「石川直樹さんに会ってみませんか?」
とある編集者の方が、糸井重里にそんな提案をしたのは、
秋も深まりつつあるころのことでした。

石川直樹さんは、写真家でありつつ、
七大陸の最高峰登頂を世界最年少で達成した
若き冒険家としても知られている人です。

以前から石川さんの著作や写真集に触れ、
その行動力と作品の強さに惹かれていた糸井重里にとって、
その提案は願ってもないことでした。
そして、はじめて会ったふたりは、意気投合。

おもしろいことに、
そこでふたりが交わしたことばの多くは、
「写真」について、でした。

糸井重里は、もちろんカメラマンではありませんし、
写真をきわめようと思っているわけでもなく、
カメラについての知識があるわけでもありません。
(写真が好きかどうかだって、あやしいものです)

それでも糸井は、ご存じのように
ほぼ日刊イトイ新聞のトップページに
毎日写真を掲載していますし、
この2年というもの、日々カメラをたずさえて
相当な数の写真を撮っています。

ある意味で、糸井重里にとって写真というものは、
文章に匹敵する日常的なメディアになっていました。

一方、石川直樹さんは、
「なにをどう撮るかよりも、なぜそれを撮るかが大切」
とおっしゃる方で、写真家でありながらも、
相手の写真に対する知識量や、
権威のようなものをまったく気にしない方でした。

「びっくりしたときに撮るんです」
「ぼくもそうですね」
「どこに使うとかは関係なく、
 撮りたいから撮る。
 それがすごく大切なような気がして」
「その意味では、東京を撮るのも
 白クマを撮るのも変わらないのかもしれない」

写真については、まったくレベルの違うふたりでしたが、
石川さんと糸井は、写真について、カメラについて、
多くのことばを交わしあいました。

そして、自然と、
「今度、ふたりで何か撮りましょうか?」
ということになったのです。

選ばれたのは、上野公園。
10月の、あるおだやかな木曜日に、
ふたりは愛用のカメラを持って集まりました。

そして、上野動物園のそばの広場から、
ふたりは撮りはじめました。
とくに決めごともなく、段取りもなく、
ただ、ふたりは、撮りはじめました。

※これらの写真は、同行したほぼ日乗組員が撮影したものです。

撮った写真をどうするのかさえ、
はっきりと決まってはいませんでした。
けれども、ふたりは、互いに、
「らしい写真」を何枚も撮影し、
後日、その写真を見せ合ったときには
たいへん興味深い「写真談義」が展開されたのです。

次回から、上野公園でふたりが撮った写真を
少しずつ掲載していきますね。
もちろん、それらについて語られたことばとともに。

あ、そうそう、言うまでもないと思いますが、
糸井の写真については期待しないでくださいね。
「パシャパシャ撮ってたら、こんなものが撮れた」という
例の「気まぐれな」スタイルを貫いてますから。

それでは、次回をお楽しみに。

2007-11-26-MON
   
 


石川直樹・著

出版:リトルモア(2007/11/16)
160ページ
ISBN-10:4898152252
ISBN-13:978-4898152256
価格:¥3,045(税込)

石川さんがとくに強い興味をもって、なんども訪れている、
北極圏の写真集です。
その場所に立ったときに石川さんが感じた、
おどろき、おそれ、好奇心や、
さらには風の強さや寒さまで感じとれる気がする、
リアリティに満ちた写真がいっぱいです!




写真集『POLAR』からよりぬいた写真で構成された、
展覧会も開催中です。
大きくプリントされた写真の迫力と、
空間をぜいたくに使った会場の雰囲気を、
ぜひおたのしみくださいね。



石川直樹「POLAR」
2007年11月16日(金)−12月22日(土)

SCAI THE BATHHOUSE
12:00-19:00
日・月・祝日休廊
入場料:無料

110-0001 東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
Tel:03-3821-1144
Fax:03-3821-3553
URL:http://www.scaithebathhouse.com/
Mail:info@scaithebathhouse.com
JR山手線 日暮里駅南口より 徒歩6分



目黒区美術館で、目黒区ゆかりの若手作家を取り上げた
展覧会「目黒の新進作家―七人の作家、7つの表現」を
開催中です。
石川さんは、フランス南部の洞窟住居を撮影した
最新作を展示していらっしゃいます。

場所:目黒区美術館
URL:http://www.mmat.jp/
開催期間:2007年12月4日(火)−2008年1月13日(日)
午前10時〜午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館:月曜日(12/24(月)開館)、12/25(火)、
年末年始(12/28-1/4)
観覧料:
一般 500円/大高生・65歳以上 300円/小中生無料


第0回 ふたりが上野公園を撮った経緯
第1回 「大道芸人を見る人々」
第2回 「風車を持つおじさん」
第3回 「パンダと象と、それを見る人」
第4回 「バクや白クマなど、動物の写真」
第5回 「ぐだぐだの写真」
第6回 「石と、記念碑」
第7回 「都市のオブジェ」
第8回 「ベンチから撮る。ベンチを撮る」
第9回 「ポートレイトと、写真を撮る人」
第10回 「見たまんまの写真」
第11回 「ちっぽけな美意識を超えて」
第12回 「カメラに感謝」