劇団セルフタイマーへようこそ!
作品鑑賞会#1 10秒後、舞台の幕があがる。
 
5月某日、「ほぼ日」の会議室をギャラリーにして、
「劇団セルフタイマー展」が開かれました。
「なにごと?」と集まってきた乗組員たちが、
興味深げに展示作品を鑑賞しているところへ‥‥
「劇団セルフタイマー」座長にして、
演出、監督、出演までこなす、糸井重里の登場です。
糸井 こっちで呼んでるっていうから来たんだけど‥‥
これは‥‥どういうこと?(笑)

観覧客A しっかりと作品を見ながら
お話をうかがいたかったので、
こういう展覧会のスタイルにしてみました。
糸井 はああーー、そうですかぁ‥‥。
いや、これならたしかに話しやすいかもしれない。
「劇団セルフタイマー 展」っていう、
このタイトルもちょうどいいと思います。

観覧客B ありがとうございます。

えー、みなさま(観覧客たちに向かって)。
たまたまギャラリーに居合わせた幸運なお客様に、
ご紹介させていただきます。
「劇団セルフタイマー」、座長の糸井重里さんです。
観覧客一同 (拍手)

糸井 ありがとうございます。
こんなことになるとは思いませんでした。
観覧客A なんと本日は、
ご本人によるガイダンス付きで
劇団の歴史を誕生から解説していただこうと思います。
では座長、お願いします。
観覧客一同 (拍手)
糸井 よろしくお願いします。
観覧客B こちらが、記念すべき旗揚げ公演。
いちばん最初の作品ですね。

 

げきだん。

かわいい犬を愛でる
やさしいおじさん、です。
でも、これはお芝居です。
犬とおとうさんは劇団をつくりました。
「セルフタイマー」
というものを使うことで、
お芝居ができるようになりました。
<『ブイヨン豆知識(未刊)』より>

2013/02/02 12:10


観覧客C 場所は、どこでしょう?
糸井 これは青山の公園です。散歩の途中ですね。
観覧客A このときなぜ、
セルフタイマーでの撮影をやってみようと?
糸井 ベンチがこのように並んでいたからです。
観覧客B ベンチ‥‥?
糸井 「ベンチにカメラを置くことができるなぁ」って。
そう思いついたのが、まあ、きっかけでした。
観覧客C カメラを置くところがあったから。
糸井 思いつきはそんなものなんですよ。

この写真の注目すべきところはここです。
ここの部分を拡大して
よく見ていただけばわかるのですが‥‥。
一同 (ぐっと写真に近づいて見る)
糸井 顔を、手で持ってますね。
一同 (笑)
観覧客A 持っている(笑)。
糸井 なにしろ女優が、どこを向くかわからないんで。
一同 (大笑)
観覧客B 主演女優が(笑)。
観覧客C 動かないように(笑)。
糸井 劇団の公演ですから、
なにか形を作らないとと思うんですけど、
どうにもならない。
観覧客D 女優は自然体ですから(笑)。
糸井 どうにもならないんで、こう、
「こっちだよ」と、顔を持った。 
それが、最初の作品でした。

 

げきだん・せるふたいまー。

おとうさんとの劇団は、
まだ続きますよ。
こんどは、すべり台でのお芝居です。
いっしょにすべろうと誘われましたが、
犬がいやがったので、
抱っこということになりました。
<『ブイヨン豆知識(未刊)』より>

2013/02/04 11:17

観覧客A そしてこちらが、2作品目。
糸井 また別の公園ですね。
観覧客B やはり散歩の途中で。
糸井 ええ。
これはですね、この、ぼくの視線の先あたりに、
お父さんと子どもがいたりするんです。
一同 (笑)
観覧客C みんなの公園ですからね。
糸井 そういう方々がいらっしゃると、
やっぱりむずかしいですよねぇ、「劇団行為」が。
観覧客D 劇団行為(笑)。
観覧客A 視線が気になりますか。
糸井 それよりも、いい方が多いので、
「シャッター押しましょうか?」と言われたりします。
観覧客B ああー(笑)、見るに見かねて。
糸井 でも、そうやって撮っても、
それは「劇団セルフタイマー」ではないですから。
観覧客C なるほど。
「シャッター押しましょうか?」
という親切にはどう答えているんですか?
糸井 「ありがとうございます大丈夫です。
 こういう遊びなので」
一同 わはははははは!
観覧客A 感謝しながらも毅然と(笑)。
糸井 ええ。

で、この写真のときはですね、
カメラを置く場所が低かったんです。
だから低い位置でカメラをのぞきこんで、
写る範囲を確認するのはたいへんなことでした。
観覧客A たいへんそうです。
糸井 あと、写る範囲に入るためには、
こう、グッと、グッと腰をおとさないといけない。
観覧客B 全体的にこの、腰を落とした姿勢が多いですよね、
「劇団セルフタイマー」の作品は。
糸井 ええ。
観覧客B このポーズを
「セルフタイマーポーズ」と呼んでもいいですか。
糸井 ご自由に。

なにしろですね、
フレーミングしてるときに自分はいないんですから。
どのくらい写るかはわからないんです。
一同 ああーー(深くうなずく)。
糸井 でも、このすべり台の
このあたりまでが写るっていうことはわかってる。
だからそれを意識して、ちょっと屈んで。
で、女優も動きにくいポーズにしないといけません。
観覧客A 押さえ込んでますね。
糸井 押さえ込んでません、抱きしめています。

で、いいですか?
セルフタイマーを10秒にセットした。
覚悟をした。
カメラがぶれないようシャッターをそっと押した。
走った。
フレームにおさまるようにグッと屈んだ。
っていうあいだは、
ずーっと、これ、犬と一緒にいるんです。
一同 そうかぁー(深くうなずく)。
観覧客B 女優がすべり台のところで待ってくれてるわけではない。
糸井 それは無理です。
シャッター押したら(実際に動いてみせる)、
犬と一緒にササササッと走って、
犬を、拾う‥‥

糸井 グッと、屈む‥‥

糸井 シャッターが‥‥‥‥おりる!
一同 すばらしいーーーーー!(拍手と笑い)
観覧客B 流れるような動き!
観覧客C いまのを、10秒のあいだに。
糸井 10秒。
10秒後に舞台の幕が一瞬あがる。
観覧客D カシャッと。
糸井 「劇団行為」っていうのはやっぱり、
その瞬間の、こう、出たところで、バーン! と。
観覧客A 毎回毎回が、かけがえのない本番の舞台である。
糸井 そうです、そうです。
それはちょっと、
劇団員になりたい方には覚えておいてほしいですね。

(つづきます!)
2013-06-04-TUE
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
ほとんどのカメラについているのに、 たぶんあんまり使われていない機能、「セルフタイマー」。 糸井重里は、これに着目。 「劇団セルフタイマー」を設立しました。 それはつまり、孤独にがんばる撮影活動。 一座の公演は「気まぐれカメら」で発表されています。 主演女優、ブイヨン。監督・出演、糸井重里。 タイマーセットで本番スタート! 走れ! レンズを見よ! 周囲の目は気にしない! この、ペーソスあふれる活動を、みなさんもいかがですか? 劇団セルフタイマーは団員を募集します。 とはいえ、ほんとに人を集めるわけではございません。 「セルフタイマーで撮った写真を投稿する」、 それが団員になるということなのです。 さぁ、あなたも、タイマー・セーット!