白井 ハイブリッドラマを使いはじめてから13年。 この素材だけは飽きることがありません。 さわるたびに「うわぁ、すごいな」って感嘆し、 製品が上がってきて、蒸気をかけたり検品していても 「これはなんなんだろう。ほんとうにすごいなあ」って 毎度感動しています。

佐伯 わたしもそう思います。 知れば知るほどにすばらしい素材で、 着れば着るほどにのめりこんでいく。

白井 22歳でアパレルメーカーに入社してから独立し、 生地と関わる仕事をつづけてちょうど50年。 この素材を超えるものに出合ったことはありませんし、 これから先もあらわれないんじゃないかって思います。

―― たくさんの生地を見てきた 白井さんの言葉は説得力があります。

白井 その代償といってはなんですが、 あつかうのがほんとうにたいへん。

―― うつくしいものにはトゲがある、 ということですね。

白井 まさにそうで、 きれいな見た目やとびきりのさわり心地に対して、 心くばりや気苦労がたえません。 裁断にしても縫製にしても問題がつねに発生するので、 どの工場からも避けられるんです。 大きなアパレル会社やブランドが使いたがるけど、 使わないのはそのせい。 だから、ひとりでやるしかない。

―― 具体的にはどんなことをされているのですか？

白井 まず生地をすべて30cmくらいの長さに切ってもらって、 一反ずつ染めて問題ないかをつぶさに確認します。 そのあとに裁断してもらい、 縫製メーカーさんで縫ってもらった製品を 色別にわけて、染屋さんに送る。 それで、染屋さんから上がってきたものを検品屋さんで、 油じみや繊維くずの混入などがないか、 すべてチェックしてもらっています。 また、製品染めをしたらぐしゃっとつぶれているので、 検品しやすいように袖や裾の端に蒸気をあて、 きれいな状態にして、たたんでわたしています。 検品してもらったものも、 仕上げ屋さんに出すときには再度きれいにして‥‥。

―― それをおひとりでやられているとなると、 途方もない時間がかかるのでは‥‥。

白井 正直に言うと「うわー！　これは大変だ！」って 毎回なっています（笑） でも、あつかい方を知らない人だと 音を上げると思うんです。

―― 苦労もいとわず、生地と長く付き合ってきた 白井さんだからこそそれがわかるんですね。

白井 たいへんなことをひとつ挙げるだけでも、 斜行する生地なので裁断すると四角にならず、 極端にいうとひし形になってしまうんです。

―― 想定するかたちどおりにならない。

白井 そう、ややズレが生じて、 ぐだぐだになってしまうんです。 それをある程度きれいに整えないと、 仕上げをしてくれる人が困ってしまう。 それがぼくより年上でご高齢の方だから、 自分ができる範囲で整えようとがんばっちゃうと、 どんどん時間がかかって自分の首をしめることに‥‥。

佐伯 それはハイブリッドラマにかぎってですか？

白井 ハイブリッドラマにかぎります。 ほかは製品染めしても問題は起こりませんから。

佐伯 できたところで、すべて工場や専門店にまかせると、 そのぶん工賃もかかって服の値段も上がりますもんね。

白井 そうなんです。 価格が跳ね上がることになってしまう。 そろそろ難しくなってきたなと思っているんですが、 買ってくれた方の感想を聞くと、 奮い立つというか、やらないわけにはいかないなって。 このあいだも、FIROをあたらしくあつかってくださった お店の方が熱帯の国に旅行にいったらしいのですが、 「長袖のロンＴを１週間ずっと着ていました」って。

佐伯 わかります！　 夜洗ったら朝には乾いているから、毎日着られるのよね。 あと、ふつうのコットンの長袖Ｔシャツに比べて シャリ感があって風が通るから暑苦しくならないし。 ただ、薄いぶん気になるのが、 ボディカラーが白だと透けてしまうこと。 だから、同じ素材で透けないインナーがあれば 安心できるなと思って、今回ベージュのタンクトップを 別注でつくらせてもらったんですよね。

―― タンクトップがはじめて登場したのが４年前。 ことし久しぶりに復活です。

佐伯 前につくったのはわたしもすごく使っていますよ。 白のシャツやＴシャツを着るときは必ずね。 ベージュはレースの服の下にもいいんです。 黒いレースのブラウスを着るときって、 同じ黒のインナーを着ると レース模様が見えなくなるでしょ。 だけど、これだとレースもきれいに見える。

―― なるほど！　 レースの柄がはっきりあらわれるんですね。

白井 ベージュは地味で売れないかなとすこし心配していたんです。 でも、佐伯さんが「売れなかったら、 わたしが女優さんに宣伝するから大丈夫」って 言っていたから安心しました。

佐伯 ふふ、そうでしたね。 そうすることもなく、みなさん買ってくださった。

―― 出た瞬間、一気に売れることはないですが、 ずーっと長く売れている感じです。 必要になったときに 「あ、そういえば〈O2〉にあったな」って 買ってくださっているのかな。

佐伯 下着と考えるとすごくぜいたくだし、 着てみないとよさは実感できない。 今回はホワイトとミッドナイトブルーもあるので、 シャツのインナーとしてはもちろん、 南国に行けばそのまま１枚でもいいし、 水着の上に着てもかわいいんじゃないかな。

白井 前のタンクトップから変わったことは、 肩幅を細くして、バインダーを太くしました。

―― よりすっきり見えて、強度が上がったんですね。 さらに、Ｔシャツもちょっとかたちが変わりました。

白井 去年のものと比べて 着丈や身幅などサイズは同じですが、 サイドのスリットが深くなりました。

―― かなり深くなりましたね。 前後差があるのもかわいいです。

佐伯 スリットがよりはっきりして、 横から見てもすてき。

―― そして春夏に人気のカーディガン。

佐伯 前立ての切りっぱなしがあたらしいですよね。

白井 同生地のバインダーしまつだと ぐしゃっと丸まってしまうので、 切りっぱなしにしました。

―― 切りっぱなしだと 逆にくるんと丸まってしまうように思いましたが‥‥。

白井 ふつうだとそうですよね。 だから、生地目、 つまり生地の織り糸の方向に対して横地でつけています。 縦地だとクルっとなっちゃうんです。 ハイブリッドラマは繊細だけど 強度がある生地だから丸まらないのもありますね。

佐伯 切りっぱなしは軽やかな感じも出ていいですね。

―― 袖丈も長めで、くしゅっとたまるのもかわいい。

白井 いままでのカーディガンは原反染めで、 ある程度きっちりした状態にして、 あまり斜行にさせないようにしましたが、 縫製後の製品染めでもきれいになったと思います。 それも染屋さんのおかげ。 現物を染めるとき色ムラがでないよう 袖のところをわきにちょこんと留めたりして 必要な個所をすべて縫っているんですよ。

―― 地道で丁寧な努力の上で成り立っているんですね。 たいせつに、でもたくさん着たいと思います！