糸井重里
・すっかり国際級のスターになったかもしれない
「市川市動植物園」の小ザルのパンチくん。
それなりに少年というか青年に近くなってきた。
いまでは、生まれて間もないもっと小さな赤ちゃんザルの、
めんどうを見たりもしているようだ。
このパンチくんのおかげで、サル山のサルたちのようすを、
ずいぶんたくさん見物するようになった。
人生のなかで、こんなにサル山を見ていたことはない。
研究するでも学ぶでもなく「ただたくさん眺める」のは、
とてもいいことだなぁと思う。
好きなものごとについて、ぼくらは「ただたくさん見る」。
なにかのためにするのでなく、ただたくさん見る。
見ていること自体が、気持ちがいいからである。
正面から見るばかりでなく、遠くからも見る。
向こうからこっちが見られないうしろからも見る。
止まっているところも見るし、動いているのも見る。
これは相手に愛が伝えたいからではない、
一方的にこっちが好きだから見ているだけのことだ。
赤ん坊や子どもたちは、そんなふうに見られている。
程度のちがいはあるだろうが、恋人とかもそうだろう。
「推し」の対象になっている人たちも、見られている。
見ている側の勝手である、気持ちがいいから見ている。
それでも、「どうしてだろう?」とか理由を探す人もいる。
探すのがたのしければ探せばいいだろうが、
理由なんか探すより「たくさん見る」をやったほうがいい。
最近の養老孟司さんのドキュメンタリー番組を見た。
病気との関係だとか、考えていることだとか、
養老さんは聞かれるたび、ていねいにことばで答えていた。
しかし、大好きな虫の標本をつくっているときとか、
虫好きのなかまといるときが、なによりたのしそうだった。
そこに理由なんかもちろんないし、
つくった標本をどう役立てるかというつもりもなさそうだ。
好きなことがあるって、いいなぁと思った。
そっちが、生きてる人のやりたいことだよね。
「なぜ」「なんのために」ということばの縄が、
ぼくらをがんじがらめに縛り付けているのかもしれない。
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