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ねぇねぇ、そこもとたちはさぁ、 自分の苗字って、好き? |
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は? |
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それがしはさぁ、 あんまり好きじゃないんだよねぇ。 だってさぁ、「茂木」だよ? 「木が茂る」だよ? これ、絶対、武士じゃないよねぇ。 |
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その例にならうならば、 拙者も「永遠に田んぼ」でござる。 |
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それがしなどは「石と川」でござる。 川に石がゴロゴロしてござる。 |
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その点、「松の本」っていうのは なかなか風情じゃないですか? |
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でも、どっちかっていうと 公家っぽいというか、 武士っぽくはないよねぇ。 |
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武士っぽい苗字がよかったの? |
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武士っぽい苗字がよかったよーーー。 ‥‥むっ! やい、そこの番頭! |
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へい、なんでございましょう! |
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そのほう、名をなんと申す! |
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おそれながら、 「武井」と申しまする。 |
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「武井」の「武」は、 「武士」の「武」ではないか! |
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め、めっそうもございません! 手前などは駿府のしがない 和菓子屋のせがれにすぎませぬ。 どうか、お目こぼしのほどを‥‥。 |
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ならぬ! 「武士」の「武」の字をいただきながら、 ご公儀への忠義を軽んじ、 日々、食道楽におぼれるとは何事か! |
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近頃は倹約につとめてござる。 昼食はお弁当にござる。 ジムにも通ってござる。 |
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‥‥武井さん、のってきましたね。 |
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‥‥設定さえ決まれば、 どんな小芝居もこなす人ですよ。 |
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‥‥あっぱれでござるな。 |
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あな、口惜し! それがしの苗字に「武」の文字あらば、 天命に邁進し、何事かなしえんものを! |
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おだまりなされ! 茂木殿には、まだ、 とっておきの策が残ってござるぞ! |
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まことか! 申せ、申せ。 |
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お嫁入りあそばせ! |
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むきーーー! |
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‥‥なんだこりゃ。 |
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‥‥さっさと「大徳川展」について しゃべりましょうよ。 |
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‥‥今回で終わりですしね。 |
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お嫁入りあそばせ! お嫁入りあそばせ! |
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むーーー、どこぞに、 白馬に乗ったお世継ぎはおらぬかのぅ‥‥。 |
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‥‥‥‥で、なんでしたっけ? |
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「大徳川展」、「大徳川展」。 展示内容についてしゃべってる途中。 |
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‥‥もう、自分の設定が よくわからなくなります。 |
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しっかりしてください。 |
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ええと、まだ語ってないものは‥‥。 |
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武井さん、活版印刷の展示に 見入ってなかった? |
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ああ、そうそう。 活版印刷が古くからあったことは なんとなく知ってたんですけど、 家康の時代に活字があって、 出版事業まで手がけていたというのは けっこう驚きました。 |
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しかもこの活字、字体が、 現代とあまり変わらないんですよね。 保存状態もすばらしくて。 |
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そうそう。 あと、なんていうんでしょう、 活字のキレイさっていうのかな、 「こういう字が美しい」とされている 理想のようなものが、 現代のそれと変わらないことも 興味深かったですね。 |
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「美人の基準」とかって、 時代によって大きく違うといわれてますけど、 文字のキレイさは、 昔もいまも変わらないんですね。 |
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うん。 いわゆる教科書に出てくるような文字が 家康のころから活字になってるんですよ。 |
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ああ、それはほら、 源流が中国にあるからじゃないですかね。 中国にね、書聖と呼ばれている 「王義之」っつう人がいてね、 その人の字がいちばんキレイだと されてるんですよ。 で、その字が楷書の模範なのよ。 |
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へぇ〜。 |
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くだけた口調で なかなか学のあることを言ってますね。 |
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この人は、妙なところに教養があるんですよ。 |
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たまにほめられると照れくさいので、 活版のイラストを出しておこう。 |
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‥‥出さないほうがよかったですね。 |
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そもそもなんでモギちゃんが イラストを描いてるの? |
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いまごろそんなこと言わないでよ! |
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まぁ、イラストはさておき、 文字のことでいうと、 なんとも味わい深い書を 書いた将軍がいましたよね。 |
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五代将軍、綱吉ですね。 |
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そうそう! 味写ならぬ、「味書」! なんだっけ、「ジャムシ」? |
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そうそう、「ジャムシ」! |
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「ジャムシ」じゃありませんよ、 「思無邪(おもいよこしまなし)」です。 |
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右から読ませるんですよね。 |
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でも、パッと見、「ジャムシ」! |
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イラストにするとこんな感じ。 |
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ええと、これは、 イラストのせいもあるんですが、 イラストのせいだけじゃなく、 なかなか味わい深い書なんですよね。 |
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ま、ぶっちゃけ、つたない字であると。 |
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ぶ、無礼な! |
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でも、これは、上手じゃないよねぇ。 笑っちゃったもんね。 |
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下手というよりは、かわいらしい感じ? |
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そうそう。 ほんとうに「よこしまなし」な感じ。 綱吉って、犬将軍の人でしょ? |
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そうです、そうです。 肖像画も展示されてあったんですけどね、 なんか、「犬公方」として有名なわりには、 冴えないというか、印象の薄い感じで、 あの「ジャムシ」とあいまって、 味わい深かったですね。 ちなみにぼくは奈良出身なんですけど、 綱吉は法隆寺にずいぶん献金してくれた人なので 「味わい深い将軍」として、 今後はちょっと味方していきたいなと思いました。 |
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将軍様の肖像画を 私なんぞがイラストにするのは たいへん僭越ですが、 職務上、提出させていただきます。 |
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‥‥‥‥あんまりだろう、これ。 |
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‥‥‥‥あと、なんでバストショットなの。 |
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つべこべ抜かすと、鯉口を切るぜ? |
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‥‥ともかく、徳川綱吉さんは 味わい深い将軍様でした。 ちなみにこの肖像画も法隆寺蔵。 |
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将軍の書でいうと、 ぼくは家光のこの書がよかったですね。 |
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これですな。 |
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本物はもっといいんです、 ということはおいといて、 興味深かったのは、添えられていた解説で。 「三代将軍家光というのは、 『生まれながらの将軍』として育った人で のびやかな書を数多く残している」 って書いてあったんですね。 つまり、その育ちのよさとか、豊かな環境が この書には表れていると。 なぜなら、家光って、 生まれたときから将軍だったから。 |
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あーー、なるほど。 「生まれながらにして将軍」って 家光が最初だったんですね。 |
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そうそう。 おじいちゃんの家康が 将軍になったのは晩年でしょ。 その子の秀忠も、ある日突然 お父さんが将軍になって お世継ぎになったわけだけど、 家光からは、生まれたときから 「将軍家の世継ぎ」なんですよ。 そんなふうに思ったことなかったなあと思って。 |
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今回展示されているものも、 家光の時代のものが多かったですよね。 きちんと「家柄を残す」ということを 意識していた人だったのかな。 |
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家康が礎となった「徳川幕府のシステム」を 完成させた人が家光ですからね。 |
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参勤交代、鎖国の完成‥‥。 |
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家康の肖像を、狩野探幽に 山ほど描かせてたのも家光でした。 |
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いろんな家康を、 ものすごい数、描かせてましたね。 |
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しかも、東照大権現様として 神格化して描いてましたよね。 あれは、つまり、徳川のご威光を 知らしめるために描かせたんですかね。 |
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じゃないですかねぇ。 ようするに、おじいちゃん(家康)を 神様にしちゃうと、幕府としては、 なにかと都合がよかったんでしょう。 |
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そのあたりも、家光は おじいちゃんの意向をわかってたんでしょうね。 ゆくゆくは、地方地方の殿様の床の間に 権現様の肖像画を飾らせたかったんだろうね。 |
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それが一般家庭にまで普及すると、 キリスト強の十字架のように 信仰対象にまでなるわけだろうし。 |
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ああ、なるほど、なるほど。 |
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いちおう、描いとく? 権現様も? といいつつ、こんな出来映えでゴメン‥‥。 |
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‥‥笑わせようとしてるだろう! |
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‥‥狩野探幽の絵を 模写する身にもなってくれい。 |
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この展示会、全般にいえることなんですけど、 その品の、美術的な価値というよりも、 歴史的価値、意味としてすごいものが たくさん、展示されてますよね。 |
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うん、うん。 |
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とくに、茶道具とかは、 まあ、ぼくらに美術的な価値が わからないというのもあるけど、 「誰が誰にどう贈った」みたいな意味がすごい。 |
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とくに、あれがすごかったですね、 千利休の茶杓! 銘は「泪」! |
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そう、あれ! もう、ほんとうに、シンプルな、 茶杓なんですけどね。 |
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これですな。 |
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いや、いまイラスト出さないで‥‥。 |
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しかし、流れ上、ここで出しておかないと。 |
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でも説明しづらくなるから、わぁ‥‥。 |
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千利休の残した国宝、 「泪」がこちらでござる! ドン! |
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‥‥‥‥耳かき? |
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‥‥‥‥孫の手? |
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‥‥‥‥ナナフシの死骸? |
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どうだ。えっへん! |
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‥‥ともかく、モノとしては、 非常にシンプルな茶杓なんですよ。 まあ、ここまで、棒っきれじゃないですけど。 |
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失敬な。 |
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ところがこれには言われがあって、 つまり、千利休が秀吉に 切腹を命じられるわけですね。 で、千利休の最後の茶会で用いられたのが このシンプルな茶杓なわけです。 それが、その場に居合わせた古田織部に渡る。 この、一切の流れが「国宝」なんです。 |
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しかもそれが、最終的には 徳川に渡っているというのがすごいよねー。 |
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けっきょくさぁ、 戦国武将が後生大事に持ってたものって、 ほとんど、家康公が回収してるんですよ。 なんつったって、「召し上げる」わけですから。 |
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「召し上げ〜」! |
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「それもこれも召し上げ〜」! |
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「その都度、召し上げ〜」! |
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‥‥どうして武井さんは 「召し上げ〜」だけ、のるんですか。 |
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なんか、好きなのよ。 |
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ともかく、あの時代のお宝って、 ある意味、権力の象徴だからさ。 権力のもとに集まってくるんですよ。 そのおかげでこんな展示会もできるわけです。 |
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その流れの顕著なのがあったよ。 ええと、これこれ、この茶入。 |
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銘は「新田」ですな。 これは、描きやすそうだ。 |
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‥‥ただの容れ物だ。 |
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‥‥風情もへったくれもない。 |
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‥‥召し上げたくない。 |
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まあ、絵はともかくですね、これは、 千利休が「天下の名品」と賞したもので、 秀吉の時代からお宝とされていたらしいんですが、 それを、家康が大阪城をおとしたあとに、 焼け跡を探させたそうなんですよ。 |
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へぇー! それは読んでなかった! |
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すごいね、それ。 「あの茶入れがあるはずだ!」って? |
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そうらしいですよ。 それを知ってこれを見るとね。 また、見え方がまったく変わって‥‥。 |
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‥‥あんまりよく見えてきませんけどね。 |
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‥‥よけいに、みすぼらしく見えてきた。 |
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ともかく、そういう、 「意味」の満ちたお宝なんです。 |
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力及ばず、申しわけござらん。 |
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おんなじような品が刀にもありましたよ。 尾張徳川家に伝わる「長光」。 ええと、先にイラストを出してもらえますか? |
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あ、いっそ、そのほうがいいかもね。 |
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なるほど。 |
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‥‥‥‥まあ、いいや。 この「長光」は、もともとは、 織田信長の愛刀だったそうなんですけど、 例の本能寺の変のあとで、 明智光秀が安土城から持ち帰って、 当然、三日天下の光秀のところに とどまるわけもなく、 いろんな人の手に渡って、 徳川綱吉の手に渡り、その後、 六代将軍家宣によって、 尾張徳川家に贈られたということです。 |
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うぅ〜〜〜ん、波乱なり! |
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いいねぇ。たまらないですねぇ。 |
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本能寺の変とかさ、時代劇や小説なんかで 何度となく描かれているから、 なんとなくフィクションのような よくできた作り話のような 気がしてきちゃうんだけど、 こうして実際に伝わっているものを見ると、 「ああ、明智光秀という人がいたんだなぁ」 というような、「もの」自体から、 その周辺の景色が広がってくる感じがして すごく不思議な感じがしたんです。 |
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うん。その不思議な感覚、おもしろさこそが、 この「大徳川展」の醍醐味ですよね。 |
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まさに、まさに。 |
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そのとおりにござりまする。 |
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さて、べっかむさんが うまくまとめてくれたところで、 この長々とした感激トークを 終わりましょうかね。 |
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最後にひとつ、いいですか? 能面のコーナーに、 べっかむさんがいましたよね? |
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え? |
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なにそれ? |
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ほら、この能面。 |
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あーーー! べっかむさんだ! |
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ほんとだ! |
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あやちゃん、お手柄! |
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‥‥‥‥たしかに。 |
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(おしまい) |
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2007-11-25-SUN |
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