糸井重里
・ぼくも、いつのまにか、どこに行っても
だいたい年上の役割になっていて、
先輩の先輩の先祖みたいな扱いを受けることさえある。
ま、それでも親しく遊んでもらえているからいいのだが、
もともとは、ぼくだって後輩だったはずだ。
ガキで、青二才で、若僧で、無名で、駆け出しであった。
そのころのじぶん(イトイくん)が、
じぶんにとっていちばん馴染みがあるので、
そのじぶんが、ぼく自身としては居心地がいい。
そう、昨日は荻窪でね、バロン吉元さんと初対面の日。
『柔侠伝』のシリーズなど、青年向けのマンガ週刊誌に
連載されていた作品を夢中になって読んでいたものだ。
もちろん青二才の一読者としてね。
その、あのマンガを描いていた人が、現役で活躍している。
大きな声で話したり笑ったりしている「原画展」の会場。
ぼくは、自然と20代のじぶんを思い出していた。
夜は、渋谷で「赤塚不二夫生誕90年祭」のイベント。
赤塚さんに関係していたたくさんの人が集まる。
ぼくは夜の部「JAZZバラエティ」のチケットを買った。
だって、だよ、すごいことなんだよ。
初代山下洋輔トリオの3人が集まって演奏するんだよ。
ピアノ山下洋輔、サックス中村誠一、ドラム森山威男。
おそらく、ご当人同士が会うことだって珍しいでしょう。
それが、勢揃いしてライブで演奏するって、なにそれ?!
このメンバーからしたら、いわば後輩の役どころで、
タモリさんも登場するというのもいいじゃないですか。
そして50年も前の有名な3曲は、爆発的に再登場した。
いま出来たばかりのように湯気を立てて客席を襲った。
そして、3人のプレイヤーを互いに襲いあった。
ぼくは、もう完全に、当時の若僧に戻っていた。
こんなすごい人たちの隅にいたイトイくんに戻っていた。
山下洋輔トリオ、すごい、すごかった、最高だよ。
客席のおれたち、よかったなぁ、こんな夜にいられて。
ほんとの主役の赤塚不二夫さんに感謝しつつ、
ぼくは楽屋に寄らないことにして、若僧のまま帰った。
77歳と29歳は、同じ人格のなかに並行して存在した。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
ぼくの大きな一部分は、いつまでも後輩のままで元気です。







