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ほぼ日手帳

糸井重里

・ぼくは、戦後の豊かでない時代に生まれた人間なので、
 いろんな「たのしみ」の商品もそろってなかったし、
 たとえそういうものがあったとしても、
 思うように買えるような生活をしてなかった。

 夏休みに、いろんなところに遊びに出かけていく
 子どもたちのことを見ていると、
 いまさらながらだけれど、実にうらやましい。
 おれも、子どもに戻ってそんなふうに遊んでみたい。
 なんてことを老人のくせに思ったりもする。

 いやぁ、ぼくの子ども時代の夏休みは、
 太陽やら青空やら夕立やらプールやらという
 一通りの舞台装置のなかにいたものの、
 不思議とよく憶えているのは「なにをしたらいいかぁ」と
 日の光やら天井を眺めてぼんやりしている時間のほうだ。
 ちょうどよくともだちがいて、
 ちょうどよくどこかで遊んでいる時間も
 もちろん多めにあったのだと思うけれど、
 大人につきあってもらうような遊びは、
 ほとんどまったくなかったし、
 あいにくともだちが出払っている
 「ひとり」の時間のほうを妙に思い出してしまう。
 明るくて、暑くて、そうだなぁ、さみしい時間だ。
 マンガを読んだりもしてたし、多少は本も読んだ。
 それにしても、あの「なにもすることがない」という
 空っぽみたいな夏の時間のことは、心に染み付いている。
 ちょっと盛り気味に言わせてもらえば、
 ぼくは、主にあの「なにもすることがない」という
 空虚な時間に育てられたような気がするのだ。
 大人になってしまえば、「なにかしらやりようがある」。
 金も時間もそれなりに自力で工面できてしまうからだ。
 夏休みの子どもは、色男のように金も力もなくて、
 時間ばかりが有り余るほどある存在なのだ。
 その空っぽな時間のなかには、怖さと、さみしさと、
 得体のしれない大切な栄養分があった。
 逃げようにも逃げられずに、そこにいることが、
 なにかを思うことや、考えることをさせたのだと思える。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
実は、大人になっても、「空っぽの時間」は必要なんだよね。

昨日のコラムを読み逃した方はこちら。

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