一瞬、その質問の意味をボクらはわかりかね、
シーンとします。
10分?
20分?
それとも心置きなく何時間でも迷っていられるものかしら?
なんたる質問。
息が止まっちゃうかとビックリしました。
とはいえさすがにプロでござんす。
給仕係の紳士は笑顔を崩さずに、
しっかりそれを受け止める。
私共のような店は、
お客様が時間をたのしく無駄遣いするために
お越しになる場所でございますゆえ、
存分にお悩みください。
ただ、なるべくならばオーダーストップの時間までに
お決めいただければ、厨房のスタッフは助かります。
お手元のシャンパーニュのグラスが空になりそうになる、
そのタイミング。
私共が、いかがいたしましょうか?
と、自然にテーブルに近づくキッカケと同時に
ご注文をちょうだいできると、
とてもうれしゅうございます。
このテーブルは今夜、ボクたちのためだけにある。
予約を必要とするレストラン。
そこでこうして予約して、
「このお席は何時までのお席でございます」
と、改めて言われない限り、
そのテーブルは予約をした人のための専用テーブル。
ときに、食事を終えるか終えぬかというタイミングで、
予約をしないでやってきたお客様がいたりすると、
じゃぁ、このテーブルをお譲りしますか‥‥、
というようなコトになるけど、
基本的にテーブルは予約をしている人のモノ。
ファミリーレストランや定食屋さん、
あるいは気軽な居酒屋のような予約をしないのが
当たり前のお店のテーブルは、
そこに目指してやってくるすべての人の共有のモノ。
だから長居は無粋だけれど、
今日、今晩のこのテーブルはボクらのためにあるらしい。
それを確かめてでしょうか。
母はグラスを持ち上げて、
クイッと残りを一気に飲み干した。
そして一言。
もう一杯、お替わり頂戴できないかしら。
そしてその一杯分、じっくり悩ませていただくわ! と。
|