あれはもう、
十数年前のことだと思います。
その場に誰がいたかもよく覚えていません。
あるお店でのことでした。
たしか７〜８名での食事の場に、
わたし山下とさんがいました。

なにかの打ち上げのような場
だったのかもしれません。
いつも以上にみんなが
たのしそうにしていた記憶があります。

ふと思いついた山下が言いました。

「福田さん、似顔絵はどうですか？」

その後のやりとりは忘れてしまいましたが、
数分後、コースターの裏に、
「これ」が描かれていました。

周辺の記憶は曖昧なのに、
「これ」を描かれたときの気持ちだけは、
はっきりと残っています。

びみょうでした。

人気のイラストレーターさんが
自分の似顔絵を描いてくれるなんて、
うれしくて光栄なはずなのに‥‥。

ほうれい線がくっきりと描かれている。

細かなシワまで忠実に描かれている。

ヒゲも描かれている。

「え、そこも描く‥‥」という細部が
きっちりとコースターの裏にありました。
「目」に生気がないのも特徴です。

当時、その席にいた６〜７名は、
かたっぱしから似顔絵を描かれました。

が、その後、現在まで、
そこで描かれたぼく以外の似顔絵を
目にしたことがありません。

あの日の、何枚かの、
コースターの絵は、
あれからどうなったんだろう‥‥。

似顔絵を描いてもらう場は盛り上がります。
笑いにあふれます。
ただ、描かれた本人はそれぞれ、
びみょうな気持ちになるのです。

さんは似顔絵について、
繰り返し、こう発言しています。

「こういう似顔絵になってしまうので、
申し訳なくて‥‥オススメしません！」

なのに今回なぜ、これを、
大切な展覧会の最終日におこなうのか‥‥。

やってほしいとお願いしたのは山下です。

びみょうな気持ちにはなるけれど、
これは福田さんにしかできないことだから。

びみょうな気持ちにはなるけれど、
強く心をざわつかせる表現だから。

びみょうな気持ちにはなるけれど、
やっぱり、正直、盛り上がるから！！

というわけで、
福田さん自身もオススメしていませんし、
「こういう似顔絵はちょっと」
という方は、やめておいたほうがよいと思います。
（ふつうのかわいいサインも受付ます）

以上、「びみょうな似顔絵」について、
描いてもらう場合の覚悟、
というと大げさですが、
「あらかじめのご注意」のようなことを
記しました。

（つづく）