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糸井重里

・足の小指を、どこかにぶつけてすっごく痛い思いをする。
 たぶん、ほとんどの人が経験しているのではないか。
 しかし、あんなに痛いのに、あれほど悲しい事故なのに、
 「足の小指」という存在が矮小すぎるために、
 とても取るに足りないこととして、
 笑われておしまいになってしまうのである。
 いや、それ以上におおげさに同情されても困るのだけれど。

 プロテインシェーカーにプロテインの粉を入れ、
 そこに「おいしい無調整豆乳」を入れ、
 カルピスをほんの少し投入し、豆乳だけに、
 よくシェイクしたら、飲み口の蓋が閉めてなくて、
 あたり一面に噴水のように巻き散らかされた。
 というようなやるせなさも、だれにも共感されない。
 ほんとうに、些細なことだからであろう。
 キッチンのあちこちを拭き掃除することが、
 どれだけ「やりたくもない苦労」だとしても。

 道に小銭をぶちまけてしまう人を見ても、
 パジャマのまま鍵を持たずにホテルのドアの外に出て、
 部屋に戻れなくなっちゃったという人に会っても、
 ホットドッグのソーセージを大事に大事に残しておいて、
 最後につるんっと落としてしまった人がいても、
 じぶんの乗っているはずの飛行機が、
 空を飛んでいくのを見ている人がいても、
 だいたいは、たいしたことないおもしろい話として、
 笑ってすまされることになる。

 当人は、ほんとに悲しいし、途方にも暮れるし、
 めんどくさいことになってるし、金も時間も失っている。
 でも、おおむねたいしたことないとされるのである。
 ぼくも、無数の些細な苦しみと悲しみを味わってきた。
 どちらかといえば、それの多いほうだと思う。
 ぼくの人間としての最大の特性が「不注意」であるから。
 そのせいで、人に迷惑もかけているし、じぶんも切ない。
 だけどなぁ。笑われる程度の悲しみって、幸福のうちだよ。
 いつのまにか、そう思えるようになっていた。
 ほんとに悲しいことは、言わないし忘れようとするものな。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
あのときは悲しかったよ、と笑って言えるってすばらしい。

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