| 糸井 | 
        いちばん雑に聞かせてください。 
          こういう本を書いているルディーさんは、 
          お金について、どんなことを考えていますか。           | 
      
      
        | ルディー | 
        あの‥‥基本的にお金大好きなんです(笑)。           | 
      
      
          | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん(笑)。           | 
      
      
        | ルディー | 
        わたしがお金がほしいのは、 
          使いたいと思っているからです。 
          だからわたしは買いたいものを見ると 
          報酬系(*)が 
          活性化してると思うんですね。  
           
          *報酬系とは、欲求が満たされたり、 
           満たされることがわかったときに、 
           ヒトに快感を与える脳の神経系のこと。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん。           | 
      
      
        | ルディー | 
        本にも書きましたけど、 
          結局人間にとって、お金というのは、 
          数百万年まえの類人猿にとっての、 
          食べ物とまったくおんなじなので、 
          実験でもわかっていることなんですが、 
          お金が手に入るっていうと、 
          報酬系が、すごく活性化します。 
          何か物を買いたいとき、 
          欲しい物があるときも 
          報酬系が活性化するんですけど、 
          値段を聞くと、こんどは、 
          痛みを感じるっていうか 
          嫌悪感を感じる島皮質ってところが 
          活性化するわけです。           | 
      
      
          | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん(笑)。           | 
      
      
        | ルディー | 
        で、ある程度実験してみると、 
          人にはやっぱり、タイプがあって、 
          浪費家っていうのは、 
          この痛みを感じるところが、 
          あんまり活性化しないらしいんですよ。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        弱いんだ。           | 
      
      
        | ルディー | 
        で、お金を貯める人は、 
          お金を貯めること自体で、報酬系が活性化する。 
          だから、思ったんですけど、もしかして、 
          お金を貯めるのが好きな人の 
          ン十万年前の先祖は、 
          狩の分け前の肉をすぐに食べちゃわないで、 
          一所懸命保存方法を考えて、 
          干し肉にして、洞窟に干して、 
          何本貯まったってよろこんでた 
          人たちじゃなかったかと。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        絵で見えますね(笑)。           | 
      
      
          | 
      
      
        | ルディー | 
        買い物って、報酬系と、 
          痛みや嫌悪を感じる島皮質と、 
          どっちが強く活性化するかによって、 
          買う買わないを決めているんです。 
          脳の仕組みはこんなに単純なのに、 
          なぜか、わたしたちは、 
          自分たちがもっと複雑だと思っているんです。 
          例えば、今度の経済危機もそうなんですけど、 
          ややこしい金融商品を作ったじゃないですか。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        はいはい。           | 
      
      
        | ルディー | 
        それはコンピュータで、 
          確率とか、リスクとか、 
          いろいろ計算して作ったんですけど、 
          普通の人間には、わからないんですよ。 
          確率とかリスクとか。 
          実感できないんです。 
          わたしたちは、 
          あくまで手に得られるかもしれない金額に 
          興味があるだけなんです。 
          その結果として、結局、 
          欲張って、リスクを考えずに、 
          たくさん買ってしまう、投資してしまう。 
          そういうことじゃないかなぁ、と思います。 
          脳の判断システムは大昔のままなのに、 
          実はコンピューターでしか計算できないような 
          金融商品を作りあげちゃったことが 
          たぶん問題だったんだと、 
          アメリカでも言われてるんです。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん。           | 
      
      
        | ルディー | 
        今日、お金の話というので調べ事をしていたら、 
          イスラム教で禁止している「利子」って、 
          向こうの言葉では 
          「自己増殖」って意味合いがあるそうです。 
          つまり、遊んで、ただ預けて増やしたり、 
          お金を貸して利子を稼いじゃ 
          いけないっていうことなんです。 
          わたしは、やっぱり、お金って 
          それが基本じゃないかなと思ってるんですね。 
          お金を預けるだけで、何も努力しなくても 
          お金がお金を生むっていうことで、 
          あまりにたくさんの金利を 
          稼いだりっていうのは、 
          いけないと思うんですよ。 
          だから、あまり、そういうのに手を出さない、 
          というのが、わたしの考え方です。           | 
      
      
          | 
      
      
        | 糸井 | 
        自分では手を出さない。           | 
      
      
        | ルディー | 
        そこまでのお金がないんですけどね。 
          でも、お金、なくったって、 
          出す人いるじゃないですか。 
          うまい話だとか言って。 
          それは、やっぱり、 
          いけないんじゃないかと思うんですね。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        景気が悪くなるとあやしい商売が 
          いっぱい出てきますよね。 
          ときどきメールもらうんですけど、 
          「遊んでてもお金が入る方法があるよと 
           友だちから、誘われてます」 
          っていう人がいるんです。 
          たぶん、そういうのが 
          流行ってるんだと思うんですけど。           | 
      
      
        | ルディー | 
        はい。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        そういうときって、その人は、 
          何にもしないのにお金が入るんだよ、 
          っていうのを、 
          素敵なこととして語ってるんですね。 
          で、それを聞いたときに、 
          素敵なことに聞こえない人と、 
          何もしないで入るのか、素敵だな、 
          って思う人と、 
          2種類いるんだと思うんです。 
          で、だいたい人は 
          そこを行ったり来たりしてるんじゃないかと。 
          ルディーさんの話を聞いてると、やっぱり、 
          理解できるところにまで噛み砕いてしか、 
          人は、理解できないんですよね。 
          だから、そうとう複雑に 
          みんな、いろんなこと語ってるんだけど、 
          根本はものすごく単純な、 
          人が考えることの集合が、 
          えらいことを起こしてるんですよね。           | 
      
      
          | 
      
      
        | ルディー | 
        はい、そうだと思います。 
          例えば、石器時代の人類の前に 
          動物の死骸が転がっていたとしますね。 
          ああ、うまくいったらこれ食べられる、 
          と思ったら報酬系が活性化するんですけど、 
          腐りかけてるかもしれないから、 
          食べたら死んじゃうかもしれないと考えたら、 
          嫌悪感を生む島皮質とかが活性化するんです。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        うん(笑)。           | 
      
      
        | ルディー | 
        で、どっちが勝つかってことなんですけど、 
          そういう原始的なシステムを使って、 
          現代人はお金の投資の判断をしているんです。 
          根本的に、やっぱりどこかまちがってる。 
          だから、投資の判断をするときは 
          単純に考えたほうがいい。 
          自分が読んでてわからないような 
          細かい字の注意書きが 
          いっぱいついているような投資話は、 
          やっぱりまちがいだと思うんですよね。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        うんうん、おもしろいなぁ、それは。           | 
      
      
          | 
      
      
        | ルディー | 
        アメリカで、経済危機のあと、 
          なんで人間はこんなにお金に狂わされるんだ、 
          っていう、お金の研究がすごくなって、 
          神経経済学の人たちも、 
          一所懸命お金のこと研究してるんです。 
          そのなかに、マネーイリュージョン、 
          貨幣錯覚っていうのがあるんですね。 
          たとえばインフレ率が2%で、 
          お給料が3%上がると、 
          1%は得じゃないですか。 
          反対にデフレになったときに、 
          デフレで物価が3%下がったから 
          お給料2%下げますと聞かされたら、 
          実質はまったくおなじなのに、 
          絶対上がったほうがいいと思うじゃないですか。 
          これは、どこで実験しても同じ結果が出るんですが、 
          理屈ではわかっていても、 
          人間の頭では、 
          上がったほうがいいと考えるんですね。 
          それは報酬系の一部に、 
          そういうときに 
          すごく活性化するところがあって 
          それがやっぱり、とにかく、 
          「そんな計算なんてどうでもいい。 
           実質とか名目なんかどうでもいいから、 
           お給料上がったほうがいい」と判断する。 
          それから、日本じゃ応用できない実験ですが、 
          「1ドルもらいたいですか、 
           100セントもらいたいですか」 
          って聞くと、 
          1ドルは100セントで同じなのに、 
          100のほうが大きく見えるんで、 
          そのほうが報酬系が活性化して 
          「100セントもらいたい」と答える。 
          つまり、さっき言ったように、 
          腐った肉を報酬系が求めてるから食べるか、 
          それ食べたら死んじゃうかもしれないから 
          やめようって言っている島皮質の意見を聞くか、 
          どっちを取るかとおんなじこと。 
          100セントと1ドル、 
          名目と実質、どっちがいいのか、 
          その単純なことすらも、 
          理屈ではわかっていても、 
          100セントのほうが、 
          報酬系の一部が活性化しちゃってるんですよ。 
          そして、名目賃金が上がることを人はよしとする。           | 
      
      
          | 
      
      
        | 糸井 | 
        ああ‥‥。           | 
      
      
        | ルディー | 
        それを考えると、人の脳は、 
          複雑な金融商品に、 
          対処しきれてないんだと思うんですよね。 
          コンピュータは、 
          対処してると思って、作ってますけど。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        うんうんうんうん。           | 
      
      
        | ルディー | 
        マネーイリュージョンが、 
          結局は今度の経済危機を招いた 
          元でもあるっていうふうに、 
          言われたりしてるんです。 
          やっぱり、人は、お金に対して、 
          進化したと思ってるかもしれないけれども、 
          全然、進化してないと思います。           | 
      
      
        | 糸井 | 
        その話は、それだけ整理されると 
          ものすごくわかりやすいですね。 
          ぼくは、それとは全然ちがうことで、 
          最近、恐る恐る話しかけてることがあって。 
          それは「人は本を読んでないんじゃないか」 
          ってことなんです。 
          自分でも、いっぱい本買ってるけど、 
          買ってるときに、いちばん脳が活性してる。 
          読み始めておもしろいっていうのも、たしかだけど、 
          必要だと思って買ってる分量の方が 
          読んでる分量よりも、何十倍も多いわけだから、 
          オレでもこのぐらいしか読んでないって、 
          ほんとのこと、オレは知ってるわけですよね。 
          アンケート取ったり、 
          出版点数がどうだとか、 
          電子書籍で読んだら読み心地がいいとか 
          悪いとかって言ってるけど、 
          パッケージを買ったときに、 
          いちばん本との付き合いがあって、 
          読み終わったかどうかっていうのは、 
          紙でも電子でも、同じなんです。 
          電子書籍って読み終わったことないんだよね、 
          っていうこと言ってるのは、 
          前から紙の本のときにも 
          最後まで読んだことないんだよ、 
          って、考えるべきじゃないかなって。 
          お金の話も、けっこう似てますよね。  | 
      
      
          | 
      
      
        |   | 
        (つづきます) |