠慮がちに遠巻きから見ていたら、ずーっと笑いだけが。
会場
(笑)。
水野
僕もそんなつもりじゃなかったんですけど。
岸田
私もそうです。
糸井
今までの流れで充分おもしろかったから、
この縄跳びにどう入っていいのかわからなくて。
水野
‥‥という表情だったんですね。
糸井
俺は俺で、なんかおもしろい話をするのかな。
水野
どうなるんでしょうね。
糸井さんに聞きたいことはありますか?
岸田
私が?
水野
なかなかないじゃないですか、こんな機会。
岸田
ごめんなさい。
私が言っていいのかわかんないですけど、
糸井さんが、離婚と不倫って。
水野
切り込みますね。
糸井
具体的なことは、
俺が避けるに決まってるじゃないですか。
岸田
ですよね(笑)。
水野
今日は新婚がいて、
10年ぐらいの未経験がいて、で‥‥
岸田
資格持ってる人がいて。
水野
そうそう。
糸井
有資格者ですね。
岸田
有資格者!
会場
(笑)。
写真
岸田
純粋な興味なんですけど、
有資格者同士が集まって話す機会ってあるんですか?
糸井
ないです。
岸田
話さないんだ、やっぱり。
糸井
話さないですよ。
水野
あの、有資格者の人がいるので、
どんなことが起きるのかとか、
資格試験の内容とか聞きたくないですか?
岸田
聞きたい。
水野
傾向と対策を聞きたいです。
岸田
そういう話って、聞かないですよね。
糸井
公の場で言わない理由は、このテーマを
正と邪に分けた時に絶対に「邪」だからです。
水野
ちょっと無邪気に言っちゃいますけど、
円満まではいかないけれど、
正のように見える離婚もあるじゃないですか。
将来をふたりで話し合って、
前向きに決めた人が僕の周りにもいます。
糸井
そういう話し合いができる人たちは、
別れない方がいいと思う。
岸田
建設的な会話ができる人は、
離婚をしないほうがいいんですか。
糸井
話し合って円満に別れられる人は、
その関係を続けたほうがいいと思います。
一般論としてしか言えないけどね、
一般論としてはそうだと思う。
水野
でも、それぐらい資格を取るのは
大変だってことですか。
糸井
多少、話を聞いたりするとよく聞くでしょう、
人生の一大事業だと。
岸田
それはよく聞きますね。
糸井
話してもいけないから話さないんです。
『ニコニコ離婚』のような本を出してる人は、
話したいんだろうけれど。
岸田
そんな本あるの?(笑)
水野
資格本じゃないですか!
写真
糸井
その道のビジネスは、山ほどありますよ。
そこでは、離婚がどれくらい簡単なことか、
こじれたものはこう整理しましょうと、
理路整然と言うんだけれど、
根本的にはそうじゃないと思う。
さっきの正と邪でいうと、
「正」のムードになってしまうと
社会は壊れてしまうんじゃないかな。
水野
ニコニコなんかできるものじゃない。
糸井
だから、一旦悪いことだと決めておいたうえで、
どう選択するのがいいのかジタバタしますよね。
岸田
うわあ‥‥おもしろいな。これは‥‥
糸井
なんかに書こうとしてるだろう(笑)。
岸田
書かない!
ぜーったい書かないですけど。
水野
いやあ、やっぱり、
有資格者としての言葉の重みが違いますよね。
糸井
でも、有資格者でなくても、
長く生きているうちに
ここまではたどり着いたと思いますよ。
水野
なるほど。
糸井
たとえばの話、
恋人同士はよく波打ち際を歩くじゃない。
岸田
はい。
糸井
波がこっちに押し寄せてきて、
キャッキャッキャッって歩くじゃない。
なぜ、あんな波打ち際を歩くの?
写真
岸田
‥‥え?
糸井
もっと砂浜側にいれば、水をかぶらないでしょう。
水野
言われてみればそうですね。
岸田
いや、なんか足が濡れて「キャー!」って、
その勢いで相手に寄りかかったりできるじゃないですか。
糸井
僕が思うに、波打ち際は歩きやすいんです。
水に濡れて、砂が固まっているから、
歩くのにちょうどいい。
浜辺側は砂つぶが靴に入ってきたり、
ゴミが落ちていたり歩きにくいでしょう。

それに加えて、海に近いからムードがあるし、
狭い道をふたりで歩くのもうれしいわけで。
で、ちゃぷっと波がかかったら多少濡れるけれど、
そのまま通り過ぎる楽しい日々もあるんだよ。
岸田
はあ‥‥。
水野
ありますよね。
波が多少かかっちゃったとしても、
気にならないというか。
糸井
そうそう。
ただ、ふたりの気構えとは関係なく、
突然波がかかっちゃうことがある。
長靴のところまで波がかかったら、
ふつう恋人たちは長靴なんて履いてないから、
どうなるんだろう。
岸田
ちょ、待って待って、ついていけない。
波って何?
写真
糸井
比喩じゃない、波ですよ。
岸田
アホになってきた、私。
糸井
まずは波で考えて。
水野
比喩じゃないですからね。
岸田
比喩じゃない‥‥ってことは、
波打ち際をただ歩いている恋人同士を想像するんですか。
糸井
そうそう、そこを歩いてみて。
水野
恋人同士が歩いています。
波打ち際を歩くのが楽しいときもあれば、
許せないときもある。
関係性によって波のとらえ方が
変わってしまうんですよ。
岸田
ああー、ただの波の話っていうことですね。
糸井
どこまでも濡れていいと思ったり、
波に飛び込んじゃう人もいるでしょうね。
女性はそれを止めるけれど、
男はバカみたいに笑って、
泳ぎに行っちゃう人もいるかもしれない。
そんな姿を見ていたら、付いていきたくならない?
岸田
私は付いていきますね。
水野
引き止める人もいそうですよね。
糸井
そこで波に入っていく男を引き止めていたら、
その関係はそこで終わると思う。
きっと、それは思いも寄らない展開だろうし、
その人の人生観や倫理観に関係なく
波に飲まれることもあるんです。
水野
あー、なるほど。
糸井
だから、まあ比喩でもなんでもなく‥‥(笑)
岸田
ん?
水野
いや、比喩ですよ。
会場
(笑)
水野
海は比喩だし、さっきの隕石の話にも近くて、
こっちがどうこうしようとしても
波は突然やってくるものだし、
自分ではどうしようもできないことですよね。
(つづきます)
2025-09-27-SAT
写真
すべての悩みは武器になる

~水野敬也と岸田奈美のLOVE相談~
「ほぼ日」で配信していた、
作家の水野敬也さんと岸田奈美さんによる
音声番組『LOVE相談』が一冊の本になりました。
思いもよらない脱線やたとえにお腹を抱えて笑い、
ときに感動して胸がじんわりとする、
ふたりの名言と独自の理論を
あますことなく堪能できる8万字です。

好きってなに?、片思いや失恋、婚活など
恋愛にまつわるお悩みを出発点に人生の話へ。
恋の悩みも人生の迷いも、
笑いながら解決できる、恋愛人生問答集です。
水野敬也と岸田奈美のLOVE相談
ポッドキャストはこちらから聴けます。
写真