ものすごくひさしぶりにスタンダードなポロシャツをゼロからつくったものがたり。 ものすごくひさしぶりにスタンダードなポロシャツをゼロからつくったものがたり。
当たり前のものを、いちから考え直し、
ベーシックなものを再考察・再構築しようという
「ほぼ日」内のプロジェクト「直線と曲線」がおくる
「ファーストキャップ」に続く第二弾は
「ファーストポロ」。
そう、ポロシャツです。

キャップは、かぶったことがない人や、
似合わないと思っている人にこそ、
というテーマがありましたが、ポロシャツもおなじ。
おしゃれ着にしたいのに、
なんだかスポーツウェアっぽくなっちゃうなあ、
それに、身体の線が出るから‥‥、
と思っている人にこそ着てほしい。

「直線と曲線」のメンバーには、
ポロシャツにうるさいのがそろっておりましたが、
その声を拾いあげて、機能的、かつおしゃれに、
そして「きちんと」した印象で
着られるポロシャツを、2型、つくりました。
夏に着るものですからね、機能面も考えましたよ。
(だから、インナーもつくっちゃいました!)



文=武井義明(ほぼ日)
01 じぶんが着られるポロシャツがほしい。
「ほぼ日」ポロシャツ史。
もう誰も覚えていないかもしれないし、
「ほぼ日」の古参乗組員であるぼくですら
それを持っていないんですが、
「ほぼ日ストア」(という屋号)ができて
最初の商品のひとつがポロシャツでした。



それまでも、実験的にロゴTやフリースのパーカを
つくって販売したことはあったんですけど、
「ロゴに頼らず本気でクリエイティブな商品をつくるぞ!」
と立ち上げた「ほぼ日ストア」で、
2001年3月に発表し、4月に販売を受け付け、
6月に商品の発送をしたのが「HOBOP&HOBOT」
(ホボップアンドホボット)という
ポロシャツとTシャツだったんです。
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このとき、どうしてポロシャツだったのか、
当時のことをはこう書いています。





「ねぇ、ポロシャツってさー、
あんなに着ていたのに、いつのまにか、
みんな着なくなったよねぇ」と、ぼくが言いました。
家のなかに古着としてキープされたポロは、
たくさんあります。
「東京糸井重里事務所」は、数年間にわたって、
毎年お中元にはオリジナルのポロをつくっていたので、
それだけでもたくさんあるのです。
なのに、なぜ、ぜんぜん着なくなってしまったのか?
考えても、スカッとした答えはでませんでしたが、
こんなにナイガシロにされた期間が続いたら、
もうそろそろ着たくなるよねー、と、
ぼくは力説しはじめました。
そういうポジションのものや人に、ぼくは弱いのです。
(2001年4月4日のコンテンツより)
「ちょっと今は流行ってないけど、じぶんは着たい」が
このときポロシャツをつくった理由だったのですね。
そうか、そういう時代だったかも。
そしてたぶん、今も、そうなのです。



「HOBOP」は細い綿糸で織った鹿の子素材で、
デザインはユニセックス、
S・M・L・XL・ELの5サイズ展開でした。
色はチャコールグレーとオリーブのふたつ、
前立てのグログランテープや
URLの入ったオリジナルボタンとボタン糸は、
ポロの地色によって色を変えており、
首もとにはおサルのシルエットのタグ、
身頃の右には「only is not lonely」のタグがつくという
なかなの凝りようでした。
その後、「ほぼ日ストア」では
ポロシャツをいくつかつくっています。



2003年の「ほぼ日」5周年のときにうまれた
「最良のふつう(BEST STANDARD)」という
コンセプトで、商品づくりを「キャラっぽいもの」から
「ちょっと大人っぽく」シフト。
このとき発表したのが「B.S.P.」
(ベストでスタンダードなポロシャツ)で、
5周年記念のロゴマークを胸に刺繍、
白とネイビー2色で展開しました。
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このポロシャツも、とってもベーシックなつくり。
2007年に展開した「センチメンタルテリトリー」では
刺繍を替えて発売しています。
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しかし、このころから、
「ほぼ日」のものづくりの軸足は
だんだんとTシャツへかたむいていきます。
それでも、2008年の「acousticT」では、
ファッションデザイナーの
平武朗(たいらたけあき)さんといっしょに、
「アーガイルポロ」を、
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2009年の「SUPERVINTAGE」では
「おんぷのポロ」をつくりました。
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そして2011年の「わたしのTシャツ」には、
2つの素材のポロシャツが登場。
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そこからしばらくポロシャツの製作はなく、
2022年「O2」(というブランド)でカトーの加藤さん、
グランマ ママ ドーターの宇和川さんの
手をお借りしてつくった「メンズリラックスポロ」
直近の「ほぼ日」のポロシャツでした。
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‥‥と、いう歴史はさておき。
今回「直線と曲線」でつくるポロシャツは、
そんな「ほぼ日」ポロシャツ史を、
まったく! 前提としていません。
それは2024年5月のある日、
企画のあつまりで
「いいポロシャツ、ほしいなー」
と言いだしたのがきっかけです。
その言葉に湧いた一同。
「じゃあ、ほんとにほしい
ポロシャツをつくろうじゃないか!」と、
それぞれが「理想のポロシャツとはなにか」という
個人的な意見を出しあいました。



子どもの学校行事などに着て行くのに、
1枚で様になるきれいめのポロシャツがほしい。
「これぞ!」というものを持ってないから。


(中肉中背白髪日焼け男子)



襟があるので、Tシャツじゃちょっと、
という場にも着て行けるから助かっている。
大きすぎず、けれどもほどよいゆったり感が
あるものが着たいと思う。


(長身痩せ型文系男子)



好きなブランドが出しているものを着ているが、
年齢とともに体型が目立つようになった。
とくに胸や腹の「凸」が隠れたらいいのに。
そして夏は汗じみも気になっちゃう。
ひいては、においも気になっちゃう。


(太めよく食べ男子)



肩幅が広いので白いポロを着ると「体育教師」のような
スポーティすぎる印象が出ちゃうから着たくない。
そういう印象が消えるなら、ぜひ着たい。


(もと体育会系長身女子)



わたしも教師っぽくなっちゃう。
おしゃれなポロシャツというものがあるなら着たい。


(中肉中背双子の母)



好きで着ているけど、スポーティ寄り。
ちょっとエレガントなものに憧れがある。


(小柄・活発な文系女子)
たしかにポロシャツって便利なんです。
襟があることできちんとした印象が出るから、
仕事でも着られるし(会社・職業によりますけれど)、
スラックスにジャケットやブレザーを組み合わせれば
そのきちんとした印象はいっそう強くなります。
ちょっとした飲食店に着て行くのもOKですし、
組み合わせ次第で、たとえばデニムやショートパンツで
カジュアルなコーディネートも楽しめます。



「そういえば、社内に、
かっこよくポロシャツを着ている女性がいる」
と、が言いました
そう言われてみればそうだ! です。
彼女が着ていたポロシャツは、
肩が落ちて袖口が広く、
丈がショートで身頃はワイドでオーバーサイズぎみ、
襟元をわざと抜いて
(襟を通常の位置よりも後ろにずらして)
着ているすがたが、とても涼しげなのです。
訊くとそれは、とある国産ブランドのオリジナルでした。
そうか、デザインされたポロシャツもあるんだなあ、
こういうこともポロシャツづくりの
ヒントになるかもしれないと感じました。
そもそもポロシャツってなんだ?
ポロシャツとは、ニット(織物)素材で、
折襟がついていて、
ボタン(あるいはジッパー)で留める
プルオーバー型(被って着る)シャツのことです。
この起源には諸説あるんですが、一説によると──。



ポロシャツは、もともと馬に乗ってプレイする
英国の球技「ポロ」で着用されていた
ニット素材の丸首シャツを参考に
ラコステさん(あの「ラコステ」の創業者である
フランスのテニス選手だったひと)が
1927年にテニスの試合で着るために
襟を付けたのがはじまりだそう。
といっても当時のポロ競技に
決まったユニフォームはなかったそうなので、
たまたまそのときの試合ではそれを着ていたのを
ラコステさんは見たのでしょうね。
ところがそれが英国や米国の
テニス選手のあいだで人気となり、
ラコステさんは1933年に
一般向け(テニス、ゴルフ、マリンスポーツ向け)に
ポロシャツの販売を始めます。
そのときの名前はポロシャツじゃなくって、
「シュミーズ・ラコステ」(=ラコステシャツ)。
やがて英国のポロ競技でも着られるようになって、
「ポロシャツ」と呼ばれるようになったらしいです。



ポロシャツが世界にどーんと普及するきっかけは
1972年、米国ブランド「ポロ ラルフローレン」が
ポロ競技に興じる人と馬のシルエットを
胸に刺繍したポロシャツを販売したこと。
‥‥と言われているんですが、
それより前から、ポロシャツってわりと、
日本でも一般的な男性服や男児服として
1960年代からけっこう普及していたみたいですね。
昭和40年代のそういう写真が、
わが家の古いアルバムにありました。
幼少期のぼくを肩車する父もポロシャツ姿でした。
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それはともかく、その後、
ラコステ、ポロ ラルフローレンをはじめ、
フレッド・ペリー、ベネトン、などなど、
大きなブランドがポロシャツをつくり、
これはもうすごく普及していきました。
最近ではCOMME des GARÇONSが
「PLAY」というハートマークの刺繍がついたラインで
ポロシャツを世界的にヒットさせていますし、
ダイワピア(DAIWA PIER39)という、
釣具メーカーがつくったアパレルのポロシャツは
知るひとぞ知るヒット商品になっているんだそうです。
有名なセレクトショップも、それぞれ
オリジナルやコラボでポロシャツをつくっています。
「ぼくらも、ポロシャツ、つくりたいねー」と
気持ちは一致したものの、
現在の「ほぼ日」のアパレルは、
どこかのメーカーやブランドと組んでつくるのが一般的。
でも「直線と曲線」チームはオリジナルがつくりたかった。
素材も、かたちも、ぜーんぶ吟味したかった。
しかしその知識と技術を持っているものはいません。
すると、そこに強力な助っ人が──!
(つづきます)
2025-07-15-TUE