糸井 |
最初は、行き先なんてなかったんですね。
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堤 |
‥‥と言うと?
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糸井 |
その、「すごいスケッチブック」の。
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堤 |
あ、そうなんです。
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糸井 |
そもそも、こんなことはじめたのは‥‥。
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堤 |
はじめは、単なる「遊び」だったんです。
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糸井 |
つまり「回したかった」んだ?
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堤 |
そうです。
チャリティのことなんて、考えてなくて。
一冊のスケッチブックで
好きなアーティストとつながりたいっていう
そういう動機からはじまりました。
で、お金から距離を置くために、
ゆくゆくは「チャリティ」に寄付しようと。
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糸井 |
距離を置く?
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堤 |
ぜんぶ「手っ取り早く」なるなと思って。
チャリティにしてしまったら。
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糸井 |
ああ‥‥なるほど。
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堤 |
実際、お金が目当てじゃなくなるから、
純粋に
このプロジェクトに参加したいって人しか
近寄ってこなくなりました。
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糸井 |
そうか、そうか。
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堤 |
だから、チャリティは二の次だったんですけど、
そう決めちゃったら、
最初から
いいエネルギーが集まって逃げて行かない。
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糸井 |
あと1ページで完成するって聞きましたけど、
ここまで、どれくらいかかったんですか?
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堤 |
4年半です。
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糸井 |
はー‥‥。
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堤 |
参加してくれたアーティストが
1枚1枚、
本当にがんばってくれたからこそなのですが、
結果として、すごい作品の連続で。
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糸井 |
ちなみに‥‥1ページ目は?
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堤 |
「スケッチトラベル」のプロジェクトは
ジェラルド・ゲルレという
フランス人イラストレーターといっしょに
進めてきたんです。
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糸井 |
ええ。
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堤 |
2006年9月に
このアイディアを「いっしょにやろう」って
彼から提案されたんです。
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糸井 |
ほう、ほう。
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堤 |
そのときぼくは、はじめてのパリにいて、
大好きな
レベッカ・ドートゥルメールという絵本作家に
どうしても会いたかった。
ジェラルドは、レベッカと面識なんてなくて
コネクションもなかったんですけど、
電話帳で電話番号をしらべて
「堤大介ってやつが
アメリカから来てるから会ってくれ」って
突撃したんですよ。
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糸井 |
‥‥じゃっかん、迷惑ですね(笑)。
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堤 |
そういう性格のやつなんです(笑)。
ま、最初はすごく嫌がられたんですけど‥‥。
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糸井 |
‥‥知らない人だもんね。
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堤 |
でも、彼が何度も頼みまくった結果、
パリでやっていた
ぼくのグループ展に来てくださったんです。
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糸井 |
レベッカさんが。
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堤 |
ただ、彼女の来てくれた日が
オープニングの日で
人が大勢いたので、帰っちゃったんです。
ちょっと人が苦手なところがあって。
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糸井 |
はぁ、なるほど。
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堤 |
ジェラルドは、その日のうちに電話して、
「なんで来なかったんだ」と。
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糸井 |
それは‥‥きっついなぁ(笑)。
レベッカさんにしてみたら。
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堤 |
そうなんです。
案の定、怒っちゃったんです、彼女。
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糸井 |
でしょうねぇ。
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堤 |
でも、それでもジェラルドが
熱心に頼むものだから、
もういちど
グループ展に来て、ぼくの作品を見てくれた。
そうしたら、
なかなか悪くないと思ってくれたのか、
友だちになってくれたんです。
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糸井 |
そのへんはアーティスト同士ならでは、
なんでしょうね。
作品で認め合う、という。
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堤 |
そして「スケッチトラベル」の1ページ目も
結局、レベッカに
描いてもらうことになったんですよ。
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糸井 |
なるほど。
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堤 |
で、できあがった作品を見てみたら、
1ページ目から
もう「スケッチ」とは言えないくらいの
ものすごいクオリティでした。
それから、そのスケッチブックは
「スケッチブック」といいながらも
まるで
作品集みたいになっていったんです。
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糸井 |
どんなチャリティを想定してるんですか?
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堤 |
どのくらいの金額で落札されるかわからないし、
「ラオスに図書館を建てる」という
目標はありますけど‥‥具体的には、まだ。
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糸井 |
原丈人さんにも、相談を持ちかけたとか?
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堤 |
はい(笑)、そうなんです。
チャリティを持って行く先について
このあと、アドバイスをいただく予定です。
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糸井 |
もともと、知り合いだったんですか?
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堤 |
いえ、ふだんはサンフランシスコの美術館で
受付の仕事をしている
Yukino Pangさん(以下「ゆきの」さん)という
日本人がいまして‥‥。
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糸井 |
ゆきのさん‥‥はい。
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堤 |
以前から「ほぼ日」で原丈人さんの連載に
感銘を受けて、
まわりの人に宣伝していた人なんですけど。
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糸井 |
そうなんですか。
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堤 |
たまたま、そのゆきのさんのはたらく美術館に
原さんがいらしたときに、突撃したんですよ。
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糸井 |
また「突撃」だ!(笑)
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堤 |
ゆきのさんとは不思議なご縁があって、
3年前、
ピクサーも関わった「トトロの森プロジェクト」を
やったときも
彼女に、お手伝いいただいたんですね。
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糸井 |
えっと、それは?
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堤 |
埼玉県所沢市にある狭山丘陵は
宮崎駿監督の『となりのトトロ』が生まれた場所と
言われていますけれど、
この森が危機に瀕しているということで、
ディズニー、ドリームワークス、ルーカスアーツ、
ピクサーに属するアーティストが
「私のトトロ」というテーマで作品を提供し、
それらをオークションにかけて、
約2000万円の資金をつくったんです。
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糸井 |
森を守るための、ええ。
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堤 |
そこで、原さんに「突撃」して
メールをやり取りするようになった
ゆきのさんが、
今回の「スケッチトラベル」のチャリティについても
どこに持って行ったらいいか
相談を持ちかけてくれているというわけなんです。
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糸井 |
そういうの詳しそうですもんね、原さんって。
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堤 |
そして、そのゆきのさんが
「ほぼ日」にもメールしてくださり、
今日こうして、糸井さんとも。
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糸井 |
すごい人ですねぇ、その人。
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堤 |
ここにいますけど。
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糸井 |
‥‥あ。
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ゆきの |
こんにちは。
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糸井 |
ようこそ、いらっしゃいました。
うちにも「突撃」で(笑)。
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ゆきの |
すみません、おしかけてしまって(笑)。
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堤 |
ともかく、ことしの10月に
ベルギーでオークションにかけるんですが、
そのお金を
チャリティに寄付しようと思っています。
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糸井 |
どういったアーティストが
「スケッチトラベル」に参加しているんですか?
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堤 |
ビル・プリンプトン、 ジェームス・ジーン、
レベッカ・ドートゥルメール、
グレン・キーン、フレデリック・バック‥‥。
ぜんぶで71名のアーティストに
参加していただきました。
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Greg Couch |
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Carlos Nine |
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Carter Goodrich
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糸井 |
はー‥‥よく「転がった」もんですねぇ。
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堤 |
そうですね、本当に。
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糸井 |
いま堤さんが挙げたお名前、
すべてを知ってるわけじゃないですけど
「そうそうたる」わけですよね?
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堤 |
はい、そうそうたる、です。
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糸井 |
フレデリック・バックさんというのは、
『火垂るの墓』の監督をやった
ジブリの高畑勲さんが
たしか、とても慕っておられた記憶が。
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堤 |
そうです、そうです。
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糸井 |
日本人は‥‥?
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堤 |
寺田克也さん、上杉忠弘さん、
松本大洋さん‥‥。
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糸井 |
それと「最後のページの人」ですね。
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堤 |
はい。
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糸井 |
もう、オファーはしたんですか?
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堤 |
いえ、あした。
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糸井 |
引き受けてくれそうなんですか?
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堤 |
お会いしてみないと‥‥。
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糸井 |
このプロジェクトの最後のページを
どうしても
お願いしたかったと聞きましたけど。
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堤 |
最後のページは、
もう、その人以外には考えられません。
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糸井 |
‥‥宮崎駿さん。
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堤 |
はい。 |
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<つづきます> |