| 矢沢 | つくづく思うんだけどね、 自分はやっぱり、
 どこかミーハーなんだと思うわけ。
 
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            | 糸井 | ああー。 
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            | 矢沢 | それ、どういう意味かっていうと、 仕事のできる人、好きなんだよ、ぼく。
 たとえば、スタジオのエンジニア。
 ちゃんと音をガチっとつくれる人がいると、
 もう一気に好きになっちゃうの。
 
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            | 糸井 | 惚れちゃうんだね。 
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            | 矢沢 | 惚れちゃうの。 カッコいいー、みたいな。
 どんな分野でも、仕事のできる人が好きなんだね。
 それで、仕事のできない人、好きじゃないみたい。
 もうはっきりしてる。
 できる人に対して、好きになって、
 付き合うことによって、
 ぼくは、必ずなんか学んだんだね。
 なにか学んでるの。
 
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            | 糸井 | うん。 
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            | 矢沢 | で、ぼくね、絶対ミーハー精神、 ものすごくあるのよ。自分の中に。
 
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            | 糸井 | ああー。 
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            | 矢沢 | ミーハー精神というのが、向上心にもなるし、 自分を押し上げる力にもなってたんじゃないかなぁ
 と思うね、最近。
 
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            | 糸井 | 自分にできないことに、すっと憧れられる。 
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            | 矢沢 | そう。ミーハーってそうじゃない? 憧れることができる。すごく「憧れ」なのよ。
 
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            | 糸井 | それは、俺もそうだよ。 
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            | 矢沢 | だよね。 
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            | 糸井 | 憧れられるんだよ。 
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            | 矢沢 | 憧れられるんだよ。 そういう意味で、ミーハーなんですよ。
 
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            | 糸井 | カッコよく言えば、リスペクトする。 
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            | 矢沢 | うん、そういうことなんです。 
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            | 糸井 | 「うわっ」と思ったものに、敏感に‥‥。 
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            | 矢沢 | 反応する。ついて行きたくなる。 
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            | 糸井 | うん、うん。 
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            | 矢沢 | だから、ビートルズに ものすごく触発された自分がいなかったら
 いまの矢沢、いないですよ。
 
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            | 糸井 | そうだよね。 
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            | 矢沢 | うん。 感じ方っていっぱいあるじゃないですか。
 あ、カッコいいねーって言うだけのこともあるし、
 ‥‥なんなのこれ、鳥肌が立つこともある。
 うわっ、なにこれ、っていう。
 ビートルズは、すごかった。
 ほんとだったら、すげーなー、で終わるのに、
 俺、歌手になろうって思っちゃうんだから。
 そのミーハーさ、最たるもんだよね。
 
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            | 糸井 | (笑) 
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            | 矢沢 | それで、俺、歌手になろうと思っちゃうんだよ。 
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            | 糸井 | しかも、努力もした。 
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            | 矢沢 | もちろんするよ。 だってぼく、歌手になろうと決めてから、
 フィルム運びしてるとき、
 屋上行って発声練習やってたもん。
 「あー、あー、はぁっ」
 腹式呼吸と、腹を押し付けるようにして声を出す、
 そんなことやってたんだよ。
 
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            |  | 
          
            | 糸井 | それ、いまも活きてると思う(笑)。 
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            | 矢沢 | それで、とどめは夜汽車だもんね。 
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            | 糸井 | 夜汽車だもんね。 
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            | 矢沢 | 夜汽車に乗って、もう、行くって感じ。 
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            | 糸井 | わざと夜汽車にしたってところが渋いところだね。 そこもミーハーなんだよね、自分への。
 
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            | 矢沢 | 映画の主人公なるぐらいに熱くもう、 押し上げないとまずいのよ。
 
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            | 糸井 | 昼間、ふつうにこう乗ってたんじゃね。 
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            | 矢沢 | 昼間の電車で来たら、 俺、「矢沢」になってなかったかも。
 
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            | 糸井 | なってないよね(笑)。 
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            |  | 
          
            | 矢沢 | 最終の夜行便だから、たぶん、 行ったんじゃないかなと思うけど。
 
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            | 糸井 | それが『LAST SONG』っていう歌につながってる。 
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            | 矢沢 | だって、飛行機で行ったらダメだったんだよ、絶対。 
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            | 糸井 | ダメ、ダメ(笑)。 
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            | 矢沢 | 飛行機チケット買ってもし東京行き 羽田降りで行ったらたぶん、
 絶対もう終わってたね。
 
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            | 糸井 | あと、荷物多すぎるとまずいよね。 
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            | 矢沢 | はっはっはっは。 でも、俺たち笑いながらこう言ってるけど、
 わかるよね。
 
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            | 糸井 | わかる。 それを、見栄ともいうし、
 ミーハーともいうし‥‥。
 
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            | 矢沢 | そう。 
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            | 糸井 | 憧れる力ともいうし、映像化する力ともいえる。 あ、映像化はあるね。
 永ちゃん、いつも、こう、映像化してるでしょ?
 
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            | 矢沢 | あー、あるかもしんないね。 
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            | 糸井 | 「これ、どう映ってるだろう」っていうことを、 自分とは別に考えてるカメラマンがいるよね、ひとり。
 
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            | 矢沢 | いるよね。 
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            | 糸井 | いるいるいる。 
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            | 矢沢 | いま思えば、いま思えばよ、 8ミリカメラを手に入れるべきだったね。
 広島を出るときに。
 
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            |  | 
          
            | 糸井 | ああー。 
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            | 矢沢 | 18歳のときに。バイトした金で。 なんでもいいから中古の8ミリを手にいれて、
 あの頃のことを撮っとく。
 
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            | 糸井 | 短くていいから。 
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            | 矢沢 | もう、3分でもいいからさ。 そしたら、どうだろうね。
 
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            | 糸井 | ふふふふふ。 
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            | 矢沢 | でも、それは、いまだから思えること、 いまだから言えるジョークなんだろうな。
 実際、あのときの自分が
 バイト代つぎこんで、8ミリ買ってたら、
 いまの矢沢、いないッスよ。
 
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            | 糸井 | ほんとにやってたらまずい。 
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            | 矢沢 | まずいよ。 
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            | 糸井 | そうだなぁ(笑)。 
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            | 矢沢 | ただ、そういうことをね、こうやって、 ほんとのことと、冗談をまぜながら、
 糸井重里とおもしろく話せるから、
 まぁ、ほんとに40年、いろいろあったよなぁ
 ってことになるんじゃないですか?
 
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            | 糸井 | うん。 40周年のライブ、9月1日だっけ?
 
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            | 矢沢 | そう。 たのしみにしててよ、30曲くらい歌うから。
 
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            | 糸井 | え、前に何バンドか出るんでしょ? そのうえで30曲?
 
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            | 矢沢 | だって、3時ぐらいからやってるから。 矢沢の本編もたっぷりやるよ。
 やっぱり40周年の記念だから、
 もう初期から中期から後期から、
 みんなの思い入れのある曲。
 とくに、昔の曲を、ばーーーっとやるよ。
 片っ端から歌いますよ、本気で。
 
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            |  | 
          
            | 糸井 | たのしみだな。 永ちゃんには、そのたのしみはないんだよね。
 
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            | 矢沢 | え? 
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            | 糸井 | 客席から矢沢を見ることはできないんだね。 おもしろいんだけどな。
 
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            | 矢沢 | おもしろい? 
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            | 糸井 | おもしろいんだよ。 
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            | 矢沢 | そう(笑)。 
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            | 糸井 | うん(笑)。 ‥‥そんなところかな。
 
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            | 矢沢 | そんなところで。 じゃあ、また、会場で。
 
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            | 糸井 | はーい。 おもしろかった。
 
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            | 矢沢 | ありがとうございました。 
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            | 糸井 | ありがとうございました。 
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            | 矢沢 | よろしく。 (スタッフに向かって)
 ‥‥これ、温度、1℃下げたんじゃない?
 
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            | 糸井 | じゃーねー(笑)。 
 
 (矢沢永吉さんと糸井重里の話は
 これで終わりです。
 最後まで読んでいただき、
 どうもありがとうございました。)
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