| 都築 |
いま、ある演歌の歌い手さんを
取材で追いかけてるんですが、
どうやら健康ランドで歌われることが
多いみたいです。
お客さんはみんなムームーで、
ぼーっとしながら見てる。
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| 田島 |
ポップスの人たちも、いま
健康ランドですよ。
ボーリング場という話も聞きます。
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| みうら |
仮眠室で歌うのは、
つらいですよね。
みんなは寝たいのに。
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| 糸井 |
仮眠室なんて、そんなことあるんですか。
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| みうら |
お笑いの人は、
あるみたいですよ。
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| 都築 |
ええ、お笑いは「仮眠室」でやること、
あるって聞きます。
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| 糸井 |
アメリカでは映画の中に
そういう状況で歌ってる
ウエスタンバンドとか、いるけど‥‥
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| みうら |
ブルース・ブラザーズ的な。
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| 都築 |
酔っ払い相手にね。
だけど日本では、
100人、200人ぐらいの
ムームー姿の
いい湯かげんの湯上りの人たちが
でれーんとなってるところで、必死に歌う。
それは、不思議な光景です。
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| 糸井 |
地域の小さな会場でライブをすると、
前の人ほど
席を取るのにかんばっちゃうから、
寝ちゃうらしいですよ。
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| みうら |
早起きしたから。
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| 糸井 |
お年寄りだから。
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| 都築 |
持久力がね。
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| みうら |
でも、寝てもいいんでしょ？
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| 田島 |
いいでしょう。
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| みうら |
気持ちいいことの最終的な表現が
「寝る」ということでしょうから。
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| 糸井 |
歌い手のみなさんは、
客を起こすために
話術がうまくなったりするらしいです。
歌のあいだは
気持よくて寝ちゃうんだけど、
しゃべると起きるんだって。
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| 都築 |
ひとつの技術ですね、それは。
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| 糸井 |
いろんな時代が動いている気がするなぁ。
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| 田島 |
いま、若い子って、ライブ終わったあと、
出口でお客さんを待ってる人たちも
いるみたいですよ。
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| 糸井 |
映画のチケットだって
そういうふうな売り方に
なってきてます。
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| 都築 |
大衆演劇とか、昔からそうですもんね。
中の人が出てきて売るような‥‥。
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| 糸井 |
きっと、そういうやり方を
自分なりに発明すればいいんです。
「これは気持ちいいな」と
思えるやり方だったら
やってもオッケーなんじゃないかな。
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| 田島 |
弾き語りのライブだと、
そういうことができるかもしれませんね。
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| 都築 |
いいですねぇ。
地方のちっちゃいお店とか
たくさんありますよね、
いいところ。
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| 田島 |
そうなんですよ。
しかも、ひとりだと
いろいろ動きやすいし。
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| 糸井 |
「座布団一枚あれば」という、
落語家のステージとおなじですよね。
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| 田島 |
弾き語りは、落語にすごく似てると思います。
落語って「うまいへた」に
すごく差がありますよね。
つまり、うまい人が
パッと放ったひと言で
その瞬間の空気が変わる感じ、
あれは「歌でひと声いく感じ」と
ほとんど一緒です。
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| 糸井 |
つかむ感じが、似てるんだ。
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| みうら |
会場が小さくても大きくても
人数に応じてそれができるもんね。
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| 田島 |
そうそう。
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| みうら |
だけど、ひとりだったら
曲と曲のあいだのＭＣもたいへんですよ。
トークって、難しいですよね。
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| 田島 |
トークについては、
移動中ずっと考えてます。
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| みうら |
ライブでおなじこと言うのも、
いまはネットでバレるじゃないですか。
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| 田島 |
そうですね。
でもね、おなじこと言う人、
いまでもやっぱりいます。
すごく平気でやっておられます。
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| 糸井 |
おなじことって、
きっと芸だから、
言っていいんだよね。
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| 都築 |
歌謡曲の人だったら、
あたりまえのように
そうかもしれない。
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| 糸井 |
ぼくら、おなじことに対しての、
格闘がまだ足りないね。
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| 都築 |
そうですか（笑）。
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| 糸井 |
取材にしたってそうさ。
すごい人ってね、
おなじことを言ってるのに、
いま思ったかのように言います。
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| みうら |
うん、そうですね。
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| 田島 |
ツアーも60本、100本やってると、
もうおなじになってくる。
おなじなんですけど、
おなじでも「わーわー」してる。
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| 糸井 |
もっと言えば、何言ってるか
わかんなくても、
説得力があればいいんでしょう。
歌詞もメロディーもしゃべりもわかんないけど、
「よかった」というのがいちばんいいわけで。
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| みうら |
洋楽なんてそうですもんね。
英語の意味、わかんないですから。
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| 田島 |
それで「わーきゃー」してるんだし。
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| 糸井 |
意味のところは全部なし。
それで「来てよかった」と
思わせるというところにいるといいんだよね。
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| 田島 |
永ちゃん（矢沢永吉さん）のコンサートに行くと、
泣かせる歌のときに、
ほんとに泣かせる感じに毎回なります。
自分で歌い手やってて思うんですが、
あれはものすごく難しいんですよ。
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| 都築 |
そうなんですね。
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| 糸井 |
いつも、ほっかほかさせてなきゃ
いけないんだもんね。
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| 田島 |
そうなんです。
だけど、永ちゃんは毎回、
「チャイナタウン」になると、
しんみりくるなぁ、という雰囲気になる。
60本も100本もやってると、
なりえない、というところがあります。
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| 糸井 |
おそらく、永ちゃんは、
先に観客の気持ちになってるんでしょうね。
「トラベリン・バス」で盛り上がって
お客さんがアチチとなっているときに
ズンチャチャズンチャチャ
という演奏がどこからかはじまる。
その、お客さんがよろこぶ気持ちが
前もってわかるんです。
だから、「よかったよね」って思いながら、
チャーイナタウンって、言うんでしょう。
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| みうら |
なるほど。
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| 田島 |
先に先に読んでる。
お笑いのステージにもそういうのがありますね。
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| 都築 |
美空ひばりさんの「悲しい酒」も。
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| 田島 |
そうですね。
美空ひばりさんもすごい。
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| 都築 |
毎回泣く。
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| 糸井 |
あれは、やっぱり
お客なんですよ。
自分が歌って自分が聞いてるわけです。
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| 田島 |
歌いながら、客席にいるんですよね。
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| 糸井 |
そうだと思う。
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| 田島 |
それは、いろんなミュージシャンが
言うことなんですよ。
「会場の外に自分を置け」
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| 都築 |
そうなの？
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| 田島 |
ええ。
歌ってる自分と、
客席のいちばん後ろにいる自分と、
その会場の外にいる自分。
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| みうら |
へぇえ。
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| 田島 |
実際に歌ってて、うまくいってるとき、
だいたいそうです。
目を閉じて、自分だけで歌ってると、
ほとんど失敗するんですよ。
（つづきます） |
