長らく〈O2〉とFIROは歩みをともにしてきましたが、 ずっと伴走していたくなるのは、 えもいわれぬ極上の着心地ゆえ。 自分が、というより、肌が先に直感してしまう。 その心地よさに出合った日から、 毎朝つい手が伸びてしまうのです。
その心地よさには、じつは知られざるひみつがありました。 簡略化や効率化が求められる昨今にあって、 なぜあえて面倒で大変なことを続けるのか。 FIROの白井さんに聞くと、返ってきたのは 「着る人によろこんでもらうため」というひと言。
信頼を寄せる職人たちと、 手間ひまを惜しまずに生み出されるFIROの服は、 もはや“服”をこえて、ひとつの工芸品なのかもしれません。 残していきたい。続いてほしい。 その思いも込めて、FIROの“魔法”の一端を ここではじめてお見せします。
白井 賢治(しらい けんじ)
有限会社FIRO代表取締役社長。 大手アパレルメーカーにてニット製品の素材開発、 商品企画、MDなど幅広く経験したのち独立。 1998年にブランド「FIRO BIANCO UNO」を設立。 40年以上、素材と向き合った経験を活かし、 ベーシックかつ肌ざわりがいい商品をうみだしている。
佐伯 敦子(さえき あつこ)
スタイリスト/yunahicaディレクター。 編集、パリ在住経験を経て現在に至る。 美意識の高さや鋭い審美眼で、 各界のクリエーターはもちろん、 モデル、女優からの信頼も厚い。 「ほぼ日」では「CINÉ & TRAVEL」シリーズや、 「ソファみたいなスリッパ」の デザイン監修も努めていただいています。
─ 〈O2〉とFIROがともに歩きはじめて、気づけば8年。 FIROをはじめて買ってくださった方が ファンになって、次もリピートしてくださって、 減るどころか、とりこになる人が増え続けています。
佐伯 それって、ほんとうにすごいこと。 目あたらしいデザインが出たり、 毎シーズンそんなに大きな変化があるわけでもないのに、 こんなに支持が続くなんて。 きっと、白井さんが選ぶ素材のすばらしさが 理由なんだと思います。
白井 素材に助けられていますね。
佐伯 おいそれと出せる値段でもないけど、 一度「えいっ」と買って着てみると、とんでもなく気持ちいい。 それでまた次も、と思えるんですよね。
─ 迷いと踏ん切りの先に、至福の着心地が待っています。
白井 素材を選ぶときに課しているのは、 めちゃくちゃ伸びて、しっかり戻ること。 しかも、化学繊維に頼らず、天然素材だけで。 でも、そういう素材って世の中にほんと少ないんです。
─ FIROが扱うコットンやウールは、 すべて100%天然素材ですよね。
白井 はい。 もちろんパターンも重要ですが、 よく伸びてよく戻る素材であれば、 着やすいと確信しています。 だから、生地を選ぶときは、 伸びるか戻るかをつねに気にしています。
─ FIROの服は、しっかり伸びて、きっちり戻る。 それでいて、きつさを感じない。 着てきたからこそわかります。
佐伯 白井さんが選んだ素材ならまちがいない。 全幅の信頼を置いていますよ。
白井 ありがとうございます。 はげみになります。
─ この秋冬も、佐伯さんといっしょに 3つのアイテムをセレクトしました。 まず、昨冬に登場して大変好評だった 「ハイブリッドラマ4」を使った スムース編みのクルーネックプルオーバーが再登場。
白井 ハイブリッドラマの厚手版をつくりたくて、 何年も試作を重ね、ようやく4代目 「ハイブリッドラマ4」が完成しました。 強撚した綿糸を使っていますが、 本来ならかたくなりがちなところを、 原綿の質を上げ、バイオ加工を施すことで、 やわらかさを残すことができました。
─ 強くねじった糸なのに、 やわらかいのがすごいですよね。
白井 さらに、スムース編みなので、 肌にあたる裏面もなめらかです。 36ゲージという細いゲージで編んでいるので、 ツヤっと光沢のある生地感に仕上がっています。 スムース編みって、一般的には伸びやすく、 形がくずれやすいのですが、 これは強撚糸のおかげでよく伸びて、しっかり戻る。 形がくずれにくいのが大きなポイントです。
─ 形がくずれにくいのはうれしいです。
白井 伸び幅も大きくて、約2.3倍伸びるので、 着ていてすごくラクです。 しかも厚手なので、白でもほとんど透けません。
─ 次は、メリノウールのハイネックトップ。
白井 もともとFIROで展開していた ドロップショルダーのかたちから、 「肩を入れたほうが着やすい」という佐伯さんのアイデアを 取り入れ、ぐっと雰囲気が変わりました。
佐伯 セットインスリーブにしたことで、 すっきり見えるようになりましたね。
白井 丸みのあるコクーンシルエットですが、 大きくは見えないというか。
佐伯 落ち感のある生地だからだと思います。 コクーンシルエットで、 かつドロップショルダーで肩が落ちていると、 たっぷりしすぎてふくらんで見えると気にされたり、 抵抗ある方もいらっしゃるかと思うので。
白井 逆三角形っぽくなっていましたが、 肩を入れたことでベーシックなかたちに近づいて、 おさまりがよくなりましたね。
佐伯 トレンド感のあるデザイン性より、 長く着られて飽きのこない定番を目指しました。 そしてなにより、このウール。 いっさい毛玉ができないし、チクチクもしない。 この素材のワンピースを持っていますが、 毛玉にならないのをいいことに家でも着ています。
白井 毛玉、できないですよね。 なぜできないのか、ぼくも不思議に思うくらい。 ほんとうに毛玉ができないので、長くきれいに着られる。 ウールの最高傑作だと思っています。 どうしても値段は高くなってしまいますが、 これは絶対に続けなければという使命感もあって ずっと扱っている素材です。
佐伯 さわってみると「薄い」と感じる方も いらっしゃるかもしれませんが、 冬が寒すぎない昨今は、これくらいがちょうどいい。
─ ほわっとあたたかく、暑すぎないのもいいところ。
白井 FIROのインラインではラグランも展開しますが、 肩が入ったタイプは〈O2〉にしかないことを 言い添えておきますね。
─ そして最後は、おまちかねの、 ハイブリッドラマ製ハイネックトップ。 FIROを語るうえで外せません。
白井 ハイブリッドラマに関しては 語りつくしてきた感じはありますが、 言葉だけでは伝えきれない部分があるので、 今日は、ひと目見ていただきたいと型紙を持ってきました。
─ わぁ! 左右対称の型紙を想像していましたが、 まったく違っておどろきました。
白井 ハイブリッドラマは生地が大きく斜行するので、 斜行の度合いを計算してパターンを作成してもらっています。
─ 斜行。 撚った糸が元に戻ろうとする力がはたらいて、 縦横が直角にならず、 生地が斜めにゆがんでしまう現象ですね。
とくに右の脇線に大きな斜行が見られます。
斜行を見越してパターンがつくられていますので、
シルエットに影響することはありません。
白井 そう。 とくにハイブリッドラマはふつうの生地に比べて、 繊維が細くて撚りも強いから、 ものすごく斜行してしまうんです。 経験上、どれくらい斜行するか感覚的にわかっているので、 「着丈や身幅がこの長さだからこう」というのを パタンナーに伝えて型紙をつくってもらっています。
佐伯 パタンナーさんはなかなか斜行の計算までしないものね。
白井 そこから、この型紙に合わせて生地を裁断するんですが、 切った瞬間に生地がひょいっと動くからまた大変なんです。 肩の生地も斜行するので、 ちょっと後ろに重心を置かないといけなくて。
─ 右肩と左肩で形も長さも違うんですね。
佐伯 パターンって企業秘密だと思っていました。 門外不出のレシピというか。
白井 秘密ではあるんですが、 ハイブリッドラマを扱ったことがある人にはわかります。 手なずけるのがいかに大変か。
佐伯 これを見てマネしようと思ってもできないでしょうし、 面倒すぎてやらないかも。
─ これまで白井さんに何度もお話をうかがっていた大変さが、 一目瞭然でした。
佐伯 縫うのが大変、って頭ではわかっていましたが、 これを見ると納得。
白井 さらに、仕上げ屋さんも手がかかって。 きれいに仕上げようとしてもなかなかできないのが実状で。 ハイブリッドラマは最高難度ですが、 ウールは斜行が少ないのでもう少しハードルは下がりますね。 これはみなさんがイメージするようなパターンです。
─ ほぼシンメトリー、左右対称ですね。
佐伯 型紙を見比べてみると、 いかにハイブリッドラマが特異か、理解できました。 まさかここまでとは。
白井 よくおさまっているな、っていうのが正直な感想です。 生地はねじれるし、縫うのは大変だし、染めると縮むし‥‥。 こんなじゃじゃ馬な生地に 付き合っていただいている方々に感謝しています。
佐伯 高価ではありますが、理由がわかれば納得です。
白井 とはいえ高いですよ。 原料価格も上がっているから、上げざるをえなくて。 もうけは度外視とは言えませんが、 それでもFIROを続けられる最低限でがんばっています。
─ 白井さんは、なぜここまで大変な思いをされて FIROを続けているのですか?
白井 着る人によろこんでもらいたい。 ただ、それだけですね。
FIRO レディス ハイネックトップ 各¥30,800(税込)
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オフホワイト
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ネイビー
FIRO レディス 14.5マイクロンメリノ ハイネックトップ ¥44,000(税込)
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ブラック
FIRO レディス スムースクルーネックプルオーバー 各¥26,400(税込)
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オフホワイト
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ブラックネイビー