「これは古くは奈良時代から
『緑釉』(りょくゆう)と呼ばれた色なんですよ。
『織部』の名前の元は、利休さんの時代、
一番弟子と言っても差し支えない
古田織部(ふるたおりべ)という人がいて、
それまでの日本の流れから脱皮するような
形・色・絵付けを考えました。
西洋にも影響を受けるし、庶民の文化にも入っていく、
そんな人だったようです。
古田織部がつくった緑釉を使った陶器が
やがて大衆化されていき、
「織部焼」と呼ばれるようになりました。
ほんらい織部すなわちグリーンというわけではなく、
黒織部、赤織部、いろいろな色があります。
そのなかでこういったグリーンを「青織部」と言います。
それは昔の日本では「青」はグリーンを指したからです。
そしていまや『織部』といえばこのグリーンを連想するほどに
ひろがっていったんです」

(福森雅武さん)

道歩さん作「夏の揚げびたし 3種盛り」。右下が青織部。

青織部は、土楽では以前から使ってきた釉薬ですが、
今回、はじめて「カレー皿」に使うにあたって、
福森道歩さんは「理想の青織部」をつくるべく、
いちから釉薬を開発しました。

「料理映えする色を、と考えて、
自然に近い緑にしたいと考えました。
それが今回の『青織部』です。
けれどもこの色は、出すのがとても難しいんです。
あたまのなかにある理想の色が、なかなか出ない。
試作の最初の頃はブルー寄りになってしまって、
まるで食欲を減退させるような印象でした。
グリーン系では『灰釉』という
とても料理映えする色がすでにありますから、
違いを出しつつ、私が好きな緑を出したかった。
けれどもその色が全然出なくて、
配合を変えたり、焼成温度、冷まし方、
その組み合わせを何度も何度も試しました」

(福森道歩さん)

道歩さん作「いちぢくと生ハム」。

じつは「織部をつくろうと思う」と提案をいただいたのは
いまから3年ほど前のこと。
昨年、この色だ! というところまで行き、
量産をはじめたところ、1回目の窯で、
ブルーが強く出てしまいました。
試作と量産では、具合が違ったのです。
ふりだしにもどった道歩さんは、
あらためて熱源を変えるなどの工夫をして、
少量だけれども確実に色を出す方法をみつけ、
ことし、ようやく量産体制がととのったのでした。

「こまかいことを言うと、
冷まし方によっても全然変わるんです。
窯の火を止めたら、すぐに扉を開けて急冷します。
そうして200℃くらい一気に下げると、
鮮やかな色になるんですよ。
そうしないと、くすむんですね。
『織部』は銅で色を付けているんですが、
酸化、空気をを多くするとグリーンになって、
酸素をできるだけ少なくすると、真っ赤になるんです。
それも『辰砂(しんしゃ)』という名前のつく
うつくしい色でもあるんですけれど」

(福森道歩さん)

道歩さん作「キーマと揚げ野菜のカレー」。
食材のあざやかな色が映える。

道歩さん作「とうもろこしごはん」。ひとくちカレー皿を使って。

さて「灰釉」や「アメ釉」に比べて、
色の個性が強い印象の「青織部」、
どんな料理が合うのでしょう?

「くすんだ色よりも、冴えた色の
料理のほうが合うんじゃないでしょうか。
野菜でも鮮やかな野菜を。
伊賀の夏の景色は、周りが山だから、
グリーンですよね。その色と合うのは、
いまならアジサイなどの花の色です。
そういう爽やかさを出すような料理が
似合うと思いますよ。
夏なら自然のなかにある夏の色彩、
冬なら冬の色彩というのを組み合わせる。
料理って言ったら、料理のことを中心に考えますけど、
自分が目にする全体を意識に入れて、
この皿には何が合うだろうかということを考えると
割合、できるんじゃないでしょうか」

(福森雅武さん)

雅武さん作「ブイヤーベースカレー」。
茹でたグリーンアスパラガスの強い緑がアクセントに。

「緑の皿なので、別の緑を合わせるのもいいんですよ。
つまり、洋服でも、髪の色と合わせたり、
靴の色と服の色を合わせたりしますよね。
そんな感覚で楽しんでいただけたらと思います」

(福森道歩さん)

土楽の三女、柏木円さん作「トマトと牛すじのカレー」。
生のバジルをのせることで、統一感が。

道歩さん作「ハーブたっぷり生春巻き」。
青織部はエスニック料理にもよく合う。

販売開始は、27日(水)午前11時からの予定です。
どうぞ、おたのしみに。

(つづきます)

2016-07-25-MON