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        | 糸井 | 今日、仮に、アンリさんのところに、 新人の革の職人さんが来て、または、
 趣味でやってる人でもいいんですけど、
 「ぼくにこれを作らせてください。
 同じものを作ってみせます。」
 って、自信を持って言ったとしたら、
 アンリさんは、やっぱり笑うかな?
 
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        | アンリ | ま、笑いはしないけれど、 真似したければ、真似したらいいじゃない
 っていうような感じですね。
 ぼくには興味がないことなので。
 なぜなら、ぼくが興味あるのは、
 「次に、何をやらなきゃいけないか」
 ということなので。
 もし、若い子が来て、
 「同じものができる」って言っても、
 もうなんとも思わない。
 やったことは、過去のことなので、
 その人は勝手にやればいい。
 
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        | 糸井 | では、どこか別の場所で修行した人と、 アンリさんのところに長くいて、
 同じものを作ろうっていう仲間とは、
 何が一番ちがうと思いますか?
 
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        | アンリ | 比較っていうのは、ちょっとできないですね。 なぜかというと、
 ぼくたちの工房でやっている経験っていうのは、
 他では絶対できないものだからです。
 世界は、ハンドメイドでやる方向とは、
 ちがう方向に行ってる気がします。
 ぼくたちのような工房っていうのは、
 たぶん、世界中どこにもないんじゃないでしょうか。
 
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        | 糸井 | ああー。 
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        | アンリ | やはり、みんな、コストを気にしながらやっていて、 時間を、時は金なりの精神で節約して。
 それも必要なものだと、ぼくはそう思いますけど、
 ただ、それだけがすべてではない。
 そういう精神を伝えるのは、
 ぼくは自分の工房ではやっているので、たぶん、
 他では経験できないんじゃないでしょうか。
 
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        | 糸井 | アンリさんのところは、じゃあ、 速くつくるっていう発想は、
 ほとんど、ないんですか。
 
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        | アンリ | もちろん、のろのろやるっていう意味ではなくて、 やはり、効率的にやらなきゃいけないってことは
 わかってますし、
 あと、無駄な時間を費やさないって気持ちは、
 持ちながらは、やっています。
 
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        | 糸井 | 実際に作ってるのを見てたら、 急いではないですよね(笑)。
 
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        | アンリ | 普段のぼくはもっと速いんですけど(笑)。 ちょっと風邪をひいてて。
 あと、みなさんに囲まれて緊張したので。
 
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        | 糸井 | はははは。 
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        | アンリ | 倍の時間がかかってしまいました(笑)。 
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        | 糸井 | ぼくがね、なんでこの 似たような話ばっかり訊いてるかっていうと、
 あれだけ、これをしてこれをして、っていうのを、
 全部発表してしまうと、
 ノウハウを全部出してしまうことになるから、
 「ここは見ないでくれ」
 とか、途中で言うかと思ったんですよね。
 そしたら、まるまる全部見せてくれたんで。
 
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        | アンリ | そのことに気がついてくれて、 どうもありがとう。
 何度も言うんですけど、
 40年、ぼくはこの仕事をやっていて、
 周りの人たちとか、いろんな人たちに、
 ぼくは教えます。
 教えたいのです。
 教えるのが大好きなんです。
 
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        | 糸井 | ああー。 
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        | アンリ | それは、やり方を伝えることですし、 伝えることは、ぼくにとっては大切なのです。
 
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        | 糸井 | ああー。 
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        | アンリ | このカバーの作り方ですとか、 どういうふうな始末の仕方をしているか、
 というのは、もちろん隠すことではないです。
 ただ唯一、隠したことが、ひとつあります。
 それは、なぜかというと、
 やっているあいだに、
 「これをこうやったらいいじゃないか」、
 というような、アイディアが出てきたので。
 
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        | 糸井 | 頭の中に。 
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        | アンリ | それは言えません(笑)。 
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        | 糸井 | ああー、おもしろいなぁ、それよくわかる(笑)。 ああー、よくわかる。
 
 
  
 いまって、マニュアルがあったり、
 情報が整えば真似できるってことを前提に
 世界ができてるんですよ。
 だから、知的財産だとか、特許が、
 守られるように守られるように、できてる。
 でも、工房でカバーを作ってもらったときは、
 こう、いろんな動きがあるんですけど、
 あまりにも見せてくれたんで、
 ちがう世界にいるかのような(笑)。
 で、ぼくらもそれに共感するもんですから、
 とても感動したんですよね。
 
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        | アンリ | やはり、何かを隠したいっていう人、 自分の知っていることや知っているものを、
 人に伝えたくない人っていうのは、
 未来のない人だと、ぼくは思います。
 やはり、自分の知ってることを
 人に伝えていくことに関して、
 ケチになってしまうと、
 おもしろい人間ではなくなると思うし。
 
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        | 糸井 | おお。 
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        | アンリ | ぼくが毎日思っていることは、 次にどんなバッグを作ろうか、
 どんなものを作ろうか、って考えて、
 でも、そこで止まってしまったら、
 どんどん、どんどん濁ってしまうと、
 ぼくは信じてるので、人に伝えたい。
 隠すってことは、ぼくの頭の中にはないです。
 吐き出していって、前に進むっていう感じです。
 
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        | 糸井 | いままでずっと、そうやってやってきたんですね。 
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        | アンリ | はい。もうそれは、 ぼくの、おかしい部分かもしれないですけど、
 もう、昔からやってきたこと。
 たぶん、ぼくの性格がそうなのかもしれないけど。
 
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        | 糸井 | 性格なんですね。 
 〈つづきます。〉
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