| 糸井 | 今日は、田口さんのブログのなかに 重要キャラクターとしてしばしば登場する、
 田口さんの奥様(恵美子さん)も
 いらっしゃってるんですが。
 
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            | 恵美子 | いえいえ、私は、今日はなにも。 主人からひと言もしゃべるなと言われてますので。
 
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            | 糸井 | まぁまぁ、せっかくですから。 
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            | 恵美子 | いえいえ、私は、そんな。 
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            | 糸井 | たとえば、田口さんが、 自由契約になったあと、肩を手術するぞ、
 みたいなことを決めるときって
 相談にのられたりするわけですか。
 
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            | 恵美子 | ‥‥事後承諾です。 
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            | 糸井 | 「事後承諾」(笑)。 
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            | 田口 | (苦笑) 
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            | 恵美子 | 決定権はぜんぶ彼ですし まぁ、彼の野球人生なので、
 私が口を挟むことではない。
 
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            | 糸井 | 「それでいいんじゃない?」 っていうところなんですかね。
 
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            | 恵美子 | というより、反対しても 聞いてくれないのはわかってるんで、
 するだけ馬鹿らしいので。
 
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            | 田口 | こらこら。 
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            | 恵美子 | 野球に限らず、反対しても、反対しても、 「いや、でも!」ってやられるから
 「じゃあ最初から聞かなければいいのに!」
 って、いつも言うんです。
 
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            | 田口 | 答えは、だいたいいつも出てるんですよ。 後押ししてほしいだけなんです。
 
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            | 糸井 | まぁ、人って、そうですよね。 
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            | 恵美子 | いつもそうなんで、 結果的に、ぜんぶ、事後承諾です。
 
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            | 糸井 | いつもそうなんですか。 
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            | 恵美子 | いっつもそうです。 たとえば、オリックスで
 フリーエージェントになったとき、
 私は阪神にお世話になるのかなと思ったんですよ。
 ところが、アメリカに行くらしいんですよ。
 うち、甲子園、見えるんですよ、家から。
 
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            | 糸井 | 近いんですね(笑)。 
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            | 恵美子 | 近いし。 まして、身に余るほどの評価までいただいて。
 あと、なんといっても
 私、阪神ファンだし!
 
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            | 一同 | (笑) 
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            | 田口 | (苦笑) 
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            | 恵美子 | なのにあっさりアメリカって言うし。 今回も正直、私、20年も続けたんだから、
 やめるのかなぁなんて思ったら、
 なんか、やるらしいし。
 
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            | 糸井 | 「やるらしいし」(笑)。 
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            | 恵美子 | まぁ、そのへんは、彼が決めることなので。 わたしは与えられた状況の中で
 ベストを尽くすだけ、というか。
 
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            | 田口 | いや、ちゃうねん、 今回、戦力外って言われたときは、
 ほんまにやめようと思ったんです。
 
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            | 恵美子 | ちがう! それは、ウソ! 
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            | 糸井 | まぁ、まぁ‥‥。 
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            | 田口 | 引退しようって‥‥。 
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            | 恵美子 | ちがう! (糸井に向かって手を挙げる)
 ハイ!
 
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            | 糸井 | はい、恵美子さん。 
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            | 恵美子 | それは、ちがいます! 
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            | 一同 | (爆笑) 
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            | 恵美子 | 引退しようかなって思ってたんじゃなくて、 「みんながオレを引退させようとするんや」
 っていう言い方をするんですよ。
 
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            | 糸井 | なるほど。 
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            | 田口 | いや、でも、ぼくは、代理人と、 「20年もやったしなぁ‥‥
 もうそろそろだなぁ」っていう話を‥‥。
 
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            | 恵美子 | ちがうでしょ! 「引退しなきゃいけないのかな」って
 すねた子どものような言い方で。
 
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            | 糸井 | ははははは。 
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            | 恵美子 | で、わたしはもう、ほんとにもう 答えが早くほしいだけなので
 「どっちでもいいから決めて!」って。
 続けるなら続ける、やめるならやめる。
 思い惑う気持ちはわかりますが、
 立ち止まり続けるわけにもいかないので、
 とにかく早く決めてほしかった。
 だけど、この人は、うねうねうねうねうね‥‥。
 
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            | 一同 | (笑) 
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            | 恵美子 | あんまり決めないから、まぁ、たとえばの話で、 「20年もやったわけだし、
 引退試合のひとつもしていただいて、
 両親を招待したりして、
 区切りをつけるのも親孝行かもしれないよ」
 みたいなこともさりげなく言ったりして。
 
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            | 糸井 | 大人っぽい提案ですね。 
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            | 恵美子 | わたし、いちおう4歳上なので、 ときどき保護者的にふるまわなきゃ、
 と勝手に思い込むこともあります。
 
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            | 田口 | でも糸井さん、その大人っぽい提案、 夜中に突然、揺り起こされて
 いきなり言われたんですよ!
 
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            | 糸井 | はははははは。 
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            | 田口 | 「20年もやったわけだし! 親孝行したらどう?」みたいに。
 ぜんぜんさりげなくない!
 
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            | 恵美子 | あんまり決めないからです! でも、そんなふうに言ってみたら、
 「べつに引退なんて、
 そんなきれいな形じゃなくてもいい」って。
 「勝手に消えていったって、
 べつにかまへんやんか」って。
 
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            | 糸井 | すねてるわけですね。 
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            | 恵美子 | すねてるわけですよ。 まあ、たしかに、いろんな行き違いもあって、
 八方ふさがりという感じの
 かわいそうな状況ではあったんですけど。
 で、ある日、車に乗ってたら
 「やるっ!」って、いきなり言うんです。
 で、ああ、やるんだ、って。
 
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            | 田口 | いや、ほんとにね、2日間、 やめるモードだったんです。
 自分でも、もう、あかんのやなと思ったんです。
 「ダメだ」って、はっきり思ったんです。
 で、代理人とも、
 「つぎはどんな仕事になんのかなぁ」
 っていう話までして。
 
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            | 糸井 | あ、そこまで進んでたんですか。 
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            | 田口 | そうなんです。 つぎはどうなるのかって話をして、
 代理人が、
 「それは責任持って探します」
 って言うから、ぼくも、
 「そうか、じゃあ近いうちに答えを出すわ」
 って言ってたんですよね。
 そしたら、その2日後ぐらいですよ。
 急に、闘志が、メラメラメラメラぁーーっ!!
 
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            |  | 
          
            | 一同 | (笑) 
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            | 糸井 | 車のなかで、急に、闘志が(笑)。 
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            | 恵美子 | 車のなかでかけてた曲が 悪かったと思うんですよね。
 盛り上がる系の曲だったんで。
 
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            | 田口 | オレは簡単か。 
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            | 糸井 | で? 
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            | 恵美子 | そう言われたら、もう、やるしかないです。 家もあっさり、現役続行ムードになって。
 でも、さっき、糸井さんも、
 金銭的なことをおっしゃいましたけど、
 現実問題として、ずっと浪人できるような
 貯えとか、余裕があるかっていうと、
 うちは、ぜんぜん、
 そんな余裕はないんですよ、ほんとに。
 
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            | 田口 | そうなん?! 
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            |  | 
          
            | 一同 | (爆笑) 
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            | 恵美子 | ないない。 いちおう見栄張って
 ベンツとか乗らせていただいてますが、
 内情的には、いっぱいいっぱいです。
 プロの生活は見かけは派手ですが、
 一部のスター選手を除いて、
 決して内幕は華やかではありません。
 サラリーマン家庭で育った私たちにとっては、
 いまの生活は夢の中みたいなもの、というか、
 もう十分、いい夢をたくさん見せていただいたので、
 いつでも現実に戻る準備をしないと。
 
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            | 田口 | ‥‥通帳見てみよう。 
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            | 恵美子 | 見ないほうがいいと思うよ。 たぶん、仕事探したくなるから。
 
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            | 田口 | そうなん?! 
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            |  | 
          
            | 一同 | (笑) 
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            | 恵美子 | まぁ、でも、いままで、 金銭的なことだけを考えるのであれば、
 もっといい選択というのは、
 数多、ありました。正直言って。
 
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            | 糸井 | うん。そうでしょうね。 
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            | 恵美子 | お金がすべてではないけれど、 プロは金銭で評価される世界でもあります。
 もちろん彼の野球人生ですから
 私に決定権はないものの、
 心のなかでは、もう、
 「あっちに行け?!」「あっちを選べー!」と。
 
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            | 糸井 | はははははは。 
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            | 恵美子 | なんだかさもしいですが、 お金がほしい! というのとはまた違って、
 お金イコール、期待や評価の表れである以上、
 いいほうに行け、いいほうに行け、
 と思うんですけど、
 絶っっっ対、ちがうほうに行くんですよ!
 
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            | 糸井 | はははははは。 
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            |  | 
          
            | 田口 | ‥‥しゃべりすぎちゃうか? 
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            | 糸井 | でも、好きじゃないところへ行って うまくいくタイプの人じゃないでしょう?
 
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            | 恵美子 | そうなんです。 好きなんですよ、彼、野球が。
 だから、彼から野球を取ったら、
 もう廃人になっちゃう。
 
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            | 糸井 | ああ、急にホロリとさせますね。 
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            | 恵美子 | で、そうなったら、私も後悔する‥‥。 というのも、このオフ、2ヵ月だけ、
 「野球をしてない田口壮」
 というのを経験したんですけれど‥‥
 ほんっっとに、なんにもしない人で、
 「こんなに邪魔か!」と思った。
 
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            |  | 
          
            | 一同 | (爆笑) 
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            | 糸井 | はははははは。 
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            | 恵美子 | だから、えーと? 熟年離婚? 定年退職の日に離婚を持ちかける
 奥さんの気持ちを想像してしまいました。
 
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            | 田口 | ‥‥しゃべりすぎちゃうかな? 
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            | 恵美子 | いや、そうですね、いま言ったことは カットでお願いしたいんですけど。
 
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            | 永田 | いえ、載せます。 
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            | 恵美子 | ちょっといい言い方をすると、 なにかをやって燃え尽きた人というのは、
 こんなに重いのか、と。
 
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            |  | 
          
            | 糸井 | お、うまい言い方ですね。 「燃え尽きた人はこんなに重いのか」。
 
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            | 恵美子 | いまのナイスでしたね。 こっちを載せてください。
 
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            | 永田 | 両方載せます。 
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            | 恵美子 | なにか、野球以外に、 やりたいことがあればいいんですけどね。
 もう、ほんと、旅でも、囲碁でも、
 なんでもいいんですけど、彼は‥‥。
 
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            | 糸井 | 野球なんだ。 
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            | 恵美子 | 野球なんです。 で、その2ヵ月くらい、
 「やりたいことがない人」が24時間、
 ずーっとそばにいる状態だったんですけど、
 すごーく、つらくて。
 
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            | 糸井 | ああ、はい。 
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            | 恵美子 | で、「仕事がしたい」って言うから そう、そのとおりって思って。
 
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            | 糸井 | 人に要請されてないときの 男の人たちの気落ちの仕方っていうのはね。
 
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            |  | 
          
            | 恵美子 | 一気によわよわしいですよね、 それまで張り詰めきっていたぶんだけ。
 
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            | 糸井 | うーん、でも、それは、 田口さんだけじゃないと思いますよ。
 俺も絶対そうなると思いますね。
 
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            | 田口 | なんか働こう、って言って、 一回、ものすごく熱心に庭掃除したよね?
 
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            | 恵美子 | そう、それで、 すっごい庭はきれいになったの。
 
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            | 糸井 | でも、すぐ終わっちゃうんですよね。 
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            | 恵美子 | そうなんです。 
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            | 田口 | しかも、その日、取材が入ってたの忘れて、 ずっと庭掃除してたんです。
 
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            |  | 
          
            | 恵美子 | そうなんですよ。 それで、また
 「オレは約束も守れない男なんか」
 とか言って落ち込んだりして‥‥。
 
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            | 糸井 | ははははは。 
 
 (つづきます)
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