| 糸井 | ここ(高田自動車学校)は いつから営業を再開したんですか?
 
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        | 田村 | 4月21日です。 
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        | 糸井 | じゃ、震災から「1ヶ月と10日」で。 
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        | 田村 | 今回、社員の雇用を守ることができましたけど、 すんごく勉強させられました。
 
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        | 糸井 | それは‥‥。 
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        | 田村 | 仕事って何ぞや、ということが、ひとつ。 
 つまり、ここに出社している時間は
 好むと好まざるとに関わらず
 彼らは、仕事をしてなきゃならない。
 
 仲間と関わってなきゃならないわけです。
 
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        | 糸井 | ええ。 
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        | 田村 | うちの社員たちにとって、 そのことが、
 ずいぶん、救いになってるようなんです。
 
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        | 糸井 | なるほど、なるほど。 
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        | 田村 | 悲しみ、つらさ、こわさ、悔しさ‥‥ そういう感情から
 いっときでも、逃げることができている。
 
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        | 糸井 | やらなければならないことがある、という幸せは ぜったいに、ありますよね。
 
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        | 田村 | そうだと思います。 
 避難所にいて、四六時中、悲しみにくれていたら
 もう人生、やめちゃおうかなって
 考えてしまうなんてことも、あると思うんですよ。
 
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        | 糸井 | そうでしょうね。 
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        | 田村 | 職場に出てくることができる、 仕事ができるってことの、幸せといいますかね。
 
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        | 糸井 | しかも、自分の仕事で だれか喜んでくれる人がいるのを見たりしたら
 きっと‥‥うれしいだろうなぁ。
 
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        | 田村 | まさに、おっしゃる通りです。 
 仕事とは何ぞや。
 
 それは「人が喜んでくれるもの」なんだってことに
 この歳になってね、改めて気付かされました。
 
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        | 糸井 | そういう視点は、前からあったものですか? 
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        | 田村 | 震災以降、より「強く」なりました。 
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        | 糸井 | リアリティを持った、ということでしょうか。 
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        | 田村 | そうかもしれないです。 
 ああいう、つらい体験をしたということが
 「よかった」といったら
 これは、ぜったいに違うと思うんですけど‥‥。
 
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        | 糸井 | ええ。 
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        | 田村 | そこから、何かを得なければならないです。 
 そうでないと
 犠牲になった2万人近い人たちに、申し訳ない。
 何かを得て、行動していかなければ。
 
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        | 糸井 | そうですね。 
 生きているぼくたちが
 この震災から、何かを発見することができたら、
 亡くなった人も‥‥。
 
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        | 田村 | うかばれると思うんです。 
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        | 松田 | そう思ったら、ぼくらも 悔しさをパワーに変えて‥‥いけますよね。
 
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        | 田村 | そうですね。 
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        | 糸井 | さっき話に出た八木澤の河野通洋さんと この7月に会ったんですが
 そのとき彼はまだ、なんというか‥‥
 闘争ホルモンがボタボタ落ちているみたいで
 ほんと「猛獣」みたいだったんです。
 
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        | 田村 | あははは(笑)。 
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        | 糸井 | お話しぶりはて穏やかだし、一生懸命なんだけど、 でも、「猛獣」を内に秘めていた。
 
 ちょっと休ませてあげたいと、思ったくらいです。
 
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        | 田村 | そうですか。 
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        | 糸井 | でも、たまたま昨日、東京でお会いしたら 顔つきが変わっていました。
 
 やっぱり
 「平熱で続けていかなければならない仕事」が
 どんどん出てきているんだろうなって。
 
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        | 田村 | でしょうね。 
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        | 糸井 | 怒りや悲しみ、悔しさ‥‥などは 当然、あるんでしょうけど。
 
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        | 田村 | ちょっと前までは あいつ、ぼくとまったく意見が違ったんですよ。
 
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        | 糸井 | そうなんですか。 
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        | 田村 | よく、今度の地震に関して 「自然が人間に対して猛威を振るった」って言うけれど、
 自然の側からすれば
 太平洋プレートと大陸プレートが
 ちょこっとズレただけだぞと、ぼくなんかは思うんです。
 
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        | 糸井 | うん、うん。 
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        | 田村 | ようするに、何が言いたいかというと、 みんな「国家的な危機だ」みたいな感じで
 大騒ぎしてるけど、
 でも、もし、もっとズレたら
 もっともっとすごい地震が来るわけですよ。
 
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        | 糸井 | はい。 
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        | 田村 | だったら自然に逆らうのはもうやめようよ、と。 防潮堤だなんだって言わずに、高台に移転する。
 
 自然と共生しなきゃダメなんじゃないかという
 話をするんです。
 
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        | 糸井 | そうですね。 
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        | 田村 | すると、あいつは「冗談じゃない」と。 
 「みんな、地震の犠牲になってるんだから、
 俺は、陸前高田の海岸のすぐ近くに
 ぜーーーったい壊れない家を建てるんだ!」
 みたいなことを言ってたんです。
 
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        | 糸井 | なるほど‥‥。 
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        | 田村 | 言って「た」んですね。 
 津波が来てからずっと、
 ほんとに「この野郎!」みたいな感じでね。
 
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        | 糸井 | いや、その気持ちも、わかります。 
 悲しみとか痛み、そういう気持ちは残しながら、
 生き残った自分が
 「生きていく」ということにたいして、
 もういちど前向きになる‥‥、
 そういうふたつの局面を
 みなさん、生きているんだと思います。
 
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        | 田村 | 津波てんでんこ、という言葉がありますでしょ。 
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        | 糸井 | ええ。 
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        | 田村 | 津波が来たときには、他人のことも大事だけれど、 まずなにより
 自分の命を自分で守んなきゃいけないって言葉。
 
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        | 糸井 | はい。 
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        | 田村 | 今回の津波が来るまで、 我々は、「津波てんでんこだぞー」って、
 ただ、そう言うだけだったんです。
 
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        | 糸井 | ええ。 
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        | 田村 | ところが、今回の津波で、 その言葉の意味が、本当にわかったんです。
 
 我々の経営者のうちには、
 「みんな、逃げろーっ!」て社員を先に逃がし、
 結果的に、自分がいちばん後になって
 亡くなってしまった仲間もいます。
 
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        | 糸井 | はい。 
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        | 田村 | かたや、ぼくの友人は、津波が来るというときに 社員といっしょに逃げたんですが
 まだ、うしろに逃げ遅れた社員が3人がいて、
 彼らを亡くしてしまうんです。
 
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        | 糸井 | ‥‥うん。 
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        | 田村 | 彼は、すんごく自分を責めました。 
 「何であのとき、
 彼らに声をかけられなかったんだろう。
 何で、いっしょに逃げるぞって
 呼びに行かなかったんだろう」
 
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        | 糸井 | はい。 
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        | 田村 | だから、ぼくは、彼に言ったんですね。 津波てんでんこ、という言葉を知ってるだろと。
 
 「津波が来たときには
 自分の命は自分で守んなきゃいけない」って
 言い伝えられてたやないか、と。
 
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        | 糸井 | はい。 
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        | 田村 | 彼の行動は、ぼくは、絶対に正解だと思う。 
 だって、もし彼が声をかけに行っていたら、
 たぶん、彼も亡くなってます。
 
 そうしたら
 誰が、そいつの会社を経営するんでしょう。
 生き残った従業員を、誰が雇うんでしょう。
 
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        | 糸井 | 亡くなっても、生き残っても、 こころに矛盾や葛藤を抱えるのであれば‥‥
 「ぜんぶ、正しかった」って
 言うしかないと思う。
 
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        | 田村 | ‥‥そうなんでしょうね、きっとね。 
 <つづきます>
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