糸井重里
・怖いから、ごく近くの人にしか言ってなかったんだけど、
去年だったかなぁ、ホテルに泊まっててね、
遅めの朝に起きて歯をみがこうと洗面台の前に立ったら、
そこに新聞が置いてあるわけよ。
あれ?新聞なんて置いたっけな?
そう思ってちょっと一面をながめて日付を見たら、
今日のニュースに今日の日付なんだよ。
え、おれはいま起きたんだぞ、
新聞はドアの外に届くはずで、それがどうしてここにある?
だれかが黙って部屋に入ってきたのか、
そして新聞を洗面所に置いたのか?
ホテルの人はそんな失礼なサービスはしないだろう。
だいたい、チェーンロックもかけてあるから入れない。
では、じぶんでそういうことをしたのか?
朝刊が、ホテルのドア前に届くサービスが何時ごろなのか、
それもわからないけれど、だれかが入ってきたことよりも、
じぶんでやったという可能性のほうがあきらかに高い。
やったことの記憶がなくなっているということなのか。
これは、昔のアニメなんかでよく見た「夢遊病」ってやつ?
もしかしたら、ぼくの生活のなかに、
こういう「おぼえがない」時間がまぎれこんでいたのかも。
なにかしては、してないつもりで生きているということが、
これまでにも何度もあったとしたら、怖いよなぁ。
もともと、ぼくは「全身麻酔」というのが好きで、
「さぁ眠りますよ」の「すよ」ぐらいから時間が止まって、
「あ、起きたみたい」ということばで我に返るというのが、
なんだか不思議で大好きなのですよ。
「すよ」と「あ、」の間のどれくらいかの時間、
世界に、ぼくだけが不在なんです、おもしろいなぁ。
でも、夢遊病っていうのはなんだか困るし、怖いです。
ま、のちに落ち着いてから調べたら、
睡眠導入剤を飲んでいた影響だったらしいんですけどね。
眠りに導かれている途中で新聞取っちゃって、
その過程を忘れていたっていうことらしい。
よくお酒に酔って記憶がないっていう人がいるけれど、
あれって、原因がわかっているから怖くないのかなぁ。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
とりあえず、あのとき以来、「おぼえがない」はないです。









