ほぼ日のにほん茶でお世話になっている
お茶屋さんが、
「片桐はいりさんって、
すごくお茶がお好きなんですよ。
ほぼ日もよく見ているそうです」
と教えてくださいました。
えええ、片桐はいりさんといえば、
舞台、映画、ドラマに‥‥と
幅広く活躍なさっている女優さんです。
お茶がお好きで、
しかも、ほぼ日を見てくださってる‥‥?
それはぜひお話をうかがいたい、
ということで、
インタビューさせていただきました。
聞き手は、にほん茶チームの藤田です。
気のせいはない。
- 片桐
- (お茶をいれているところを見て)
ん? 今いれてるのは、なんですか?
- ――
- これは「あたり茶」といって、
急須のいらない粉末茶です。
お湯をいれてかきまぜるだけなので
お家でも、旅先でも、便利です。
- 片桐
- へえ。お薄じゃないの?
(※お薄:少なめの抹茶で点てたお茶)
- ――
- はい、抹茶とは違って、
煎茶の茶葉を粉砕した粉末茶です。
粉末茶というのは、
ふつうは煎茶をつくる過程で生じる
副産物的な茶葉を粉末にすることが多いそうですが、
これは、すごくおいしい茶葉を
まるごと粉砕していて、
贅沢なつくりかたをしています。
- 片桐
- へぇ、おもしろい。
粉末といえば、私も一時「べにふうき」を
粉で飲んでるときがありましたよ。
- ――
- べにふうき、春先にいいですよね。
ほぼ日でも、「うすくれない」という名前で、
毎年べにふうきを出しています。
この対談が出るころに、
まさに販売しはじめるんですけど。
- 片桐
- すごいですね。
ほんとにいろいろ出しているんですね。
- ――
- 初年度は秋のお茶だけでしたが、
その後、新茶、べにふうき‥‥というふうに
種類が増えていきました。
そういえば、一番最初に出したお茶は、
糸井が名付けたんですけど、
「句読点」という名前だったんですよ。
だから、さっき、はいりさんがおっしゃった‥‥
- 片桐
- 「ピリオド」?
- ――
- はい。さきほど、はいりさんが、
「食後にお茶を飲むと、
ピリオドという感じがする」
とおっしゃってたので、
繋がるなぁと思いました。
- 片桐
- 私もコピーライターになれる(笑)。
- ――
- (笑)
- 片桐
- (「あたり茶」を飲んで)
なるほど。あぁ、おいしい。
粉っぽいものを飲んでる感じがしない。
ちょっと、抹茶みたいな風味もあっておもしろい。
旅行に行くとき持って行けるし‥‥。
旅、そうだ、旅というと、この間、
すごくおもしろい人に出会ったんですよ。
- ――
- 旅先でですか?
- 片桐
- はい。
京都の丹後半島に伊根という
今外国の方にも人気のある集落があるんです。
舟屋と言って、
海に張り出したボートハウスみたいな家が
ずらりと並んでいる不思議な入江で、
そこのガレージみたいなところで、
台湾のお茶をいれている仙人みたいな人がいたんです。
- ――
- 仙人。
- 片桐
- その人がお茶を飲ませてくれたんですけど、
それが、とにかくすごかったの。
なかなか普通には手に入らないお茶っ葉らしいんですが、
いれ方にもいろいろ思い入れがあって、
飲んでるうちに、
なんかフワッとした不思議な感覚になって‥‥。
そこは海に浮かんでいるような町なんですけど、
夜光虫がいっぱいいて、波が青白くチロチロ光ってる。
それを眺めながらお茶を飲んでいたら、
偶然地震が起きて、その瞬間入江中が光ったんです!
そういうのも、ぜんぶ含めて、
不思議な体験でした。
- ――
- 海に浮かんでいるような町で、
仙人みたいな人がいれる台湾茶‥‥
想像するだけで幻想的です。
- 片桐
- そう。何煎も何煎もいれてくれるんですが、
味が一煎ずつ変わって行く感じもおもしろくて。
感想を言いながら飲んでて、
「このお茶はさっきのより
まろやかだと思うんですけど、気のせいですかね」
と私が言ったら、その人が、
「気のせいはない。
感じたことがすべて!」と言ったんです。
それ以来、「気のせいはない」というのが
私のお気に入りの言葉です。
- ――
- 「気のせいはない」。
- 片桐
- はい。
だって、私たちはいつも情報に
左右されてますよね。
お茶に限らずコーヒーもワインも、
「甘い」と言われて飲んだら、
甘く感じちゃうみたいなこと、あるじゃないですか。
- ――
- たしかに、
先入観にとらわれてしまいます。
- 片桐
- 「このお茶は良いお茶でございます」
と言われて、張り切って
高いものを買っても、
全然おいしいと思わないことも逆にあるし。
そのときの体調や
事前に食べたものとかの影響もあるから。
- ――
- うおがし銘茶のみなさんもよく、
「お茶は自由なものだ。
お客さんが感じることがいつも正しい。
接客するときも、お客さんが飲む前に
いろいろ言わないようにしている」
ということをおっしゃってます。
- 片桐
- そうそうそう。
- ――
- それに関連した話で、
弊社でお茶を販売するときに、
その説明文を書いていて、
うおがし銘茶さんのサイトでは
どんなふうに書かれているのかな、
と参考までにサイトを見たら、
お茶に関してほとんど説明されてないんですよ。
- 片桐
- それは正しい姿勢だと思います。
- ――
- そのかわり、イラストで
香りや濃さのイメージを表しているんです。
でも、もともとのアイデアは、
それよりもすごくて、
うおがし銘茶の会長さんが、
「お茶の味を男の顔のイラストで表現しよう。
このお茶は、眼鏡をかけた細い顔の男で‥‥」
みたいなことを考えたそうです。
それは実現しなかったそうですけど、
そういう発想がすばらしいなと。
- 片桐
- あぁ、なるほど。おもしろいですね。
うんちくを言うより、
「においがいいのが好きな人はこっち」
くらいのことでいいんですよね。
- ――
- はい。潔さが伝わってくるんです。
「お茶に語らせなさい」というか。
- 片桐
- いや、お茶に限らず、
すべてそうだと思います。
「感じたことがすべて」で、
「気のせいはない」ですね。
- ――
- 「気のせいはない」。
いつも覚えておこうと思います。
はいりさん、お茶のおかわりはいかがですか?
- 片桐
- ありがとうございます。いただきます。
私はお茶が目の前にあると
いつまでも飲んじゃうタイプなんです(笑)。
あの、全然関係ないけど、今、
私は学校でもお茶係だったことを思い出しました。
中学、高校と。
- ――
- えぇ? すごい。
- 片桐
- 学生時代、お弁当をきれいに食べ終えたいから、
最後はお茶を注いでお茶づけにしてたんです。
だから、食後にたっぷりお茶がないと嫌で。
でも私が通っていたのは女子校で、
他の女子がお茶をくみに行くと、
ヤカンが重いから少ししか持ってこないんですよ。
それが困るので、私がお茶を運んでました。
本来、お茶係というのは、
日直がやらなきゃいけないんだけど、
「お茶だけは私が!」(笑)。
- ――
- 家でも学校でもお茶係。
とことん、お茶まわりのことをなさってますね。
- 片桐
- いや、そんなこと考えてこの場に来なかったけど、
話しているうちに、次々と思い出しました。
なんかもう、とんでもなく忙しいというときも、
最後にお茶を飲まないと落ち着かない。
喉が乾いてないときでも、
お茶をいれるということ自体が大事みたい。
- ――
- 今日はこんなにたくさん
お茶の話をうかがえて、うれしかったです。
お茶をたくさん飲む人、
もっと増えるといいなと思いました。
- 片桐
- お茶、ごちそうさまでした。
まずは家族にお茶をいれる、という子が
増えるといいですね。
- ――
- そうですね。
今日はどうもありがとうございました!
(終わります。最後までお読みいただき
ありがとうございました。)
2018-02-08-THU
※このインタビューは2017年12月に行ったものです。
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN