食べものの道すじがわかる人。──サブレのひとくちに隠れていること──

ほぼ日 HOBONICHI

兵庫県養父市(やぶし)の自然豊かな山あいに
「le fleuve(ルフルーヴ)」という
お菓子の工房が建っています。
そのオーナーシェフである上垣河大さんとほぼ日が、
一緒にサブレを作りました。
かわいらしい動物のかたちをした、
黒豆、栗、黒糖、全粒粉の4種類です。
ひとくち食べると、
口いっぱいに素材の豊かな風味と
心地いい食感が広がります
それは思わずじっと見つめてしまうほど。
どうしてこんなにおいしいの? 
そのわけは、山あいの工房を訪ねて、すぐにわかりました。
たとえば4つの味はすべて
使う小麦粉まで違うことなどなどなど‥‥。
上垣河大さんのプロフィール

鶏の餌から作るわけ

──
今日は工房にお邪魔させていただいて
ありがとうございます。
上垣
こちらこそ、
遠くまで来てくださってありがとうございます。
ちょうどうちの鶏たちに
ごはんをあげる時間なんですけど、
つき合っていただいてもいいですか。
僕の日課なんです。
──
ぜひ拝見させてください。
上垣
僕が作っているサブレには、
この子たちが生んでくれた卵を使っています。
餌も僕が作っていて、
地元のヌカと麦、牡蠣殻、魚粉、
醤油の絞りかす‥‥大豆や麦からできたもろみですね、
これらを混ぜ合わせてます。
──
お味噌っぽいというか、
すごくおいしそうな香りがします。
上垣
いい働きの菌を入れて、
発酵させたものを食べさせてるので、
鶏たちの腸内環境もいいんですよね。
だから、鶏舎も臭くないんです。
──
びっくりするくらい、臭くないです。
鶏舎も広くて、鶏たちも元気そうですね。
近くに寄ってきてくれて、かわいいです! 
上垣
この鶏舎は平飼いのために父が建てたものなんですけど、
なるべくストレスがかからないようにスペースを取って、
大切に育てています。
でも、鶏たちにとっては
充分広いとは言えないと思うので、
日中は外に出して放し飼いにしてます。
──
あの餌を食べてるなら、
さぞおいしい卵なんでしょうね。
上垣
畑で野菜も作ってるんですけど、
この鶏たちの糞も堆肥にしているので、
餌から管理するのが
本当のオーガニックじゃないかなと思っています。
──
卵、餌、糞を野菜に‥‥。
さらにここでは養蜂もされているとか。
上垣
はい、山の方に巣箱を置いています。
採蜜量は年によって変わりますけど、
だいたい年間で200kgくらいですかね。
あとは自分たちが食べる野菜も少し作っていて、
足りないものは、
近くの農家さんから買ったりしています。
本当に自然が豊かな場所なんです。
──
上垣さんがお菓子の道に進まれようと思ったのは、
いつ頃からでしょうか。
上垣
えっと、話せば長くなるんですが‥‥、
最初のきっかけは小学校の高学年くらいかな。
学校に行くことの意義がわからなくなったんです。
みんなで同じ勉強を同じ時間にすることや、
テストの点だけで成績が決められることに
違和感を感じてしまって。
その頃は体調を崩すことも多かったので、
学校を休んだり、
調子のいいときには家業を手伝ったりしながら
日々を過ごしていたんですけど、
19歳くらいの時に、
「そろそろ自分が一生続けたい仕事を見つけたいな」
と考えはじめました。
父が農家で職人なので、
その影響もあったと思いますが、
いずれは手に職をつけたいなと。
──
最初からパティシエになろうとは
思われてなかった? 
上垣
はっきりと目指していたわけではなかったですけど、
料理もお菓子も、
作ることも食べることも大好きでした。
職業として意識しはじめたのは、
今もうちで採れた蜂蜜を買ってくれているお客さんで、
大阪の街なかで人気のケーキ屋さんを経営している
オーナーシェフが養蜂見学に来られたときです。
お菓子の材料から真剣に考えられているんだなと、
職人の面に気付かされたんですよね。
「菓子職人」と言いますけど、
ケーキ屋さんって、
職人なんだなぁと思って。
──
「職人」という仕事に惹かれていらっしゃったんでしょうか。
上垣
そうですね。
ここ、養父市の大屋(おおや)という街では、
「うちげぇのアート」いうイベントを30年近くやっていて、
近くに住む作家さんたちみんなで古民家を一棟借り切って、
家具職人が作ったダイニングテーブルを置いたり、
書道家の書やアーティストの絵、
陶芸家の器を展示販売しているんです。
うちの父も蜂蜜を売るので、
僕も毎年、店番をしながら職人さんたちに触れていて、
彼らのことをかっこいいなぁと思って眺めていました。
──
素敵な環境ですね。
上垣
それから製菓の道に足を踏み入れたのが
20歳のときなんですけど、
きっかけは、
うちの蜂蜜を納品している
旅館の女将さんとの会話だったんです。
その女将さん、チョコが大好きな方で、
僕も家でチョコレートを作ってるんですって話したら、
「チョコを勉強したいなら、近くにいい人がいるじゃない」
って、
京都・福知山で「洋菓子マウンテン」を経営する、
水野直己シェフの話を聞いたんです。
──
それから、水野さんのところで修行されることになったんですね。
上垣
はい。
水野さんは世界中のショコラティエが腕を競う
「ワールドチョコレートマスターズ2007」で、
日本人として初めて優勝された方で、
2009年に先代から店を継ぐ形で
マウンテンのシェフ・パティシエに就任されました。
僕はちょうどその年の夏に、
水野さんのところへ「働かせてください」と言いに行ったんです。
僕が作ったチョコを2種類持って行って
食べてもらったんですけど、
「もうちょっとで売りものやな」
と言われたのは覚えています。
──
すごい褒め言葉ですね。
じゃあ、無事合格ですか? 
上垣
はい。
最初は家業もあったので、
アルバイトから雇っていただいて、
「3年後に移転して店を大きくするつもりだから、
社員で来てみるか」と言ってもらって、
2012年にできた新しいお店のオープニングスタッフとして、
看板商品のショコラを担当させてもらいました。
(つづきます)
2025-09-25-THU

基本材料から最適なものを吟味。
ぜひ食べ比べて、
サブレの奥深い世界をご堪能ください。

「ほぼ日のおかし」シリーズに
おいしいサブレの詰め合わせが登場します。
兵庫県養父市(やぶし)のお菓子工房
「le fleuve(ルフルーヴ)」の上垣河大さんに
この季節にあわせた味覚の
オリジナルサブレを作っていただきました。
かわいらしい動物のかたちをした、
りす、アルパカ、くま、ハリネズミ。
この4種類はそれぞれ、
卵、砂糖、バター、小麦粉の基本材料を吟味し、
まったく異なる風味のサブレに仕上げています。
ひとくち、ふたくちと食べ進めるうちに
工夫を凝らした、隠されたおいしさが顔を出しますよ。

ルフルーヴのサブレ 3.990円(税込・配送手数料別)

2025101日(水)午前11

※10月7日(火)より順次発送となります。
※常温便でのお届けです。
※賞味期間が短いため、他の商品とのとりまとめはできません。

「ルフルーヴのサブレ」
かわいらしい動物のかたちをした、
4種類の味を詰め合わせました。
  • りす

    りす
    兵庫県丹波産の黒豆コンフィを混ぜ込んだ
    タルト生地のようなサクサク食感。
  • アルパカ

    アルパカ
    自家養蜂の栗の蜂蜜と
    イタリア産の栗パウダーを合わせた
    風味豊かなサブレ。
  • くま

    くま
    沖縄県今帰仁産の黒糖の、
    コクと香ばしさがアクセント。
  • ハリネズミ

    ハリネズミ
    兵庫県豊岡産の全粒粉を使った、
    ホロホロ食感。