
第18回
そのさびしさに、驚いた。
そのさびしさに、驚いた。
糸井 |
身体のほうの調子はどうですか? ……まあぼくも、自分の タバコを止めるのが先なんですけど。 |
藤田 |
(タバコを吸いながら) ねぇ? これ、ほんと不思議なものを ご先祖様が作りやがって…… 余計なものを作りやがって(笑)。 |
糸井 |
藤田さんも、だんだん、 タバコが細くなったりしてますけど、 止めてないんですね。 |
藤田 |
せめてもの、たのしみ。 |
糸井 |
お線香みたいになって(笑)。 |
藤田 |
糸井さんが今吸ってるやつを くわえると、葉巻みたいでねぇ。 |
糸井 |
もうずいぶん経つんですか?それにして。 |
藤田 |
もう、5~6年かな。 味は、変わらないんです。 かえってキツイぐらいですよ、 マイルドセブンとか、ああいうのより。 |
糸井 |
でもぼくも、いつかやめますよー。 |
藤田 |
いやぁ、若いうちに止めて下さい。 |
糸井 |
藤田さん、大病しててもまだ吸ってる(笑)。 |
藤田 |
もうね、先が大したことないからと思ってね。 |
糸井 |
まあ、実際にもう、 今から止めるとか止めないのって あまり、関係ないんでしょうね。 |
藤田 |
うん、だからもう、 ぼくは医者にも言うんですよ。 「もうなんやかんやいって苦労して 痛い思いなんかしてやったってね、 先はもう、10年も20年も 生きられるわけじゃないんだから、 好きにさせてくれ」ってね。 |
糸井 |
藤田さんは、 長く生きたいタイプですか? それとも、ポンといきたいタイプですか? |
藤田 |
もう、長くは生きたくないですねぇ。 |
糸井 |
あ、そういうタイプですか。 2種類に、分かれますよね。 |
藤田 |
はい、分かれます。 ぼくはだって、あれですよ、 病気して、去年、一昨年と……。 |
糸井 |
ほんとに死ぬかと思ったんですか。 |
藤田 |
なんかもう、死にたいと思ったですね。 はい。 だから、問題は、 死ぬ時がどういうことかということでね。 やたらと苦しんで死ぬのはイヤだなと。 スッと死ねるものなら、そのほうがいい。 それぐらい、毎日辛かったですね。 |
糸井 |
でしょうねぇ‥‥。 |
藤田 |
ええ、体の調子が悪かったし。 いまはずいぶん戻ったけれども、 ほんとにね、死ぬ生きるに直面すると、 案外人間って、 淡々としてるもんだと思いましたね。 「悪あがきしないな」と思った。 |
糸井 |
それは藤田さんだからじゃないですか? |
藤田 |
いやぁ、どうですかね。 |
糸井 |
「ああ、そうか」みたいになるんですか? |
藤田 |
うん。 「あ、これでいくんなら、まあいいや」です。 |
糸井 |
すごいなぁ。 |
藤田 |
死ぬのは平気なんだけど、 ただ、自分が死んだあと、 どこかから、見ていたいですよね。 後がどうなるか、家族はどうしてるかとか。 そういうのが、見れたらなぁと思うだけです。 |
糸井 |
それは、ちょっと、ありますねぇ。 |
藤田 |
うん。 自分だけが逝っちゃうことには、 別に、どうってことはないんですけど。 |
糸井 |
ぼくは、1年くらい前に、 「さあ寝ようか」と思って寝る時に、 かみさんは、もうこっちで寝ていて、 ベッドがもうひとつあって。 そこに、自分のいないベッドをみたんですよ。 |
藤田 |
はい。 |
糸井 |
それがね、 「あ、死ぬってそういうことだ」 と思ったんですよ。 |
藤田 |
うん、そうですよね。 |
糸井 |
「自分のいない世界」 っていうのが急に見えたんです。 |
藤田 |
うん。 |
糸井 |
キューンと寂しいような。 |
藤田 |
うん、寂しいんですよ。 ぼくの具合が悪くてね、ぜんぜん違う部屋に、 いつもいる部屋、ベッドの部屋があって、 中二階に一部屋あって、そこへこもろうと思って。 ベッド持ってってこもって。 ……これが、まぁー、寂しいんですよ。 ちょっと、ほんの5メートルか6メートル離れた、 階段を隔てた違う部屋に行って、 ひとりでポンとこうなった時にね。 |
糸井 |
ひとりでも 生きられるようなつもりでいたのに(笑)。 |
藤田 |
この寂しさっていうのは、ビックリしました。 |
糸井 |
いや、年取っても、 ぜんぜん、変わらないんですねぇ、それは。 |
藤田 |
変わらないですよね。 みんな、そうだと思いますよ。 |
糸井 |
自分がいない世界が もうひとつあると思うと……。 |
藤田 |
そうなんですよ。 こわい。ゾーッとしました(笑)。 |
糸井 |
ぼくも思った時、ビックリしました。 自分がそういうふうに感じる人間だと思わなくて。 例えば、いろんな人のことを思うんですよ。 俺がいない状態でみんな生きてるんだって。 |
藤田 |
ええ。 |
糸井 |
だから……これはちょっと、 なんか「がんばろう」と思ったんです(笑)。 |
藤田 |
うん、そうなんですよね。 ヘンな話になっちゃうけど、 自分が死んで葬式をしてくれる。 みんな、どんな顔をして来てくれるかな、 「逝きやがった逝きやがった、やあやあ」 って来てくれるのかなぁ、って。 |
糸井 |
ええ。 葬式のことは思いますよー。 ぼくはだから、賑やかにしてくれって、 遺言書いとこうかと思って。 |
藤田 |
はい。 |
糸井 |
大笑いしても構わないんだけど、 来たくなるような葬式。 |
藤田 |
いいですね。 |
糸井 |
ねぇー? 泣かないで来てほしいんです。 |
藤田 |
葬式というのは、 若くしてなくなると、悲しみが多いんですよね。 年寄りのときはもうね、 まっとうしたみたいになって、 わりあいほがらかに。 |
糸井 |
それが、いいですね、やっぱり。 |
藤田 |
ねぇ。 |
糸井 |
こんな話が、 普通にできるようになっちゃって、 困ったもんです(笑)。 若い時、藤田さんとは、 こんな話、絶対しなかったですもん。 |
藤田 |
病気になるとか死ぬとかって、 考えたこともなかったですからね。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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