糸井重里
・いつごろのことだったかも忘れたけれど、
ある友人とあれこれどうでもいい話をしていた。
彼は、才能ゆたかで、多少わがままだったり
向こう見ずなところもある男ではあったけれど、
芯のところでは気のいいナイスガイだった。
そして、異性のことではなかなかの失敗もしていた。
「おれは、いろんなことを先生や両親に教わってきたけど、
女性との付き合い方については、教わらなかったんだよ」
と、妙にしみじみと言ったので、ぼくは少し笑った。
「だれだって、そうだと思うよ」とも思ったし、
そんなもの教える人なんかいないよとも思った。
じぶんもそんなこと教わらなかったし、
恥をかいたり頭をぶつけてはそのたびに懲りて、
少しずつ覚えていくしかなかったよと言いたかった。
彼は、そういうことを「教えてもらえる」ものだと、
本気で考えていたのだろうかとも思って、
くそまじめでおもしろいやつだなぁと、
そのときのことは、ずっと憶えていた。
ずっと憶えていたがゆえに、いまごろになって、
こういうことも考えられると気がついた。
「異性との付き合い方について、
それほど差し出がましくあれこれ言うことはないが、
基本的な考え方くらいは、親とか先生とかが、
教えてもいいのではないだろうか?もしかして」と。
「自然におぼえるから、それにまかせる」として、
だれも教わってこなかったから、だれも教えられないのだ。
「異性との付き合い方」とか言うと、
すぐに「性教育」のことだと考える人も多いだろう。
ちがうのだ、性に限ったことではない。
恋愛をテーマにした小説やドラマにだけまかせておいたら、
作家の価値観がマナーやルールに置き換えられてしまう。
そうじゃくて、「これだけはしっかり守ろう」というような
「変わらぬ教え」みたいなことがあるのではないか。
「おまえは、それをわかっているのか?」と言われたら、
ぼくも、やっぱりちゃんとしたことは言えそうもない。
だけど、きっとあるんだよ、守るべき大事な約束事がね。
これを読んでる人は、どんなことを想像するかなぁ。
今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
教えてもらえたほうがいいことって、いっぱいありそうだ。






