| 糸井 | 気仙沼の復興計画のキャッチフレーズが 「海と生きる」に決まりましたよね。
 
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        | 田村 | 正解だと思います。 
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        | 糸井 | つまり、気仙沼のみなさんにとって 海は「敵」じゃないんですよね。
 
 あくまでも「と」なんですよね。
 
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        | 田村 | そうだと思います。 
 いま、陸前高田でも
 住民と行政との対話がはじまっています。
 
 そのなかで、さっきも言いましたけど
 行政は、
 12.5メートルの防潮堤をつくると。
 
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        | 糸井 | ええ。 
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        | 田村 | ぼくらも行政のみなさんと議論しましたが、 やはり我々としては、
 「防潮堤は必要ない、ぜんぶ高台に移転して、
 低地は、すべて農地にしましょうよ」と
 提案したんです。
 
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        | 糸井 | なるほど。 
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        | 田村 | なぜ、防潮堤を、やめてほしいか。 
 いろいろと理由あるんですが、
 ひとつには
 陸前高田の砂浜って、
 ほんとに綺麗だったものですから‥‥。
 
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        | 糸井 | ああ‥‥。 
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        | 田村 | 全面、南側に向いていまして、 夏になれば、海水浴客もたくさん来てくれました。
 
 すごく、いい砂浜なんです。
 
 そこに
 12.5メートルの防潮堤をつくってしまったら
 何百年、何千年かけて
 自然がつくってくれた砂浜の復元が、難しくなる。
 
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        | 糸井 | 大きな岩なんかを砕いて、砕いて、 そんなに綺麗な砂浜ができてきたわけですもんね。
 
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        | 田村 | それに、防潮堤をつくったとしても コンクリートって、果して100年もつでしょうか。
 
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        | 糸井 | ああ‥‥なるほど。 
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        | 田村 | どのみち、また瓦礫の山になるんです。 
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        | 糸井 | 田村さんたちは 「1000年」の単位で考えてるわけですものね。
 
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        | 田村 | 100年? 200年? わかりませんが、 けっきょく瓦礫を撤去して、産業廃棄物が出て‥‥
 しかも、また同じものを
 何百億円もかけて、つくりなおすわけでしょう。
 
 無駄なんです。
 
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        | 糸井 | そうですね。 | 
      
        | 田村 | 背の高い防潮堤をつくり、 低地にうんと盛り土をしさえすれば住めるって
 言いますけど、
 津波警報が発令されたら、
 けっきょくみんな、高いところへ逃げるんです。
 
 だったら意味ない。
 
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        | 糸井 | 陸前高田という町の「たいらさ」って、 育った人たちにとっては
 いい景色として、残したいものでしょうしね。
 
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        | 田村 | そうなんです。 
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        | 松田 | 私、今回、本当に思ったんですけれど、 防波堤や建物など、
 人間がつくったものは
 もうすべて、破壊されたんですけれど、
 岩や島は、ちゃんと残ってるんです。
 
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        | 糸井 | あー‥‥そうか。 
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        | 松田 | 自然のものは、ちゃんと生きてるんです。 
 やっぱりそれってすごいなと思うんです。
 自然にかなうものはない、といいますか。
 
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        | 田村 | 高田松原に、7万本の松があってね。 
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        | 糸井 | 奇跡的に1本だけ、残ったという、あの。 
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        | 田村 | 第一波は、けっこう持ちこたえたんですが、 第二波で、根こそぎやられたんです。
 
 で、その引っこ抜かれた松が
 津波に乗って、すごい勢いで流れてきたんです。
 
 それが、家や建物を、ぜんぶ潰してしまった。
 
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        | 糸井 | はー‥‥。 
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        | 田村 | 我々は、この敷地にいたんですが 町を流れる気仙川の氾濫が、はっきり見えました。
 
 水が逆流する速度‥‥すごかったです。
 
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        | 糸井 | それまで、気仙川というのは 町の「いい場所」だったわけですよね、きっと。
 
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        | 田村 | そうです、そうです。 7月1日、鮎の解禁日にはみんな集まって。
 
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        | 糸井 | 大好きな場所なんですね、みんなが。 
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        | 田村 | その川が、ああして逆流して‥‥。 
 そういう意味でも、
 自然にかなうことなんてできないんだから
 共に生きるという考えをしないと。
 
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        | 糸井 | この陸前高田でも 瓦礫って、もうだいぶ片付けられていると
 思うんですが、
 ぼくが本当にすごいなと思うのは
 他の地域でも
 着実に「元に戻そうとしてる」じゃないですか。
 
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        | 田村 | あ、そうですか。 
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        | 糸井 | 山元町に、スコップ団って人たちがいるんです。 
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        | 田村 | スコップ団、はい。 
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        | 糸井 | そのまま放っといたら いずれ潰すことになるかもしれない住宅の掃除を
 ボランティアでやってる人たちなんです。
 
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        | 田村 | ほう。 
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        | 糸井 | ぐちゃぐちゃになったまま、 住めるかどうかもわからない家なんて
 持ち主は
 きっと見たくもないと思うんです。
 
 怖いし、悲しいですし。
 
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        | 松田 | うん、うん。 
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        | 糸井 | それを、オレたちが完璧に掃除しますから、 綺麗になったあとに
 どうするか決めてくださいって「団」なんです。
 
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        | 田村 | へぇー‥‥。 
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        | 糸井 | 週末、午前に1軒、午後に1軒、 スコップで泥かきをして、高圧の水で洗浄して‥‥
 家主さんにお礼を言われる前に
 パーッと逃げるように帰っていくんです、やつら。
 
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        | 田村 | はー‥‥。 
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        | 糸井 | カッコいいんです。鞍馬天狗みたいなやつらでね。 
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        | 松田 | すごいですね、その人たち‥‥。 
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        | 田村 | 警察の人が、ご遺体を綺麗にしてくれるみたいに。 
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        | 糸井 | そうなんです。 
 「ここんち、潰すにしたって
 いちどは綺麗にしたいじゃない?」
 ということを
 1軒ずつ1軒ずつ、やっている人たちなんです。
 
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        | 田村 | 潰すのに‥‥ 虚しくはならないんでしょうか。 
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        | 糸井 | やっぱり、彼らも関係者が亡くなってるんです。 
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        | 田村 | ああ、そうですか。 
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        | 糸井 | だからその、なんだろう、無駄じゃないんです。 
 火葬にしてしまうんだったら
 遺体を綺麗にする必要って本当はないですけど、
 でも、絶対に綺麗にしますよね。
 
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        | 田村 | してあげたいです。 
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        | 糸井 | それと、同じだと思うんですよ。 
 死化粧というか‥‥
 日本人に特有の感覚なのかもしれませんけどね。
 
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        | 田村 | なるほど、そうですね。 
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        | 糸井 | 当初は 「やりたいんだったら、やれば」くらいの
 気持ちだった持ち主さんも
 綺麗になった自宅を見て、
 ぼろぼろと、泣いてしまうそうです。
 
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        | 田村 | そうですか‥‥。 
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        | 糸井 | で、持ち主さんにお礼を言われないうちに、 パッと集まって、ガッと掃除して、
 じゃー終わりーっつっていなくなっちゃう。
 
 何て言うんだろう、
 ずいぶんと、カッコつけた団体なんですよ。
 
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        | 田村 | ああ、そういう人たちがいるんだ。 ‥‥いいなぁ。
 
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        | 糸井 | うん、かわいいですよ、あの「若さ」は。 
 だって、ぼくら「老人」には
 なっかなか
 思いつけないことだなって思いますから。
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        | <つづきます> |