| 糸井 | クロネコヤマトのDNAが、 社員にしみついている。
 つまりそれは、昔からの企業理念のような‥‥?
 
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								| 木川 | そうですね。 うちの社訓に、
 「ヤマトは我なり」ということばがあります。
 「ひとりひとりが会社の代表である」
 という意識を持ちなさい、という意味です。
 
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								| 糸井 | ヤマトと自分がイコールである、と。 
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								| 木川 | ええ。 ですから、それだけに‥‥
 また自慢になってしまいますね、これは。
 
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								| 糸井 | してください、今日はどんどん自慢を(笑)。 
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								| 木川 | ありがとうございます(笑)。 
 「被災しているヤマトの社員が
 自発的に救援物資の配送をはじめている」
 という事実を最初に聞いたときは、感動しました。
 ほんとうに涙が出ました。
 
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								| 糸井 | あー、うれしいですよね、 「ヤマトは我なり」が、
 すごいかたちで実践されたわけですから。
 
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								| 木川 | 自発的に動いた社員たちの気持ちを、 サポートしなくてはいけないと考えました。
 中途半端ではなく、
 会社として最大限のやりかたで。
 そうしてつくったのが、
 「救援物資輸送協力隊」なんです。
 
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								| 糸井 | なるほど、 そういう流れがあったんですね。
 
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								| 木川 | 現場判断で会社の車を使い、 上司の承認も得ず、勝手にことを運ぶ。
 しかも無償で。
 これはね、ふつうの会社なら、
 権限違反なんです。
 
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								| 糸井 | そうですよね(笑)。 でも、「ヤマトは我なり」であれば‥‥
 
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								| 木川 | 自己判断でやってしまっていい。 やっていいどころか、
 どんどん自発的に考えてやりなさい、と。
 とにかく現場主義なんです。
 
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								| 糸井 | 現場主義。 
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								| 木川 | たとえばいま、うちではたらく人の数は グループ全体で17万人、
 『ヤマト運輸』だけで14万人います。
 で、この建物、
 この本社ではたらく人の数が、300人弱。
 
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								| 糸井 | 割合を考えると、すごいですね、 その本社のちいささは。
 
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								| 木川 | 先日も外国からのお客様をご案内したら、 「これは別館ですね、本社はどこですか?」
 と言われてしまいました。
 
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								| 糸井 | ちいさいと思われた。 
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								| 木川 | 現場に権限を渡しているので、 本社はスリムでいいんです。
 
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								| 糸井 | なるほど。 
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								| 木川 | 14万人いる『ヤマト運輸』を、 本社が官僚組織のように全部コントロールしたら、
 おかしなことになってしまいます。
 ですから、
 かなりの権限を現場におろします。
 
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								| 糸井 | ‥‥そうはおっしゃいますが、 現場におろした権限を大きな組織で
 ちゃんと機能させるのはたいへんなことですよね。
 
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								| 木川 | そうですね、 おっしゃるとおりです。
 
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								| 糸井 | 「組織が大きくなると無理なんだよ」とか、 「ヤマトは我なりって誰もが思えるわけじゃない」
 というような雰囲気が、
 性悪説じゃなくても、ごくふつうに、
 「あきらめ」として
 会社には入ってくるものだと思います。
 でも、お話をうかがっていると
 ヤマトさんにはそれさえないような‥‥。
 
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								| 木川 | いやいや、そうでもないです。 平常時には、うちも往々にしてそうなります。
 
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								| 糸井 | そうなんですか。 
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								| 木川 | 会社が大きくなって 組織が官僚化することには、
 いつも警鐘を鳴らしてるんですよ。
 せっかく権限を渡しているのに
 行使されないことも平常時にはけっこうあります。
 でも大災害のときには
 目が覚めたように自発的になって‥‥。
 ですから、DNAは消えてないんですね。
 
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								| 糸井 | ええ。 
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								| 木川 | 現場のドライバー全員が、 「ヤマトは我なり」という意識を
 常に緊張感と共に持ち続けられるかといったら、
 それはやっぱり無理だと思います。
 でも、DNAはちゃんと持っている。
 なぜ消えないかというと、
 それはおそらく、
 何度も口にしているからだと思うんです。
 毎日、朝礼で、
 社訓を唱和するんです、全員で。
 
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								| 糸井 | ほおー。 
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								| 木川 | 一、ヤマトは我なり 一、運送行為は委託者の意思の延長と知るべし
 一、思想を堅実に礼節を重んずべし
 
 これが、しみついているんですよ。
 緊急事態が発生して、
 自分しか判断できなくなったときに、これが働く。
 
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								| 糸井 | しみついてたものが緊急時に出てくる。 
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								| 木川 | ものすごい地震が起きた。 本部に相談しようにも、電話が通じない。
 事態はどんどん悪くなる。
 仕事をしようにもそんなものはない。
 そういうとき、何を考えるかというと‥‥。
 
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								| 糸井 | 毎日やっていたことを頼りにしますよね。 
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								| 木川 | そう。 車はある。
 燃料はほとんどないけど、車はある。
 自分は元気。
 周囲では救援物資が来なくて困っている。
 そうなったときに‥‥
 「運ぶ」ということが、
 いまの自分は提供できる!と思って、
 自発的に動いたんでしょう。
 
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								| 糸井 | クロネコヤマトの生存本能みたいな。 
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								| 木川 | そう、生存本能。 ほんとうにそうです。
 
 (つづきます)
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