しりあがり寿 原作・宮藤官九郎 初監督作品
映画『真夜中の弥次さん喜多さん』
〜映画館へ行こうぜベイべー〜
今日の宿(映画の紹介)  

第2回
監督・宮藤官九郎より
脚本家・宮藤官九郎のほうがうわてだった?


 (この座談会は、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』
  公開直前の3月某日に行われました。)


糸井 『真夜中の弥次さん喜多さん』は
もし、宮藤さんが飽きてなければ
続編をつくったらいいと思いますよー。
宮藤 あ、はい。そうかもしれないです。
しりあがりさんが前に
おっしゃってたことなんですが
『弥次喜多』っていうコンテナには
なにを詰め込んでもいい、って。
極端に言ってしまえば
もう2人は旅をしなくたっていいし、
この2人じゃなくてもいいし、
過去でも現代でもいい。
だから続編をつくろうと思えば
いっくらでもつくれるんですよね。
糸井 「この“こころ”でやったんです」
と言えばいいんですもんね。
宮藤 そうですね、
こころを間違わなければ。
糸井 こころだね。
現場は、おもしろかったでしょうね。
宮藤 現場は常にたのしくて、
1ヶ月半、
お祭りが続いているような感じでした。
お祭り中だと
なにがあっても楽しいっていうか
だれかが遅刻しても、
お祭り中だから
怒る気にもならないというような感じで。
和気あいあいとしていたから、
本当に浮かれてるうちに
終わっちゃったなって思います。
で、その後の編集で
悩んじゃったんです。
糸井 撮影しているときは、
後でだれかが編集してくれるような気分で
撮ってるものなんですか。
宮藤 そうですね。
そんな気がしてました。
糸井 でも大間違いだったんでしょう(笑)。
宮藤 はい。
ホン(脚本)書いているときも、
正直、だれかが監督をやってくれると
思ってましたからね。
糸井 え、このホンを書いてるときに?
宮藤 ええ。
そうでないとできないな、と思って。
ホンを書いてたときは
自分がこの映画を撮るということを
忘れたとまでは言いませんけど
ないものと考えていました。
糸井 ぼくはこの映画を見ていて
じぶんの書いた脚本が
映画でやられることって
本当にオソロシイことなんだと
思ったですよ。
宮藤さんはどうでした?
宮藤 今までどおり脚本家としての
ぼくだったら
ホンを書き終わったときに
そこそこ達成感があったと
思うんですけど。
今回は逆で、達成感というより
「不安なものをつくっちゃったな」
という気持ちがつよくて。
急に「監督」の立場に
変わっちゃったっていうか。
じぶんのホンを撮るというよりも
あのホンがあまりにも難解な‥‥。
糸井 自由な(笑)。
宮藤 自由で難解な。
ぼくがいくらスタッフの方に
説明したところで
わけわかんないものを
「わけわかんないもの」として
説明してるだけなんで、
けっこう大変でしたね。

たとえば、弥次さんと喜多さんの手が
つながってしまうシーンがあるんですけど
スタッフの方たちに
「今、幻覚と現実のどっちですか?」
って聞かれて。
どっちかわかんないってことで
行きたいんだけど、
便宜上「幻覚です」って
言っちゃったりとか(笑)。
そういうことはけっこうありました。
糸井 脚本家がどういうふうなことを思って
書いたのかということを、
うまく説明できないような脚本を、
まず脚本家・宮藤官九郎が書いちゃって、
宮藤監督は脚本家の宮藤さんに
それを質問することが
できないっていうことですよね。
宮藤 ええ。それで撮影中
やっぱりわかんなくなっちゃって
「一回家帰って
 冷静になっていいですか」
ってことをよく言ってましたね。
 
糸井 いつも宮藤さんが脚本を書くときは
「ここまでオレがやっておいたから
 後はみなさんでたのしくしてね」
って感じなんでしょう?
「オレの言うとおりにやれよ」っていう
命令的な脚本ではないんですよね。
宮藤 ぼくは、どうぞみなさんで
好きにやってください、というほうです。
ト書きも少ないですし。
糸井 その、書いて渡した脚本が
人の手によって映像化されるたのしさを
知ってる人が
映画監督をやっちゃうというのは‥‥。
宮藤 ああ。はい。
ぼく、監督として
現場でけっこうセリフを削ったりして
脚本をいじりました。
糸井 あ、そうですか!
宮藤 ええ。現場で
いらないセリフが多いなぁって思って
後でぜんぶじぶんが責任をとるわけだから
「このセリフいらないです」と言って、
その場で変えてました。
後で冷静な頭に戻って編集するときに
ホンのほうが正しかったということが
何度かありました。
現場でカットしたセリフが
じつは必要だったりして、
あれ? 余計なことしちゃったなって。
糸井 それは、脚本家の宮藤官九郎のほうが
監督、宮藤官九郎より
ベテランだったってことだね。
宮藤 そうなんですよね。
そのときちょっと「さすがだな」って
思ったんですよ(笑)。
脚本にかんしては
ヘタに数やってないなというか、
いちおう考えて書いているなぁと思って。
このとおり撮っておけばよかったなぁ、
というのが何カ所かありましたね。
糸井 その、後から必要だと思ったセリフは
まるっきり撮ってなかったんですか?
宮藤 ええ、撮ってなかったです。
糸井 はははは!
宮藤 撮ってないから編集でうまいことつなげて、
そのセリフがなくても
成立するようにしてもらいました。
糸井 ということは、
この映画をつくるときに
いちばんたいへんだったのは、
最後の編集ですか?
宮藤 そうですね、ぜんぶのシワ寄せが来たのと
CGの制作に半年くらいかかったのかな。
CGの作業をやっている部屋に入ると、
真っ暗なところで
コンピュータ見てる人たちがいて、
日が経つにつれて、
どんどん目がくぼんできたんです。
彫りが深くなって、最終的には
“全員平井堅”みたいになっちゃって(笑)。

そこでけっこう、
無意識に監督っていうことに
浮かれてたんだなって思いました。
糸井 監督って浮かれる仕事ですよね。
宮藤 そうなんですね。でも最初は
とりあえず現場に監督する人がいないから
ぼくがやってますよ、みたいな
スタンスだったんですよ(笑)。
知らない人が現場に来たら
誰もぼくのことを監督だとは
思わなかったと思います。
監督のイスをつくってもらったのに
ほとんど座らずに
現場をウロウロしてましたから(笑)。

さすがに毎日のことなので
「監督」と呼ばれることに
慣れてきたんですが、
ぼくは役者もやるので、
今度は役者として違う現場に行っても
どこかから「監督」って聞こえると
返事したり、振り向いたり
しちゃうんですよね。
糸井 じゃぁ今、野球場に
野球見に行ったりしたら
‥‥「監督!」
宮藤 「はい!」なんて。
糸井 しりあがりさんが
『弥次喜多』を連載していた時代は、
「この漫画、わからないからわからせろ」
なんてことを言う人はいましたか?
たとえば編集者も
「いやぁ、わかんなくなっても
 かまいませんよ」
というような感じで
進行していったのかなと思うんですけど。
しり
あがり
えっと、ぼくだけが心配してましたね。
糸井 ああー(笑)。気がちっちゃい!
宮藤 漫画って、
たとえばしりあがりさんが
連載してる雑誌のなかに
ものすごくわかりやすい作品があったら
「オレのはわかんなくてもいいや」という
感覚はあるものですか?
『スラムダンク』があるから、
オレはちょっとくらい
わかんなくてもいいや、とか。
糸井 分担(笑)。

しり
あがり

雑誌をつくってる側が
読者層を広げるために、
この作品にはこういう読者、
こっちの作品には
わからないもの好きな読者、
というふうなことを考えている場合は
あると思います。
でも不景気になってからは
余裕がなくなっていて
雑誌そのものの種類が
細分化されているような
気がしますね。
宮藤 今は雑誌がきっちり分類されすぎていて、
興味がなければ
その雑誌自体を買わないから
じぶんの興味が薄い漫画は
どんどん触れる機会が減って
読まなくなっちゃいますよね。
糸井 すごくマーケティング的ですよね。
しり
あがり
『弥次喜多』は連載中は
ぜんぜん反響なかったんですよ。
宮藤 ええええっ、そうなんですか?!

しり
あがり

うん。ぜんぜん。
でも、単行本になったときに、
糸井さんから
直接お電話いただいたんですよね。
 
糸井 あのときは、こういうことで
電話するのってイヤだなぁと思いつつ、
どうしてもかけたい、って思ったんです。
もしかしたら、
この作品、評判わるいかもしれない、
という気持ちがあったんですよ。
「ぼくはいいと思います!」
っていうことを
言っておいたほうがいいなって(笑)。
宮藤 へえー!
糸井 で、じぶんで電話をかけたものの、
この漫画をどうほめていいのか、
わかんないんだよ!
「お、お、オレは、
 い、いいと思うんだよねぇ」みたいな。
なにを言ったんでしたっけねぇ?
しり
あがり
いや、あの、
「おもしろいよ」って言っていただいて。
それまでは『弥次喜多』のことは
もう忘れようかなって思ってたから。
宮藤 ええええええええっ??
糸井 わはははははははは!!
しり
あがり
あの、その節は
どうもありがとうございました。
今日この場を借りてあらためて‥‥
(ごにょごにょごにょごにょ)。

(つづきます)


※この連載は、TBS『NEWS23』、
 TBSラジオ『ザ・チャノミバ』でのトークと
 「ほぼ日」での座談会をまとめたものです。



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