| ── | マンガ『宇宙兄弟』のムック、 『We are 宇宙兄弟』第4号に載っている
 星出さんのインタビュー記事を
 読ませていただいたのですが‥‥。
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            | 星出 | はい。 
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            | ── | 全体をつうじて 「宇宙というのはチームワークである」と
 おっしゃっていたと思うんです。
 
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            | 星出 | ええ、そうですね。 
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            | ── | 宇宙飛行士というと 1週間も閉鎖的な環境に閉じ込められた状態で
 共同作業をするテストなど
 ものすごく厳しい選抜試験をくぐり抜けるだけの
 強靭な「人間力」を持つ「個人」に
 注目が集まりがちですけど
 当の星出宇宙飛行士は、「チームワークだ」と。
 
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            | 星出 | ええ。 
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            | ── | そのあたりを もっと詳しくお聞きしたいんですが‥‥。
 
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            | 星出 | 逆の言いかたをするなら、 宇宙飛行士って
 ひとりじゃ何もできないと思っています。
 
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            | ── | というと? 
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            | 星出 | ロケットを設計してくれる人、 ロケットをつくってくれる人、
 完成したロケットを
 すみずみまでチェックして、飛ばしてくれる人‥‥。
 
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            | ── | ええ、ええ。 
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            | 星出 | 宇宙服ひとつにしたって、 誰かに手伝ってもらわなければ着られませんので。
 
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            | ── | それは、わかりやすい例ですね(笑)。 
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            | 星出 | われわれは、宇宙へ行くまでのあいだに 地上で訓練を積むのですが
 「訓練をしてくれる人」がいないことには
 宇宙で困ってしまいます。
 
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            | ── | それって「宇宙インストラクター」的な? 
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            | 星出 | そうですね、言ってみれば(笑)。 
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            | ── | その人は むかし、宇宙飛行士だった人なんですか?
 
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            | 星出 | いいえ、ちがいます。 
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            | ── | あ、ちがうんですか。 
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            | 星出 | はい。 
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            | ── | じゃ、宇宙空間でのあれこれについて 教えるプロフェッショナルが
 養成されている‥‥というわけですか?
 
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            | 星出 | ええ、じつは私も、宇宙飛行士になる前には 訓練計画をつくる側として、
 少しだけですが、関わっていました。
 
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            | ── | 自分が行ったことのない場所で起こる いろんな問題への対処法を教えるだなんて、
 すごいですね、その人‥‥。
 
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            | 星出 | ええ、すごいですよ。 
 ほかにも、
 いざ、われわれが宇宙空間へたどり着いたとき、
 ミッションのすべてを
 逐一、細かく見てくれているのは、
 「地上の管制官」です。
 
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            | ── | あ、宇宙の映画でよく見ます。 
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            |  ? 「こうのとり」2号機打上げ時の運用管制室のようす。
 写真提供:JAXA
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            | 星出 | だから、宇宙飛行士は 「地上にいる彼らと分担して作業を行う」のが
 仕事なんです。
 
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            | ── | つまり‥‥。 
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            | 星出 | 「ペイロード(積荷)を ロボットアームでつかむ」とか‥‥。
 
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            | ── | あ、「把持(はじ)」というやつですよね! 
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            | 星出 | はい、「ロボットアームでつかむ」ことを そのように言いますね(笑)。
 
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            |  SSRMSに把持された「こうのとり」2号機。
 写真提供:JAXA/NASA
 
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            | ── | ‥‥すみません、話の腰を折って。 
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            | 星出 | いえ、続けさせていただきますと(笑)、 「地上での総重量15トンの実験室を
 ロボットアームでつかんで
 スペースシャトルから引っ張り出す」
 とか
 あるいは
 「宇宙空間で、より高品質のたんぱく質結晶を
 生成する実験の準備をする」‥‥など。
 
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            | ── | ようするに「現場の仕事」ってことですか。 
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            | 星出 | そうです。 
 で、そういう宇宙飛行士の作業というのは
 地上で見てくれている
 仲間がいてはじめて、できることなんです。
 
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            | ── | まさしく、星出さんが大学時代に打ち込んだ ラグビーでいうところの
 「One for all, All for one」であると。
 
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            | 星出 | いろんな考え方があるとは思うんですが、 ぼくは
 「宇宙空間でミッションを遂行する」という
 チームとしての目標があり、
 そのためのたくさんのポジションがあるなかの
 ひとつのピースが
 「宇宙空間で活動する宇宙飛行士」
 なのだと思っています。
 
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            | ── | なるほど‥‥。 
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            | 星出 | ‥‥答えになっていましたでしょうか? 
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            | ── | はい、かっこいいと思いました! 
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            | 星出 | そんなことないです(笑)。 
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            | ── | ちなみに、 ひとつのミッションを成し遂げるための
 「チーム」には
 だいたい、
 どれくらい人数が関わっているんですか?
 
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            | 星出 | どこまでカウントするか、ですよね。 
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            | ── | ははぁ。 
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            | 星出 | つまり、ミッション遂行にあたって 地上の管制チームは、24時間体制で見ています。
 
 で、その管制チームも
 ヒューストン、ヨーロッパ、ロシア、
 日本にある。
 
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            | ── | ええ、ええ。 
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            | 星出 | 日本には種子島に宇宙センターがありますけれど、 射場で、実際の打ち上げに関わる人たちもいます。
 
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            | ── | ヨーロッパのロケットは仏領ギアナだし、 ソユーズなんかは
 カザフスタンのバイコヌールから
 発射されてますよね。
 
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            | 星出 | ロケットや人工衛星を開発・製造しているのは 日本を代表する大企業ですが、
 その一方で
 ロケットや人工衛星に搭載する装置のための
 「ネジ1本」をつくっている
 町工場の職人さんも‥‥チームの一員なんです。
 
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            |  | 
          
            | ── | ぼくたちが種子島で打ち上げを見た Hー2Bロケットは
 三菱重工が製造していますけれど、
 エンジンなど個々のパーツをつくっているのは
 広く一般には知られていないメーカーだったり、
 大小さまざまな企業が
 ロケット製造に関わっているんですよね。
 
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            | 星出 | そういうことです。 
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            | ── | 『宇宙を開く 産業を拓く』という本に 「主な日本の宇宙関連企業」
 というリストが載っていますが、
 超有名企業から町工場みたいなところまで、
 数えたら250社以上ありました。
 
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            | 星出 | 宇宙に限らないことだと思いますけど、 日本のものつくりは
 業界最高の精度を持つ中小企業の底力に、
 支えられていると思います。
 
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            | ── | ええ、ええ。 
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            | 星出 | だから、分かりませんね。 
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            | ── | え? 
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            |  | 
          
            | 星出 | チーム全体の大きさが、どのくらいかは。 
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            | ── | あ、なるほど。 
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            | 星出 | 世界中で何十万とか、そういう単位じゃないかなぁ。 
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            | ── | つまり、星出さんたち宇宙飛行士のみなさんが 仕事をする場所って、
 何十万単位の人が関わって飛ばす
 ロケットの行き先‥‥なんですね。
 
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            | 星出 | 繰り返しますが、宇宙飛行士を宇宙へ届けるのが 打ち上げの第一義的な目的ではありません。
 
 国際宇宙ステーションの建設・運用、
 さまざまな科学的実験、
 宇宙を題材にした、子どもたちへの教育。
 
 そういった目的を達成するための
 役割のひとつとして
 私たちが実際に飛んで行って作業するのだと
 考えています。
 
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            |  | 
          
            | ── | あの、宇宙空間というのは真っ暗だし、 サッカーコート1面分というほど
 だたっぴろい国際宇宙ステーションのなかに
 数名しか滞在してないし、
 ものすごーく孤独なんじゃないかと思うんですが、
 どういうときに「仲間を感じ」ますか?
 
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            | 星出 | ‥‥「つねに」ですかね。 
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            |  | 
          
            | ── | ! ‥‥つねに。 
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            | 星出 | 朝、起きてその日の作業を 地上と確認するときからはじまって、
 作業中に
 管制官と通信をしているときなど‥‥
 仲間の存在は、つねに。
 
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            | ── | 逆に、通信が途切れちゃったときとか‥‥。 
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            | 星出 | 仲間がいることを、感じていますよ。 
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            | ── | ははー‥‥。 
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            | 星出 | 前回、宇宙へ行ったとき 組み立てミッションに携わった
 日本実験棟「きぼう」は
 計画段階からカウントすると
 20数年もの時間をかけて完成したものなんです。
 
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            | ── | そんなにですか! 
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            |  STS-133クルーにより撮影された「きぼう」日本実験棟。
 写真提供:JAXA/NASA
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            | 星出 | 多くの先輩がたが、試行錯誤を繰り返して‥‥ 宇宙へ持っていくまでには
 4半世紀くらい、かかっているんですね。
 
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            | ── | へぇー‥‥。 
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            | 星出 | 私、宇宙飛行士になる前には 宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)の職員でした。
 
 入団して最初の2年間は、
 名古屋で
 主にロケットの開発に携わっていたんです。
 
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            | ── | ええ、ええ。 
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            | 星出 | で、その傍らで開発されていたのが「きぼう」で。 
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            | ── | そうだったんですか。 
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            | 星出 | ようするに、あの日本実験棟を 苦労してつくりあげた人たちの中には、
 昔から
 私のよく知ってる人たちもいるんです。
 
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            | ── | そうやって完成した実験棟を、 星出さんが
 国際宇宙ステーションにくっつけたんですね。
 
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            | 星出 | 宇宙で作業をしているあいだ中、 開発に打ち込んでいた人たちの顔が
 浮かんでいました。
 
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            |  | 
          
            | ── | それこそ「チームみんなの顔」が。 
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            | 星出 | そう。 
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            | ── | 地上400キロの宇宙空間で。 
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            | 星出 | そうです。 
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            |  ディスカバリー号から撮影された「きぼう」と「こうのとり」2号機。
 写真提供:JAXA/NASA
 
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            | <つづきます> |