
第16回
スーパースターは不器用。
スーパースターは不器用。
| ここからの5回分は、 ほぼ日刊イトイ新聞が2003年に開催したイベント 「智慧の実を食べよう。300歳で300分。」の 打ち合わせのときのようすをまとめたものです。 ちなみにこのうち会わせは、 先の対談から半年後に行われました。 |
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糸井 |
今度の講演で、 藤田さんにうかがいたいのは、ぼくにとっては、 「気持ちの強さ」というところなんです。 どういったら、いいんでしょう。 みんな、先が見えちゃってるようなつもりで、 生きていますよね。 そこのだるい部分を超える何かについて、たぶん、 経験が、たくさんおありになられると思うんです。 |
藤田 |
いやぁ、自分のじゃなくて、 人の経験を、見てきてますからね。 やっぱり、一緒にやった連中がすごかった。 自分は大したことないんですけどね(笑)。 |
糸井 |
その経験が、すごい分量だと思います。 |
藤田 |
自分では、 「これだけやった」なんていうのは、 なかなかわからないし、言えないですよね。 「あいつは、あれだけやってる」 なんていうのは、見えるんだけど。 |
糸井 |
はい。 藤田さんのお話って、膝を打つことが多くて。 「才能が十分にありすぎるような人は、 育ちにくいんだ」とか・・・。 |
藤田 |
そうなんです。 才能に甘えちゃってね。 ちょっと、足りないぐらいがいいんですよね。 |
糸井 |
いい話ですよねぇ。 |
藤田 |
うん。 それで、ぶきっちょなヤツがいいですよね。 器用なヤツはだめなんですよ。器用貧乏で。 |
糸井 |
じゃあ、スーパースターって言われる人は、 みんな、ぶきっちょなんですか? |
藤田 |
なんか、どこかに ぶきっちょなところがありますよ。 |
糸井 |
はぁー・・・。 |
藤田 |
「天才的に何でもできる」 っていうのは、あんまり、こう、 「ひとつの壁を突き抜ける」 っていうようなところまでは、行かないです。 |
糸井 |
ご自身は、どっちなんですか? |
藤田 |
ぼくは、どっちかと言うと、適当に、 壁を突き抜けない手前でちょっと休んで(笑)。 で、また挑戦して、また休んで、っていう……。 でも、例えば王なんかは、 そういうところを一途に突き抜けてしまう。 |
糸井 |
王さんも、なんか、 不器用そうに見えますね。 |
藤田 |
あれは、ぶきっちょですよ。 |
糸井 |
あ、そうですか? |
藤田 |
ええ。 ああいう連中を見てると 特徴的なところっていうのは、 「ひとつのことにこだわってるときには、 他のことは頭にない」ってことなんですね。 おもしろいですよ、あれ見てると。 長嶋にしても王にしてもそうでしたけど。 |
糸井 |
ひとつのことにこだわっている時には、 「他のこと」は、頭から消えちゃうんですか。 |
藤田 |
ええ。 もの忘れは、すごいし……。 だって、そういうヤツの座った後は、 必ず誰かが見ておいてやらないと、 何か忘れてるから……それから、 「自分のものも人のものもない」 というような状態が、何年間か続きますよ。 |
糸井 |
(笑)「何年間か」! |
藤田 |
おもしろいですよ。 そういうヤツらは、だいたい 似たようなところがありますから。 特別なスーパースターっていうのは、 そういうところ、ありますよね。 「構わない」っていうか。 もうね、物事には、構わない。 |
糸井 |
それって、失礼だけど 「スーパースターは監督には向かない」 ってことですか? |
藤田 |
ええ、 ちょっと向かないかも知れないですね。 ええ、向かない。 |
糸井 |
(笑)困りますよね、監督やったら。 |
藤田 |
でもね、川上さんあたりがね、 転身するんですよね、コロッと。 |
糸井 |
川上さん、じゃあ、 選手時代は違っていたんですか? |
藤田 |
川上さんは、選手時代はね、 40分のビジターのバッティングの持ち時間を、 30分、自分がひとりで打つんですよ。 |
糸井 |
(笑) |
藤田 |
あとの10分、 残りの10何人で打つわけですよね。 3割打って中心打者だから、誰も文句言わない。 それで、本人は何にも感じないんですよね。 |
糸井 |
「あー、今日は打ったぁ!」みたいな(笑)。 「あんた、30分も打ってるよ……」という。 |
藤田 |
(笑)そういうところはあります。 スーパースターとしての、物事に構わない、 人の思惑なんて関係ないみたいなところは、ある。 |
糸井 |
スターは、ひとつのことで、 一杯になっちゃうんですね。 |
藤田 |
いっつも一杯になってるね。 ところが、川上さんは、監督になったら、 もうガラッと変わってしまいますね。 あそこが、見事。 立場でガラッとこう、 生き方を変えられるというのは……。 |
糸井 |
ふつう、考えられないですよね。 |
藤田 |
ふつうはそのまま行っちゃいます(笑)。 |
糸井 |
へぇー。 |
藤田 |
「ひとりでやりゃあいい」っていう人が、 全体でやらなきゃいけないっていうことに 変わるわけですからね。 |
糸井 |
川上さんが勉強した気配とかは、 やっぱり、あったんですか? |
藤田 |
やりましたよ、やっぱり。 |
糸井 |
やっぱりやってらっしゃるんだ。はぁー……。 |
藤田 |
そうとう、凝り性のほうですから。 例えば、ぼくが釣りを教えたときには、 徹底的に本を読むし、 工具で何でも作ろうとするし……。 |
糸井 |
自分で、やるんだ。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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