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ほぼ日手帳

糸井重里

・よく、「昔のじぶんに説教してやりたい」と冗談を言う。
 冗談でもあるけれど、本気でもある。
 ほんとうに「昔のじぶん」というのはろくでもない。
 「いまのじぶん」がすばらしいわけではないけれど、
 「昔のじぶん」に比べたら多少はましである。
 なにもかもろくでもなかったかと言えば、
 そういうものでもなく、いいところもありましたさ。
 でも、決定的に欠けていたのが「思いやり」だったと思う。

 孔子さまが、子貢に問われた。
 「一言にして以て終身之を行うべきものありや?」と。
 すると、孔子さまはほんとに一言「それ恕か」と言った。
 すごい、ほんとにひと文字だぜ、「じょ」と読むんだぜ。
 「恕」というのは「思いやり」という意味だぜ。
 なにより大事なことが、「思いやり」だと言い切った。

 その「思いやり」が、「昔のじぶん」には欠けていた。
 そういうことに、「いまのじぶん」が気づいてしまった。

 ただね、「思いやり」というのは、
 いい人なら自然に湧いて出てくる、というものではない。
 知らなきゃ、ない。そういうものでもあるのだ。
 たとえば、昔の犬は外で飼われていて、
 ほとんどの時間くさりで繋がれていて、
 寒さ暑さについてもあんまり気をつかわれてなくて、
 味噌汁をかけただけの人間のごはんの残りを食べていた。
 正直に言うけれど、「昔のじぶん」は、そういう犬に対して
 「いまのじぶん」のような「思いやり」はなかった。
 犬の飼い方とは、そういうものだと思っていたからである。
 人との関係でも、「思いやり」がない場面はよくあった。
 気づいてないままに「そういうもの」だとしていたことが、
 たくさんあったとは、後に気づいたことである。
 おそらく少しずつ気づいて、少しずつ直してきたのだ。
 「昔のじぶん」が「思いやり」を持ってなかったせいで、
 ぼくは、おそらく人を傷つけもしたと思う。
 気づくのに何年も何十年もかかったこともあるだろう。
 ひとつずつ謝ったり返したりすることもできないが、
 「いまのじぶん」は少しでも、そうでなくありたい。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
人からされて嫌なことは、他人にしないこと。それが「恕」。

昨日のコラムを読み逃した方はこちら。

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