| 糸井 | 
          お金のことを馬鹿にしないっていう、 
            横石さんのそういう健康さについては、 
            最初にお会いしたときから 
            ぼくはものすごく興味があったんです。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          そうですか。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          この健康さの土台はなんだろう? って。 
            で、ある日、横石さんに訊いてみたら‥‥。 
            「カミさんが苦労したからね」って(笑)。  
           | 
        
        
            | 
        
        
          | 横石 | 
          ああー(笑)。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そこが土台だったんですよね、奥様が。 
            ‥‥今の話、わかる? 
            (同席しているほぼ日の乗組員に)  
           | 
        
        
          | ─── | 
          ええと‥‥。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そうか、あなたはまだ新しい人だから。 
            じゃあすこし、そういう人向けに話しますか。  
           | 
        
        
          | ─── | 
          お願いします。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          「葉っぱビジネス」を思いつく前の横石さんは 
            さびれていくみかん村の農協の人だったの。 
            どうしたらいいのかを考える人。 
            本気で市場調査をしなきゃならない人だった。 
            横石さんはどうやって調べたと思う?  
           | 
        
        
          | ─── | 
          ‥‥どうされたんですか?  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          いろんな料亭を食べて回ったんです。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          「いろどり」のアイデアだけはあったので。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          アイデアはある。 
            売るための葉っぱも、いくらでもある。 
            問題は消費なんだよ。  
           | 
        
        
          | ─── | 
          使われる場所が、本当にあるのか。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そう。 
            消費の現場を調べないといけない。 
            そのために横石さんは 
            食い歩きをする必要があった。 
            しかも徳島だけじゃ仕事にならないから、 
            大阪とか東京にも行かなきゃならない。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          そうでした。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          失礼な話ですけど、 
            横石さんに先祖代々の 
            遺産があるわけではないですよね?  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          ないです(笑)。  
           | 
        
        
            | 
        
        
          | 糸井 | 
          さぞかしお金が大変だったと思うんだけど、 
            横石さんにそのことを訊ねると、 
            「カミさんが偉かったんですよ」と。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          「1円も入れなくていいから、やってみろ」 
            そう言ってくれました。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          うわぁ〜。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          「充分つかってみろ」って。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          これ、講談だったらさ、 
            泣くところだよ?(笑)  
           | 
        
        
            | 
        
        
          | 横石 | 
          ぼくの思いに賭けてくれたんです。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          本当ですね。 
            で、裏を返せば、 
            「上勝はこのままじゃいけない」 
            っていう危機感が、それだけ強かったわけです。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          そうです。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          「このままだと真っ暗だ」っていう、 
            なんて言うんだろう‥‥ 
            「脱出の話」だったでしょ。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          脱出でした。 
            昔の上勝は、お金がなくて貧しかったから。 
            愚痴を言っているおばあちゃんたちを 
            笑顔に変えるための、脱出でした。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          ほんとうですよね。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          最近、おばあちゃんがよく言うんです。 
            「横石さん、若いときの苦労で 
             きびしいこともあるけど、 
             齢とって幸せになれるほうがいいな」って。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そうですか。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          なんかすごい言葉やなぁって思いますね。 
            「若いときに貧しいのも辛いけれども、 
             齢いって、社会から相手にされない、 
             お金もない、誰も自分に寄ってこないほうが 
             辛いんだよ」と。  
           | 
        
        
            | 
        
        
          | 糸井 | 
          うん。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          歳いってからの辛さを減らして、 
            おばあちゃんたちを笑顔にしたことが、 
            今度は若い人たちがやってくることに 
            つながったわけです。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そうかあ、 
            ほんとにいいニュースだ。 
            ‥‥でもこれはなかなか、 
            全国どこでもできるわけじゃないんですよね。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          そうなんです、なかなか。 
            結局、そこの人たちが、 
            自分の居場所や出番をちゃんと見つけて、 
            そのおもしろさを外に伝えなければ、 
            つながらないで終わってしまうと思います。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          うーん‥‥そこがねえ。 
            単純にロマンだ、夢だっていうのを 
            人は言いすぎるような気がするんです。 
            横石さんにしたって、 
            お金がないのに料亭に行って 
            奥さんに迷惑かけてた時代っていうのが 
            今の土台なわけですよ。 
            つまり、もうスタートから、 
            「お金」は重要だったんです。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          そうですね。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          飢え死にしなかった理由は、 
            「上手にやったから」ですか、やはり。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          どうなんでしょう(笑)。  
           | 
        
        
            | 
        
        
          | 糸井 | 
          奥さんは、 
            そういうことが得意なかたなんですか?  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          「ここは出すとき」 
            というのをよく見ていてくれましたね。 
            たとえば、誰かと打ち合わせに出かける場合、 
            大事な人と会うときには、 
            多めのお札を財布に入れてくれました。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          はあー。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          まあまあの人だったら、 
            あんまり入ってないとか(笑)。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          そういうのは、もう、采配ですよねえ。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          なんででしょうかね、あれは。 
            大事な人に会うときは、 
            表情とか感覚でわかるって言うんですよ。 
            言葉のふしぶしでも、わかると。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          いや、それはわかりますよ。 
            犬だって、本当にエサを貰えるかどうか 
            わかりますからね。 
            長くいっしょにいる者同士はわかるんですよ。  
           | 
        
        
          | 横石 | 
          「ここはお金が要るな」、 
            というときには、 
            ポーンと、こう、入ってますね、財布に。  
           | 
        
        
          | 糸井 | 
          すばらしい。 
            そこなんですよ、原点は。  | 
        
        
            | 
        
        
          |   | 
          (つづきます) |