
第1回
桑田のノート
桑田のノート
糸井 |
長いペナントレースの中で、 逆風が吹いた時というのは、 それまでがトントン拍子だと、余計に 「あの方針は、間違っているのかなぁ?」 だとか、迷いが出るものですよね‥‥。 |
藤田 |
ええ、出ます。 |
糸井 |
そういう迷いが出た場合、 藤田さんは、「迷い」は「迷い」として、 どっちつかずのままで、行くほうですか? |
藤田 |
‥‥まあ、打開策は いろいろ研究しますけど。 野球チームなら、 そのためにコーチもいるし、 そういうときの頼りになるのが コーチの手足ですから。 やっぱり学ぶというのは マネるところからはじまりますから、 だから、まずイイものを見て、 マネをすることですね。 いいものを見て、マネをして、 それを取り入れていっているうちに 自分のものになりますから。 だから、「俺が最高だ!」なんて いっているのでは進歩ないと思うんすね。 何だっていいから、マネるんです。 |
糸井 |
へぇー‥‥。 藤田さんも、そうしてきたのですか? |
藤田 |
ええ、ぼくはよくマネしました。 |
糸井 |
それは選手時代からですか。 |
藤田 |
ええ、もう若いときからそうです。 だからね、 よくある話ですけど、 ひとつのチームに、エースがいるでしょう? そのチームには、似たようなピッチャーが どんどん同じような格好で、育ってくるんです。 |
糸井 |
あぁ‥‥。 |
藤田 |
だから、一緒に並んでやっていると、 かっこうや、カタチまで似てくるんですよ。 だから、ぼくはエースの背中のほうに、 これからの若い選手をつけてピッチングさせた。 |
糸井 |
そこから、学ぶんですね。 |
藤田 |
そう。 前の人のタイミングだとか、 腕の上げ方だとか、 足の上げ方だとか‥‥似てくるんです。 口で方法を教えていくよりは、 エースが投げているのを見て、 一緒になって投げているほうが、 早く育つんですね。 あれもマネで、育てる一つの方法なんです。 |
糸井 |
犬を飼うときに、 先に飼っている犬と、あとから来た犬がいて、 おしっこのトレーニングを 前の犬が教えるというのがありますよね。 ‥‥あれですね! |
藤田 |
あれなんです。 不思議ですよ。 |
糸井 |
ということは、 「マネされるばっかりのほう」にまで 至らない限りは、エースじゃないんですね。 |
藤田 |
そうです。 |
糸井 |
今、巨人でいうと エースは、誰なんですか? |
藤田 |
今のエースですか。 今は、成績からいえば上原ですよね。 |
糸井 |
マネされるところまで‥‥? |
藤田 |
精神的なものだとか 全体的なものからいくと、桑田だと思うんです。 フォームからいっても、 組み立てからいっても、 物の考え方や、野球に取り組む姿勢、 そういうものまでを見ると、桑田です。 あれは立派なエースだと思います。 |
糸井 |
じゃあ、今のジャイアンツには、 精神的なエースと稼ぐエースと、 2人いると、藤田さんは思うわけですね。 |
藤田 |
そうです。 |
糸井 |
一時期、桑田をかばったのは、 あの時代、けっこう、 監督としては考えられたでしょう? |
藤田 |
桑田のふだんの野球に対する取り組みかたや、 生活を見ていますと、 ほんとうに大事にしてやりたい‥‥。 あれだけの素質を持って、 あれだけの生活をしている人間って 野球界には、いないですから。 一時期、桑田に対して、 首脳陣から、ああしろこうしろと 言おうとした時があったんですよ。 練習方法だとか、コーチと多少ありまして。 その時、桑田がぼくのところに 「ちょっと話を聞いてくれますか」 と来たとき、抱えてきたノートが‥‥ (腕をひろげて)こんなに、あるんです‥‥。 桑田は、高校時代からずっと、ずっと、 自分の1日の過ごしかた、 練習方法、何を食べて何時に起きて、 何時に寝て、きょうは何をした‥‥ それをぜんぶ控えていました。 ノートを、ぼくのところに、抱えてきたんです。 それを見たとき、ぼくは、 「こいつにはもう、一言も言うまい」 と思いました。 それぐらい自分を律する力というのがスゴいですね。 不幸にも、マスコミが善玉と悪玉とを 2つ作りあげてしまった時に 一時、悪玉の方に入れられちゃったものですから、 あんなにいい子をね‥‥それはかわいそうでした。 あれは、ぼくは尊敬します。 みごとな人間です。 |
糸井 |
桑田が、悪玉の報道の渦中に 入れられた時って、まわりとしては 「どうカバーするか」 みたいなことがあったと思うんですけど。 |
藤田 |
カバーのしようがないんです。 ああいうように大騒ぎになってしまうと。 「そうじゃない!」とこちらが何度言っても、 新聞に出てしまうんですから。 かわいそうでした。 ああなってしまうと、 何かの機会があったときに、 「桑田はそんな人間じゃないよ」 と個人的に話をするしか、手がない。 |
糸井 |
しかし、桑田は よく何回も乗りこえましたよね‥‥スゴい。 |
藤田 |
あれは、強いですね。 |
糸井 |
強いです。 あんな人は、やっぱりいないんですか。 |
藤田 |
あそこまで徹底して やり遂げているのはいないね。 |
糸井 |
それを監督に わかってもらえているというだけで、 桑田のほうも、きっと、うれしいんですよね。 |
2015-05-02-SAT
タイトル
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
体温のある指導者。藤田元司。
対談者名 藤田元司、糸井重里
対談収録日 2002年10月
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