草場 竹内さん、今日は高知からお越しいただいて
ありがとうございます。

竹内 いえいえ、久しぶりにお会いできてうれしいです。

草場 そうですね。
以前お会いしたのが、私が仁淀川町に伺ったときでした。
ほぼ日のスタッフの方から
「おいしいお茶があるんです」って、
「yellow」のお茶をいただいたのがきっかけで
tretreを知ったんですけど、
香りの出ないお香を作ることになったと聞いて
「どういうこと？ 何のために作るの？」
ってすごく興味が湧いて、
高知への取材に同行させてもらったんです。
あの時見た緑や仁淀川の景色が忘れられなくて、
今でも携帯のカメラロールを見返したりしています。

竹内 そう思ってもらえてうれしいです。
僕も、旅先から帰るたびにそう思うんですよね。
旅でもきれいな場所へいろいろと行くんだけど、
仁淀川がやっぱり一番やなと。

草場 本当に。
あんなきれいな川、見たことなかったです。

草場 竹内さんの工房も拝見して、
蒸留システムにもびっくりしました。
信じられないくらい大きくて！

竹内 草場さんが上に手を伸ばして
ぎりぎり届くか、届かないくらいの高さですね。
あれで一度に大量のヒノキを蒸留して、ヒノキオイル
やヒノキウォーターを作っているんです。

草場 あれを見たからというのもあるんですけど、
初めてお会いしたときの竹内さんは
仁淀の自然とともに生きながら何かを操る
「仙人」みたいなイメージでした。

竹内 ははは。仙人ですか。

草場 ちょうど竹内さんが「香らず香」の試作品を
仕上げられたタイミングでもありました。
私、普段からいろんな場所で
匂いが気になることが多いんですけど、
ルームスプレーや消臭スプレーは局所的に使うものなので、
お香なら空間自体を穏やかに消臭してくれるから
すごくいいなと思ったんです。

竹内 ああ、そうですね。
リネンスプレーとかだと局所的ですから。

草場 それに、お香の佇まいも好きなんです。
私のヘアメイクという仕事では
どれだけ時間を短く仕上げるかを考えて
気持ちが急いてしまうことが多いんですけど、
お香は火を点けたときに
ゆっくりした雰囲気が漂うので
気持ちも穏やかになるんですよね。
一度落ち着こう、というときにも使っています。

竹内 わかります。
落ち着きますよね。

草場 「香らず香」は草場妙子化粧品店でも
取り扱わせていただいているので、
どんなふうに作っていかれたのか
あらためて伺いたいんですが、
まずは竹内さんがtretreをはじめられたきっかけは
どんなことだったんでしょうか。

竹内 僕は高校まで高知で過ごしてから、
京都の大学へ行きました。
卒業して、そのまま京都で
料理関係の仕事に就いたんですね。

草場 料理を、作るほうですか？

竹内 作るところから始めて、
そのおもしろさや奥深さを知って、
好きなものを探しながら
経営までひと通りやらせてもらいました。
振り返るとすごく楽しかったんですけど、
当時は自分が求めている方向性と
違いを感じてきたこともあって、
10年ちょっと前に高知に戻ることにしました。
昔ながらの暮らしが残っているところで
「暮らしのまわりにあるもの」から作るというのが、
自分なりに真実味があると感じたんですよね。

草場 なるほど。
暮らしのまわりにあるもの。

竹内 はい。
「摘み草料理」というジャンルが京都にあるんですけども、
僕は仁淀の山に自生する植物を採ってお茶にする
「摘み草茶」を始めました。
煎茶と違って釜炒りして仕上げるお茶や、
山あいで旬に摘んだドクダミやヨモギなどを
ブレンドして作っていくんですけど、
日本のハーブティーみたいな感じですね。
家庭や親戚の間で飲み継がれてきたような素材を
生かしながらブレンドしていて、
レシピとしては今100種類くらいあります。

草場 100種類も！

竹内 仕事としては
料亭や旅館のような先様とご相談しながら
オリジナルの摘み草茶をご提案するんですけど、
それは、季節を細かく捉えていくことになるんですね。

草場 ええ、そうですよね。

竹内 ひとことに「春」と言っても、
まだ寒さが残る春と
ちょっと暖かくなってきた春、
夏に向かって行くような春では
全然雰囲気が違いますよね。
口にするものでも、
旬の食材は変わるし、同じ食材でも香りや味が変わる。
そういう細かいレベルで捉えようとすると、
不要な香りがとても気になるんですよ。
特に、山の中の
ものすごくプレーンな空気の中で暮らしているので、
化学的な消臭剤や香料はすごく引っかかる。

草場 わかります。
匂いを消すために使うものでも、
逆にその香りが気になりますよね。

竹内 だから心地よく消臭できるものが欲しいなと思って、
摘み草茶以外で最初に作ったのが
「によどヒノキウォーター」でした。
山では５月くらいにミカンの花が咲くんですけど、
その時期に車で走っていると、
窓から風にのってそのアロマが香ってくるんです。
朝靄の中から、ふわーっと。

草場 ああ、最高ですね！

竹内 最高でしょう？
「これが作りたい」と思って、
ベルガモットの香りをブレンドして
「によどヒノキウォーター」を作りました。
僕が自宅用に使っていたんですけど、
ほぼ日のスタッフの方が
お茶の取材で来てくださったときに
「これ、どうして商品化しないんですか？」
っておっしゃって。

草場 そこから商品化されたんですか？

竹内 そうなんです。
自分で使いながら
本当に消臭できるなとは思っていたんですけど、
商品化のお話をいただいたことをきっかけに、
本当に効くのか、
どれぐらい効果が持続するかを
２年ほどかけて分析しました。
縁あって高知県立大学の先生にも協力していただけて。

草場 すごい。本格的ですね。

竹内 研究しながら、どんな規格づくりをすれば
理想の消臭ができるか考えていったんですけど、
「によどヒノキウォーター」はミスト状のスプレーだから、
効果としてはやはり局所的なんですよね。
けれど、家の台所でお魚やお肉を焼いたりすると、
空間全体の香りをどうにかしたい。
それが「香らず香」の開発のきっかけになったんです。