| 木川 |
震災に関わることで、
もうひとつ、お話ししてもよろしいでしょうか。
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| 糸井 |
ぜひ聞かせてください。
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| 木川 |
震災を受けた東北エリアには、
『ヤマト運輸』の社員が約１万人います。
そのなかで、
震災で亡くなられた方は５人でした。
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| 糸井 |
５人。
そうですか。
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| 木川 |
その５人のなかで、
勤務中に亡くなられたのは１名でした。
あとの４人は、
勤務時間外で自宅にいらしたときなどに
亡くなられています。
つまり、
ヤマトの制服を着たドライバーが
現場で亡くなったのは、１名なんです。
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| 糸井 |
１名。
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| 木川 |
犠牲者が出ていますから、
もちろんよろこぶべきことではありません。
ただ、津波の押し寄せてきた現場で
あれだけの人数が働いていながら、
犠牲者が１名だったという事実。
これは奇跡的な数字だと、ぼくは思っています。
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| 糸井 |
はい。
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| 木川 |
しかも、助かった勤務中の社員たちは、
それぞれがばらばらに逃げたのかというと、
決してそうではなかったんです。
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| 糸井 |
どういう逃げ方をされたんですか。
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| 木川 |
津波で流されたセンターは、
全壊と半壊をふくめて20店ほどあります。
その、なくなったセンターの
ほぼすべてのセンター長は、
津波警報が出てから
いったんセンターに戻っています。
戻って、
そこで事務の女性とか、
他の社員を逃がして、避難させて、
それから最後に、
自分が自家用車で逃げているんです。
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| 糸井 |
それはおそらく、
ぎりぎりの行為なんでしょうね。
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| 木川 |
ぎりぎりです。
そこまで津波が来ています。
でも、逃げ切っているんですよ。
助かっている。
なぜ、助かったのか。
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| 糸井 |
なぜ‥‥。
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| 木川 |
道を知っているからです。
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| 糸井 |
‥‥‥‥ああーー！ そうかっ！！
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| 木川 |
日頃から走り回っているから、
道のつながりはもちろん、
どういうところが避難場所かも知っている。
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| 糸井 |
すごい‥‥
かんぜんに地元の企業なんですね。
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| 木川 |
そうです、
われわれは「地元」の集約なんです。
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| 糸井 |
すばらしい話です‥‥。
でもこれは、
ニュースになるネタでは、ないんですよね。
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| 木川 |
そのようですね、
助かったっていう話は、
あまりニュースにならない。
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| 糸井 |
でも、実際に聞くとやっぱり、
奇跡的にすごいニュースですね。
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| 木川 |
奇跡的です。
当初は安否確認がとれない状況が
１週間ぐらい続いていたので、
その段階でぼくは
二桁以上の犠牲者を覚悟しました。
ところが、
ほとんどの社員が逃げていた。
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| 糸井 |
いやぁ‥‥みごとです。
逃げたからこそ、
そのあとの復興にかかわる手伝いで
力を発揮できたわけですし。
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| 木川 |
そうですね、それこそ、
クロネコヤマトの生存本能が目覚めて。
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| 糸井 |
自発的に。
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| 木川 |
ええ。
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| 糸井 |
ヤマトは我なり。
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| 木川 |
そうですね。
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| 糸井 |
「自分が元気じゃないと
他人を元気づけられない」
っていう言い方をよくしますけど、
みごとに、事実として、
そういうことだったんですねぇ‥‥。
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| 木川 |
現地の社員を、
ぼくはこころから誇りに思っています。
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| 糸井 |
しびれます、ほんとうに。
それは「勇気」の話でもあるわけで。
津波から逃げるときも、
自己判断で救援物資を運びはじめるときにも。
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| 木川 |
そうですね、勇気です。
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| 糸井 |
元社長である小倉昌男さんが書かれた『経営学』を
読んでいて思ったんですけど、
あの本にも勇気のことが書かれてますよね。
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| 木川 |
書かれていますね。
日経BP社／1470円（税込）
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| 糸井 |
儲からないと言われていた個人宅配の市場で、
「宅急便」を生み出した小倉昌男さんの物語。
名著です。
この本を読みながら思ったのは、
「この人の、前に進む勇気っていうのは、
立ち止まったり戻ったりする勇気と同じものだ」
ということでした。
なんて言うんでしょう‥‥
やめる決断にも勇気がいる、というか。
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| 木川 |
ええ、わかります。
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| 糸井 |
進むにしても戻るにしても、
基本的にはその決断を
木川さんは現場に任せているわけですよね。
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| 木川 |
そうです。
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| 糸井 |
「間違ってたらおれが止めてやる」
ぐらいのお気持ちで。
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| 木川 |
いや、もう、現場に任せた時点で
止めることはできなくなります（笑）。
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| 糸井 |
あ、そうか。
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| 木川 |
ぼくは最近、
とくに若い人にずっと言ってるのは、
「何もしないで無難な道を選ぶのは間違いだ」
ということなんです。
「こうだと思ったら、思いきってやりなさい」と。
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| 糸井 |
徹底してますね。
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| 木川 |
「思いきりやって、
それで間違えたって構わない。
大丈夫。
どんどんやりなさい。
きみの失敗くらいで、
そのくらいで、経営は揺らがないから」と。
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| 糸井 |
‥‥もう、ぼくは、
ヤマトに入社したくなってきました（笑）。 |
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（つづきます） |
