ほぼ日

エ☆ミリー吉元
						マンガ原稿のある暮らし

偉大なマンガ家を父に持つ
エ☆ミリー吉元さんによるルポマンガです。
おうちにある約3万枚の
マンガ原稿を未来に遺すため、
いろんな関係者に取材をしながら、
自分なりの方法を探していきます。
家族とマンガと原画保存にまつわる
ノンフィクション・ファンタジー。
かわいい仲間たちと一緒におとどけします。

上村一夫の生原稿

登場キャラクター

※キャラクターを
クリックすると
詳細がみられます。

  • エ☆ミリー吉元
  • エホッシー
  • ケーネンレッカー
  • 今回のスペシャルゲスト 汀さん

おしえてエ☆ミリーさん!上村一夫先生について。

1940年、神奈川県横須賀市出身。
広告代理店での勤務を経て、
1967年、『カワイコ小百合ちゃんの堕落』でデビュー。
1970年代には「同棲時代」や「修羅雪姫」、
「関東平野」等の名作を発表し、
その流麗な筆画から昭和の絵師と称されましたが、
1986年に45歳という若さでご逝去。
当時、汀さんはまだ20歳でした。

私の父にとって上村先生は特別な存在で、
同い年で、出身大学も同じ、連載している雑誌も同じ。
それはもう頻繁に、
新宿で一緒にお酒を飲んでいたようです。
父は上村先生のような作品は描けない、
上村先生は父のような作品は描けないと、
互いを尊敬し合っていた仲で、
ゆくゆくは一枚絵の世界に活動を広げていきたいと、
志を共にした「同志」でもありました。

私が好きな上村作品は、
なんといっても「同棲時代」です!
若さゆえか、相手を想う気持ちで、
そこまで自分を追い込んで、思いつめて、
互いの愛を痛いほど求め合って‥‥。
共感できない私は、生きてる時代がちがうから?
でもそんな風に生きてみたかった。
男と女の激しい衝突で生まれる、
一瞬の強い光を、眩しく、尊く、美しく思う、
かけがえのない作品です。
(2年前、同棲時代の扉絵が
シルクスクリーンで刷られた大判の版画作品を買いました。
その絵が似合う女になりたい一心で‥‥)

エ☆ミリー吉元の
						ちょっとこぼれ話。

汀さんに見せていただいた原稿管理の現場は、
「こんなふうに生原稿を保存できたら‥‥!」
と感じさせる、
まさに自分にとって理想の環境でした。

空調設備、大きな書庫、
作品ごとに整理整頓された生原稿。
ああ、私もこんなふうに、
父の生原稿を管理できたらイイのに‥‥。
しかし部屋に足を踏み入れたとき、
私は衝撃を受けました。

「うちと同じ匂いだ!」

すると汀さんはニヤリと笑みを浮かべて一言。

「絶対しちゃうよね、この匂い」

汀さんの書庫と、私の部屋、
生原稿を保存するそれぞれの場所で、
整い具合には大きな差がありますが、
部屋に立ち込める匂いは、
驚くべきことにまったくもって一緒!
昔の紙特有の、ちょっと酸味のある香りに、
糊やら墨が混じった匂い。
近いものに例えるならば、
図書館や古本屋さんの匂い‥‥と申し上げれば、
みなさんにもご想像いただけるかと思います。
あの独特な「生原稿の匂い」が、私は大好きなのです。

ところで汀さんは、
上村先生のマンガが掲載された雑誌を見たとき、
その用紙や印刷の質の低さに
とても驚いたとおっしゃっていました。

「原画がこんなに美しいのに、
せっかく描いた絵が全然綺麗に印刷されてなくて、
パパは悲しくなかったのかな‥‥」

その疑問を、最近になって
私の父に投げかける機会があったとのことですが、
「そんなの気にしたことはないね。
考える時間もなかったし」と言われて、
なんだかホッとしたとおっしゃっていました。

「考える時間もなかった」

上村先生や父がマンガ家として
一番忙しい日々を過ごした70年代、
私の父は月産300ページ、
上村先生はなんと400ページ(!)。
‥‥ちょっとピンと来ない数字ですが、
要するに、ひと月あたり、
その枚数の生原稿を描いていたという、
衝撃的な事実がございます。

もちろんすべて手描きの時代。
アシスタントさんがいたとはいえ、
ちょっと信じられないですよね。
父も信じられないと申しておりました(笑)。

当然、暮らしを圧迫するほどの枚数にもなるわけです。
著者は原稿をどんどん生産して、
読者もどんどん増えていき、
マンガの人気もどんどんどんどん上がっていく、
まさに日本のマンガ史における過渡期、激動の時代。
生原稿の物質的な膨大さからは、
その時代の熱気を
いまでも鮮やかに感じとることができます。

2025-11-21-FRI

エ☆ミリー吉元の
					おしらせごと。

画俠伝カバー

筆致も劣化も生原稿の質感そのまま!
60年の画業を圧倒的なボリュームで

バロン吉元 画俠伝 
Baron Yoshimoto Artwork Archives
(バロン吉元/著・山田参助/編、リイド社刊)

バロン吉元初の画集。
マンガ家の山田参助先生と共に、
父の画業から珠玉の絵をセレクトして収録。
制作にあたり、実は個人的な裏コンセプトがありました。
それは父の生原稿が今どのような状態にあるか、
レタッチは極力行わず、発掘時の見た目そのまま、
ほとばしる筆致も、進行した劣化も、どちらも生かして、
まさに「生原稿」という字があらわすように、
原稿は生きていることを、この本を通して伝えたかった。
先行世代にとっては懐かしく、
若年層にとっては全く新しい、
バロン吉元の「技」と「美」を伝えると共に、
生原稿への思いもこめて制作した一冊です。
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