糸井 |
震災があって、平さんは
これは俺がやんなきゃなんないことがあるぞ、
ということがわかった。
それで、突っ込んでいきました。
仕事とのバランスはどう取ったんですか?
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平 |
仕事はしばらくないんだろうな、ということは、
もう、覚悟しました。
デザインの仕事なんていうのは最後の最後です。
覚悟したし、実際、ありませんでした。
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糸井 |
ぜんぜん仕事が来なかった?
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平 |
大きな会社さんからの仕事は
止まらずありましたけど、
小さいところは当然、
それどころじゃなくなりました。
それはもうわかってたんで、
こうなったら、
蓄えてるお金を自分のために使うんじゃなくて、
人のために使ってみましょうと思いました。
何か目標を決めて、それより多く‥‥たとえば、
米軍が7000リットルのガソリンを寄付しました、
と聞けば、男だったら3倍やろうっつって、
僕らは2万2000リットル寄付したんです。
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糸井 |
‥‥そうなの?
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平 |
はい。石巻の赤十字病院へ。
あとは、交差点で止まってしまった車に、
その場で入れてあげたりしました。
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糸井 |
そういうことをずっと‥‥。
ガソリンは、どうやって調達したの?
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平 |
ガソリンはですね、
稲田に行って、
タンクローリーを持ってきて。
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糸井 |
‥‥タンクローリーを。
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平 |
はい。これまでの仕事づきあいで、
「タンクローリー貸して」と言うと
貸してくれる人が、やっぱり‥‥
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糸井 |
いるんだ!
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平 |
はい。
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糸井 |
それは「それまでの仕事のやり方」が
想像できますね。
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平 |
はい(笑)。
仕事でも、お友だちになれる可能性が
ある人じゃないとやらない、
という気持ちがあったと思います。
その考えの延長線上に、
いまのスコップ団のメンバーがいます。
そうやって人とつながることができたら、
できることは広がっていく。
最近は、可能性を否定しないことが
人生そのもののような気がします。
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糸井 |
ガソリンも不可能じゃない、と。
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平 |
はい、それで、新潟まで買いに。
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糸井 |
2万2000リットルをね。
そういう根性、やっぱりすごいですね。
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平 |
こっちではぜんぜん、買えませんでしたから。
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糸井 |
新潟は‥‥近いんですか、そんなに?
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平 |
遠いです。
すごく遠いです。
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糸井 |
話聞いてると、
「新潟」って、隣村みたいに言ってるから(笑)。
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平 |
遠いですよ。命懸けです。
ガソリン積んで、小国峠という、
つるつるのアイスバーンを走りました。
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糸井 |
ええ?!
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平 |
高速道路が復旧するまで
ルートがなかったので、
その小国峠を通るしかありませんでした。
ガソリンの業者もその峠を知ってるけど、
タンクローリーじゃ
滑ってしまって行けないということだったんで。
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糸井 |
危ないから。
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平 |
知ってるけど、誰も行かない。
俺たちは、チェーンはいて行きました。
つるつるの道を、車がすーっと滑り出したら
降りて押したりしました。
ガードレールに足つっぱって、押して。
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糸井 |
ガードレールに。
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平 |
ガソリン積んでますから、
ガードレールに車こすって
火花散ったら危ないので、
車のドアをあけてガードレール蹴って、
足くじいたりして。
『バリバリ伝説』なら蹴って曲がれよ、ですね。
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糸井 |
(笑)そのへんも、発想がサドンデスだね。
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平 |
死ぬかと思いました、ほんとに。
でも、あきらめなければ着く。
それがね‥‥いや、
予告して来てしまったんですよ。
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糸井 |
かっこつけて。
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平 |
「任せとけ」と。
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糸井 |
「俺がやる」と。
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平 |
「俺が買ってくっから」みたいな(笑)。
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糸井 |
言っちゃったもんだから、
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平 |
引っ込みつかないじゃん、
みたいなところがありまして。
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糸井 |
そのサバイバルゲームみたいなことは、
練習なんてできないでしょう?
ガソリン2万2000リットルなんて、
ふつうの人がふつうに暮らしてたら
運ぶことなんてないだろうし。
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平 |
ぶっつけ本番です。
でも、ま、ガードレールに挟まりそうになったら
すかさず車に乗ろうとは思ってましたよ。
死にたくないし。
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糸井 |
(笑)いずれにせよ、
どっちの選択肢も、はじめてやることですよね。
そこに妙な自信があるのが、
平さんの特徴だと思う。
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平 |
はい。俺だけは死なねぇだろうと、
信じるしかなかったので。 |