ほぼ日 |
このまま話はじめると
延々と話が続きそうですね。
「文庫で全集が揃うのは
夏目漱石と宮沢賢治くらいだ」
とおっしゃってましたが、
次は宮沢賢治ですか。 |
大藪 |
ええ。もちろんそうです。
『五十度の講演』の特典として
吉本さんのサイン色紙がついてきますが、
「ほんとうの考えと嘘の考えを
分けることができれば
その実験の方法さえ決まれば〜宮沢賢治より」
と書いてありますよね。 |
ほぼ日 |
そのことについてはここでも読めます。 |
大藪 |
これは『銀河鉄道の夜』の初稿にしか
書かれてないものなんです。
通常、我々が読める『銀河鉄道の夜』は
何度か書き直された決定稿には、
たぶんこの言葉は無かったと思います。
ちくま文庫の宮沢賢治全集には
この初稿から3稿まで収録してあるんです。 |
ほぼ日 |
宮沢賢治を買うなら、
ちくま文庫の全集がおすすめ、
というわけですね。 |
大藪 |
そういうことです。
宮沢賢治に関して吉本さんが書かれたものからは
色紙に書かれていた文章がタイトルとなった
春秋社の『ほんとうの考え・うその考え』と
ちくま学芸文庫の『宮沢賢治』
この2冊をおすすめしたいと思います。
どちらももっと早くに読んでおけば良かったと
思っている本です。
『ほんとうの考え・うその考え』は
「宮沢賢治における宗教と文学」
「シモーヌ・ヴェイユの現在」、
「苦難を超えるー『ヨブ記』をめぐって」
という3つの講演を元にしたものです。
話言葉で構成されているから読みやすいです。
『宮沢賢治』は、私の夏目漱石のように
全集を片手に宮沢賢治を追体験したい人に
特にお薦めいたします。
「吉本さん、宮沢賢治がホント好きなんだ」
というのがよくわかりますよ。
これは初版が1989年、文庫化が1996年で、
結構新しい作品です。 |
ほぼ日 |
大藪さん、もう、時間が来たようですので、
今日はこれくらい、ということにしましょうか。 |
大藪 |
ああっ!
最後にあと3冊だけおすすめさせてください。
ちょうどほぼ日の「日本の子ども」
を読んでいて
考えていた本があるので。 |
ほぼ日 |
それではあと3冊お願いします! |
大藪 |
ありがとうございます!
吉本さんの読者というと圧倒的に男性、
しかも年配の方が多いのですが
夏に行われた「芸術言語論」の会場に
たくさんの若い女性の姿がいたことに
私は書店員としてびっくりしたんです。
そこから考えを改めまして、
弊社の女性スタッフにも話を聞いて
考えた3冊です。
まずは三木成夫さんの
『内臓のはたらきと子どものこころ』
(築地書館)。
|
ほぼ日 |
吉本さんの講演の中でも
三木成夫さんの話はたくさん出てきますね。 |
大藪 |
ええ。吉本さんが繰り返し名前を出す人は
知っておいていい人だと思うんです。
吉本さんが病理や心理を考える上で
ベースになっているのは
三木成夫さんの考えらしいと僕はとらえています。
この方は解剖学者ですが、
東京芸術大学の教授で、
亡くなってから思想家として評価が高まりました。
有名なのは内臓の話で
「内臓がむかむかする、おなかがへる
これが感情、言葉に
どうやってつながっていくのか」
とイメージを広げていくんです。
実際に子育てで悩んでいる方でも
自分自身にもどこに原因があるんだろうと、
考えることのできる、
実用としても使える本です。 |
ほぼ日 |
実用といえば、
糸井がこの本を子どもがいるスタッフに
配ったことがあります。 |
大藪 |
これは弊社の女性スタッフも
「吉本さんでフェアをやるなら
三木成夫さんは外せない」
と、真っ先に候補にあがった本なんですよ。 |
大藪 |
三木成夫さんは
『胎児の世界』という著書も有名ですが
「内臓のはたらきと子どものこころ」は
幼稚園での講演会が元になっています。
話言葉で構成されているから
とても読みやすい。
今回はこちらをおすすめいたします。
次におすすめする本は、吉本隆明さんの
『家族のゆくえ』(光文社)という本です。
これも子育てのテーマと重なります。
今は凶悪な事件がたくさん起こってるし、
「こんな時代に子どもをどうやって育てるのか」
と、不安に思っている方は多いと思うんです。
そんな方に
「あれこれ考えてたけど、それでいいんだ」と
勇気を与えるような1冊だと思います。
中身についてあれこれ言うよりも
小見出しを見てピンと来たら
ぜひ、手にとってもらいたい本です。 |
ほぼ日 |
小見出しを、ざっとあげてみましょうか。
「家庭の幸福は諸悪のもと」
「日本的育児の大切さ」
「性格形成の大部分は幼児期までに終わる」
「胎児・早期教育は大きな間違い」
「良い幼稚園の条件」
「子育ての勘どころは二カ所しかない」
「父のゲンコツ・母のコツン」
「いちばんいい遊ばせ方」
「『怖い父親』が登場してももう遅い」
「性教育などしないこと」
「老齢は衰退を意味しない」
「女性はほんとうに解放されたか」。 |
大藪 |
実際に子育て真っ最中の方にとっては
この小見出しに対して
吉本さんがどういう考えをお持ちか
気になりますよね。
近年の吉本さんの本は
インタビューや講演を
まとめたものが多いですが
この『家族のゆくえ』は書き下ろしです。
表紙をめくると直筆の原稿が掲載されていますが
その字をみて驚きました。
明らかに吉本さんはあまり目が見えない状態で
この本を書き上げたことがわかるのです。
書き進めていくには
かなり時間も要したことでしょう。
内容ももちろんですが
そういう意味でも読み応えのある一冊です。 |
ほぼ日 |
さあ、最後の一冊はどれでしょう。 |
大藪 |
本当はもっとたくさんの本を
紹介したいんですけど、
本日、最後におすすめするのは
『ひきこもれ』(だいわ文庫)です。
|
ほぼ日 |
この本はうちの「吉本隆明プロジェクト」
女性スタッフ間でも
「とにかく読みやすい」と人気のある本です。 |
大藪 |
特に『ひきこもれ』と
糸井さんが聞き手をされた『悪人正機』は
吉本さんの著作の中でも
圧倒的に読みやすい作品です。 |
ほぼ日 |
どちらも文庫化されてますね。 |
大藪 |
ええ。
『吉本隆明の声と言葉。』をお持ちでない方が
いらっしゃったら、まずは
『悪人正機』と『ひきこもれ』
この2冊からどうですか? と
おすすめしたいくらいです。
『悪人正機』は「ほぼ日」読者の方なら
ご存知でしょうから
今日はあえてこの本をおすすめします。 |
ほぼ日 |
結果的に2冊おすすめしたことに
なりましたが(笑)。 |
大藪 |
そうなってしまいましたね。
最後に『ひきこもれ』をおすすめするには
それなりの理由もあるのです。
というのも
「そもそも、吉本さんってどういう人?」
と、なると大半の方は
「戦後最大の思想家」
「吉本ばななさんのお父さん」
ということくらいしか
思い浮かばないと思うのです。 |
ほぼ日 |
確かに私もこのプロジェクトが始まる前は
本も読んだことが無かったですし
それくらいしか知りませんでした。 |
大藪 |
そういう方に「吉本さんってこういう人なんだよ」
というプロフィールも含めた紹介をするには、
吉本さんの生い立ちに触れている
『ひきこもれ』は最適な本だと思います。
「ひきこもり」じゃなくて「ひきこもれ」。
タイトルからひきつけられますよね。
『内臓のはたらきと子どものこころ』
『家族のゆくえ』とならんで
教育や子育てに感心のある方には
特におすすめです。
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ほぼ日 |
ちなみに大藪さんは
お子さんがいらっしゃるんですか? |
大藪 |
残念ながら私、まだ独身です。
気は早いですが、
子どもが出来たときに備えて
これらの本を読んでます。 |
ほぼ日 |
吉本さんの本の中に『超恋愛論』
というのがありますから、
まずはそっちが先のほうが‥‥ |
大藪 |
あっ、そっかあ。
子どもよりも先に奥さんのことを考えなくちゃ。
『超恋愛論』こっちが先かあ!!
早速、読んでみます。
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