
第20回
石から釣りへ。
石から釣りへ。
糸井 |
藤田さんの石のお話は、はじめて聞きました。 |
藤田 |
ぼく、石は、長かったですよー。 |
糸井 |
長かったですか。 |
藤田 |
ええ。 六本木に住んでるころは、 ほんとに集めに集めてね……。 これぐらいの石、昭和30年や40年で 何十万とするものを買ってくるんですから。 相手だって、石好きで、売りたくないものを。 |
糸井 |
他人から見てたら、 何してんだろうと思うようなやりとり(笑)。 |
藤田 |
名古屋なんか遠征に行くと、 3日間、石を集めたその家に 通ってるんですから。 |
糸井 |
それは、出番があってもですか? |
藤田 |
はい。 朝起きたら行って、試合前に帰ってくるんですよ。 その間、ずーっとその家の部屋を見てまわってね。 |
糸井 |
「あれはいいな」とか? |
藤田 |
はい。 その前に座って離れなかったりね。 |
糸井 |
よっぽど欲しいんだな、と思わせるわけ? |
藤田 |
はい。 それがね、またね、見事な石があって。 こう、ワラの家がありますでしょ。 ああいうふうなこうポッコリした屋根があって、 その下に灯籠のように舞台があって、 下にこう、台がついてましてね。 ……という形の石が、自然にできてるんです。 ワラ葺きの屋根の上に 雪が積もったように白くなってましてね。 その下に、ちゃんとこう、 人が住んでるように窓枠がこうついて。 で、その下に土台があるっていう。 自然にそんなもん、できてるんですよ。 |
糸井 |
はぁー。 |
藤田 |
川上さんは削り出して、 いい形を作るのをやりたがるんですよ。 |
糸井 |
川上さんらしいですねぇ~。 |
藤田 |
ぼくは、自然なままがいいから、 川行って、そういう石を探してみたりね。 |
糸井 |
ってことは、藤田さんは、 ピッチャーだった時代に、河原をフラフラしてた? |
藤田 |
ウロつきましたよ。うん。 |
糸井 |
誰か見てて、あれ藤田じゃないか?とか。 |
藤田 |
そういう人は、あんまりいなかったですけどね。 だから、選手時代は、 上を向いて歩いたことなかったです、ぼくは。 石ばっかり見て歩いてまして(笑)。 |
糸井 |
(笑)そんなことしてたんですか。 飽きずにそれを続けて……? |
藤田 |
やってました。 10年以上、やってましたね。 溜まって溜まって、当時住んでいた 麻布十番のところへ、鉄屋さんに頼んで、 鉄の棚を作ってもらっていたほどです。 普通の棚じゃあ、石が重くて崩れるものですから。 |
糸井 |
置けないんだ。石だから(笑)。 |
藤田 |
マンションなもんですからね、 床抜けたら大変ですよ。 それで、少しずつ人に、貰ってもらいましてね。 |
糸井 |
手放す時は、もう、平気になるんですか? |
藤田 |
もう、あの、飽きてくるんですね、だんだん。 |
糸井 |
その景色に(笑)。 |
藤田 |
ええ。 それでまた、新しい石が欲しくなるんですね。 |
糸井 |
石に入った、きっかけがあるんですか? |
藤田 |
あるとき、偶然ね、石の本を見たんですよ。 そしたらもう、いろんな石があるんですよね。 山の景色、海の景色、川上の景色。 みんな、見事にあるんです……。 石の前には、ちょっと盆栽やりましたけど。 |
糸井 |
よく、植物にいって、石にいって、 趣味はおしまい、っていう話を聞きますけど。 |
藤田 |
ぼくは釣りまでいきましたけど。 |
糸井 |
え? 石の後が釣りなんですか。 |
藤田 |
ええ、そうなんですよ。 |
糸井 |
じゃ、ずいぶん釣りは、遅く始めたんですね。 |
藤田 |
そうですね、 現役辞めてからじゃないと、 できなかったですから。 子どもの頃からずっと離れてたですからね。 |
糸井 |
あの、試合の途中、 遠征の途中で釣りに行った話とかは? |
藤田 |
あれは高知キャンプの時。 だからもう、肉体労働派じゃなくなって……。 |
糸井 |
藤田さん、ひどいんだよ。 途中関係ないとこで降りて、釣りして(笑)。 信じられない。 |
藤田 |
遠征のバッグの中には必ずね、 これぐらいの竿を、入れとくんですよ。 伸ばしてもこれぐらいにしかなりませんけどね。 それでも、それを持っていって。 で、旅先では必ず土地の釣り道具屋行って、 そこの名物を探すんですよね。 |
糸井 |
あれ、釣りやってる間っていうのは、 水を見ただけでもう、ダメですよねー。 |
藤田 |
あれね、おかしなもんですねぇ。 |
糸井 |
今でも残ってますか?それは。 |
藤田 |
僕は、思い出してますよ。 さすがに水たまりには 竿出さなくなりましたけどね(笑)。 |
糸井 |
でも、ハマってる時には、 もう、水たまり見ただけでもう、なんか‥‥。 |
藤田 |
もう、燃えてくる。 |
糸井 |
(笑)「何がどういそうか?」って、見えますよねぇ。 どんな釣りでも、取り柄があるんですよね。 |
藤田 |
そうですね。ほんと。 台風の時にね、 川上さんが近所なもんだから、 雨がどしゃ降りなのに、 「オーイ」って声かけてきて。 「オイ、ちょっと川行こうか」っていって。 |
糸井 |
台風のときに(笑)。 |
藤田 |
山入っていったんですよ。 そしたら、ガンガン流れてんですよね。 釣っても釣れるわけない。 次の日に同じとこ行ったら、川じゃなかった。 溢れた水が、そこを流れていただけなんです。 特に、ぼくの場合は、メジナはよく釣りました。 よーく引きますから、鯛やなんかよりおもしろい。 グッグッグッグッ引きますよね……。 当たりでグーン!ときたときはね、 ちょっとやっぱり、ドキドキっとしますよ。 |
糸井 |
ぼくが釣りの中でいちばん好きなのは、 まぁ、いろいろな場面が好きなんですけど、 「当たり」なんですよ。 |
藤田 |
ええ。食いつく瞬間。いいもんですよ(笑)。 |
糸井 |
当たりのうれしさと言ったら……。 あの、ぼくは湖が多かったんですけども、 ひとりで誰もいないところに行って、 まわり誰もいないところでひとりで釣っている。 人間は僕しかいないですよね。 鳥が、まあ、チュンチュンいってて。 ……それで、やってるときに、 最初に「プッ」てアタリが来た時に、 「もうひとり生き物がいた!」 っていう感じがするんですよねぇ。 |
藤田 |
(笑)あはははは。 |
糸井 |
「オレとおまえ」って(笑)。 もう、なんだろう? 友情ですよね、一種の(笑)。 |
藤田 |
そうなんです(笑)。 |
糸井 |
ねぇ……。 魚にとっては、悪いことしてんのにね。 なのに、ありがとう!って気分になんですよ。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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