
第10回
仕事の休みかた
仕事の休みかた
糸井 |
藤田さんは、監督在任中に、 「もっとこうしておけばよかったなぁ」 ということは、ないですよね? |
藤田 |
いえいえ、とんでもないですよ。 アレもやっておけばよかった、 コレもやっておけばよかった、です。 |
糸井 |
え? 後悔だらけ? |
藤田 |
後悔だらけです。 欲をいえば、キリがありませんけど、 ずいぶん、やり残したことがありますし。 その時に気がつかなくて、 あとで気がついたというのもあります。 その時その時は、 精一杯にやっていたつもりなんですけど、 その「精一杯」が、自分では どのへんまでの精一杯だったか、わからないですね。 人から見たときにどれぐらいが‥‥。 |
糸井 |
「こうしておけばよかった」 という話をしている時、藤田さんは、 とても悲しそうにおっしゃるんだけど、 やっぱり、痛いんですね。 みんな他人のことなんですけどね。 |
藤田 |
他人のことなんですけれども、 傷を持っているんですよね。 その傷にさわると、痛いということになるんです。 今でも、「しまった‥‥」と思ってね。 |
糸井 |
そんな人の家族の方は、大変ですね。 |
藤田 |
そうですね。 もうまったく申しわけないけど、 家族は捨てましたね。 だからいま、 カタキを取られていますけどね、女房に。 女房は、ほんとによく我慢してくれていますね。 |
糸井 |
それ、なっちゃいますよね、そういうふうに。 |
藤田 |
それでいて、特に何か お礼をするかと言えば、そうじゃなくて、 オフになれば自分の遊びに一生懸命で、 朝から晩までゴルフに行って義理を果たしたり、 自分で楽しんだりしているわけですから。 だからそれはもう、 家族には悪いことしました。 娘にも、言われましたが、 親父らしいことは、1回もしてこなかった。 |
糸井 |
選手に対するあれほどの気づかいを、 家では、できないんですね。 |
藤田 |
家ではほんとに、できなかったです。 それを家族が認めてくれたから‥‥。 ふつうだったら、持たないでしょうね。 |
糸井 |
唯一、甘えられる場所が家だった? |
藤田 |
ええ。 家でグチャグチャ言われたら、たまらないです。 |
糸井 |
やっぱり何かに殉じちゃった人なんですね。 思えば、特別な仕事だったんですよ。 そういう仕事をされてきた藤田さんに、 ぜひ、聞きたいことがあります。 仕事と休みとは、裏と表でしょう? これからの自分の課題は、 「休むということ」について、 どうやってアイデア出すんだろうかと‥‥。 |
藤田 |
休みかたって、むずかしいですよね。 |
糸井 |
アレもコレも、と順番に考えていると、 休みについて考えることは、 どうしても、最後になっちゃいますから。 藤田さんは、何か休む工夫は、ありましたか? |
藤田 |
ぼくは、先に休むことを考える。 休んでおいて、あとでやる。 |
糸井 |
‥‥あぁ、それは、 不良出身の人でないとできない大ヒントですね。 |
藤田 |
まず休むことからやらないと、 やってから休むなんて、ムリです。 時間なんていうモノは、 都合をつければどうでもなるんですから、 先に、休みを取っちゃうんです。 |
糸井 |
わかりました。 ぼくはずっと、愚痴のように、 「休み方のアイデアがない」って、 人にもいうし、書いたりもしたし‥‥ でも、いつも、 「あれを、ああしてやろうかな? これを、こうしてやろうかなぁ?」 と考えるのが好きで、ついついやってると、 絶対に休みがあとまわしになっていました。 休みがどれだけ大切かということは、 ほんとうに、よく知ってます。 うちの社員の子だとかチームの子にも、 「休みは、だいじだよ」といっているクセに ついつい、逆のことをしちゃうんですね。 でも、それじゃ「持たない」と思うんです。 そうかぁ‥‥休みを先に、かぁ。 |
藤田 |
ええ、先にとっちゃう。 それで、やらなきゃいけないことって、 集中的にやれるはずなんです。 いよいよ最後になれば、 それをやらなきゃしょうがなくなるから、 できますよ。 |
糸井 |
ぼくは、下手すると、一日じゅう 「桑田のグラウンド練習状態」 になっているんです‥‥。 |
藤田 |
休みを入れないと、消耗してしまいますよ。 |
糸井 |
いまのぼくのように、 「バッタリ倒れて寝る」 みたいなことをくりかえしていたら、 枯れますよね? そうか、藤田さんはそう休んでいたんだ。 |
藤田 |
ええ。 ぼくはもう先に休んじゃう。 で、ためてためて、 仕方なくやっちゃうという感じですね。 昔は、インタビューだとかいろんな仕事は、 すべて、1日に集めてしまったんです。 その日にダーッと全部やって、あとは休みをとる。 やればできます。 |
糸井 |
そうかあ。やっぱり先達は違う。 そんなこと、思いつきもしなかったです。 いつかイイ考えが生まれて、 「上手に休めるような俺」 というのが誕生するんだと思ってましたもの。 その日を、待っていたんですよ‥‥。 |
藤田 |
待っていたって来ないですよ。 ヒマというのは、自分で作らなきゃ。 |
糸井 |
よくわかりました。たしかに、 上手に仕事している人は、パンと飛びますね。 無条件にどこかへ行っちゃったりしますから。 |
藤田 |
ちょっと後ろ髪引かれることはありますけどね。 「これでいいのかな?」 「やらなくていいのかな?」 そう思う時は、あるけれども、 もう、遠くに行けばそれでいいんですから。 |
糸井 |
なまじ週休2日みたいになって、 カレンダー上は、 2日も休みがあるように見えるけど、 今はインターネットの時代だから、結局、 家でどんどん仕事ができてしまうんですよね。 そうすると、休みって、なかなかないんですよ。 夜も夜中も朝も、いつでも時間を使えると思うと、 結局「仕事に自分が使われている」という 状態になって、別の意味で自分が消えていく。 それは、自分らしさが やっぱりだんだん失われていくことだと思うし、 自分の「クセ」がなくなっちゃいますよね。 いま、休みに関して、 とてつもない大きなヒントをいただきました。 |
藤田 |
そうですか。 ぼくはその休み方を、 当たり前みたいにしていましたから。 |
糸井 |
それは、どこかで見つけた方法ですか? |
藤田 |
いえいえ。 やっぱりぼくは、根が怠け者なんでしょうね‥‥。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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