登山や山歩きの経験がない人にとって、
行動食(こうどうしょく)という言葉は
聞きなじみのないものかもしれません。
単なる、山で食べるおやつ、と思われがちですが、
じつは、安全に山を登りきるために欠かせない、
大切なエネルギー源。
つらいときに、あともうひと頑張りを後押ししてくれる
心の栄養でもあります。
山へ行けば行くほど、その重要性に気づき、
それを選ぶこと自体が
山歩きの大きな楽しみになっていくもの。
「ほぼ日行動食倶楽部」では、
そんな奥深くて愛おしい行動食の世界を、
さまざまな形で掘り下げていきます。
まずは2組のインタビューをお届けします。
第1回の聞き手は乗組員永田、
第2回はやすなです。
※2025年5月取材
文・谷山宏典
──
さっそくですが、みなさんの行動食を
見せてもらってもいいですか?
▲写真左から環境省の山﨑さん、服部さん
▲写真左からライターの谷山さん、山と溪谷社の五十嵐さん
服部
テーブルに広げちゃっても?
──
どうぞ、どうぞ。おねがいします。
山﨑
かぶっているものもいくつかありますね。
五十嵐
スティック状のバウムクーヘンと魚肉ソーセージ、
‥‥あと、ようかんも、ですね。
──
では、お一人ずつ、ご自身の行動食について、
なぜそれを選んで、山に持っていっているのか、
詳しくお聞かせいただけますか?
まずは山と溪谷社の五十嵐さんからお願いします。
[profile] 五十嵐雅人
登山専門誌「山と溪谷」元編集長。現・山と溪谷統括部長。大学で山岳部に入部し、在学中からアルバイトをしていた山と溪谷社に入社後、アウトドア関係の雑誌や書籍をつくり続けている。
五十嵐
見ていただければわかると思いますが、
僕の行動食は縦長の形状のものがほとんどなんです。
──
たしかに。
五十嵐
なぜかと言えば、ここ最近、ショルダーポケット付きの
バックパックで山に行くことが多くて。
歩きながら、飲んだり、食べたりできるように、
行動食は基本ショルダーポケットに入れたいんです。
──
そうか! だから、縦長なんですね。
五十嵐
SOYJOYは、フルーツ系やナッツ系など
種類がいろいろあります。
味を変えていくつか持っていけば、
飽きずに食べられるので気に入ってます。
魚肉ソーセージは、肉系なのに
常温で持ち歩けるのが行動食向きですよね。
チョコレートは、夏の暑い時期は
とけてしまうので持っていきませんが、
それ以外の季節には定番でして。
最近は苦みのあるハイカカオのものが好きです。
ようかんも、どこでも買えるし、
食べたときの満足感があるので、よく持っていきます。
──
このエブリサポートというのは?
五十嵐
水にとかして、
水分と電解質を補給できるパウダーです。
あまり甘くないので、グイグイ飲めます。
──
はじめて見ました。
ドラッグストアなどで売ってるんですか?
五十嵐
僕はいつもAmazonで買ってます。
──
パンとスティック状のバウムは
腹持ちがよさそうですね。
五十嵐
パンは、ナッツやベリーが入っている
ハード系のものを毎回選んでいます。
これは成城石井で買いました。
あとは‥‥ポリッピーですね。
ポリッピーもいろんな味があり、
個人的にはこの「4種のチーズ味」が
いちばんおいしいと思います。
山小屋やテントに泊まるときには、
夜のお酒のつまみにもなりますし。
──
持っていく量の目安ってあるんですか?
五十嵐
シビアな山行じゃなければ、重量は気にせず、
うちにあるストックから適当に
ガサッと持っていく感じです。
尾瀬であれば、途中の山小屋で
しっかり昼ごはんを食べられるので、
行動食はプラスアルファ的なものとして
普段よりも少なめにすると思います。
──
重視するのは、
栄養や重さよりも、味ですか?
五十嵐
山行の行程にもよりますが、
せっかく山で食べるんだから、
おいしくて、ご褒美感のあるものがいいですよね。
だから、そのときどきに気に入っている、
食べてたのしくなるものを
持っていくようにしています。
[profile] 山﨑大輔
2020年環境省⼊省。北海道の⽀笏洞爺国⽴公園、尾瀬国⽴公園でレンジャーを務めた後、現在は本省勤務。バックカントリースキーや釣り、クライミングなど幅広くアウトドアを楽しむ。
──
では、次に山﨑さん、お願いします。
五十嵐さんの行動食にも入っている
スティック状バウムが3本もありますね。
山﨑
僕はお腹がすぐに空くので、
行動食もカロリー重視なんです。
数年前に東北の山を縦走したとき、
「軽くて、高カロリーのものって何だろう?」
と調べたら、バウムクーヘンが良さそうだなと。
以来、僕の行動食には欠かせないものになっています。
また、柿ピーとグミもいつも持っていきます。
甘いものばかりだと飽きるし、
胃がもたれる感じがあるので、
必ずしょっぱいものをセットにしているんです。
──
甘い系としょっぱい系の組み合わせは、
みなさんもおっしゃる行動食の基本ですよね。
山﨑
そう思います。
しかも、柿ピーはおつまみにもなりますから。
そこも五十嵐さんと同じです。
ドライフルーツは、以前トレラン
(トレイルランニング)をしていたとき、
ドライフルーツとナッツの組み合わせは
栄養バランスがいいという記事を読みまして。
そこまで効果を実感できていませんが(笑)、
食べやすいので毎回持っていってます。
──
この「POW BAR」は?
パッケージもステキですね。
山﨑
北海道の環境省事務所で働いていたとき、
知り合いからもらったことがあって。
ニセコの会社が作っているエナジーバーで、
製造も地元でやっているみたいです。
──
買うのはネットで?
山﨑
いや、ネットではなく、
スーパーの「成城石井」で偶然見つけたんです。
店には6種類のフレーバーがすべて揃っていて、
「こっちの店でも買えるんだ」と
おどろきました。
五十嵐
僕のパンもそうですが、成城石井って
行動食向きの食品がいろいろありますよね。
──
ご自宅にストックはしているんですか?
山﨑
僕はストックしない派です。
家にあると、全部食べてしまうので(笑)。
[profile] 谷山宏典
明治大学山岳部出身で8000m峰の登頂歴をもつライター。圧倒的な経験を活かし、登山専門誌やメディアで記事執筆・編集。主な著書に『穂高に遊ぶ 穂高岳山荘二代目主人今田英雄の経営哲学』『ドキュメント豪雨災害』『鷹と生きる 鷹使い・松原英俊の半生』、共著に『日本人とエベレスト 植村直己から栗城史多まで』
──
谷山さんの行動食は、
カントリーマアム、甘納豆、塩分タブレットなど
個包装のものが多いですね。
谷山
そこが3人とのいちばんの違いかもしれないです。
個包装だと、休憩のたびにこまめに食べられるし、
食べる量を調整しやすいので、便利なんです。
──
行動食は、空腹を感じる前に
ちょっとずつ食べるのがいいと言われてますからね。
谷山
そうなんです。
とはいえ、こまごま食べているだけだと
やっぱりお腹が空くので、パンやどら焼き、
ゼリー飲料など、お腹にたまるものも
1つ、2つは必ず入れています。
全体のバランスとしては、みなさんと同じように、
甘いもの、しょっぱいものを適度に組み合わせて、
という内容ですね。
──
ジッパー付きの袋で2つに分けているのは?
谷山
1日分ごとに分けているんです。
1泊2日なら2袋、2泊3日なら3袋‥‥となります。
五十嵐
日ごとに分けるのは、食べ過ぎを防ぐために?
谷山
それもありますが、大学山岳部時代からの習慣ですね。
その日の行動食をバックパックの雨蓋など
取り出しやすいところに入れるのが
ルーティンになっていて。
準備をするとき、1日単位で考えるから
適正な量がわかりやすいという利点もあります。
──
1日分をその日中に食べきれなかったら、
余りはどうするんですか?
谷山
山小屋やテントに着いて、小腹を満たしたら、
残りは翌日の袋に移し替えます。
それで1日目の袋はそのままゴミ袋に、という流れです。
──
必ず行動食に入れているものはあります?
谷山
ミニサイズのクリームパンや
チョコパンはよく買います。
お腹の空き具合に合わせて、食べる数を調整できるので。
また、ゼリー飲料は水分を一緒に取れるから、
持っていくことが多いですね。
──
ゼリー飲料は重くないですか?
谷山
長期間、山に入ることになったら、
「少しでも軽いものを」となるかもしれないですけど。
今は泊まりでも2、3日の山行がほとんどなので、
重さはあまり気にしてないですね。
[profile] 服部優樹
2019年環境省⼊省。中部山岳国立公園、尾瀬国⽴公園でレンジャーを務めた後、本省勤務。2026年からは四国で野生生物対策に取り組む。トレイルランニングやバックカントリースキーなどのアウトドアを頻度高く楽しむ。
──
では、最後に服部さん、お願いします。
服部
僕の行動食は、自分用と同行者用がありまして。
仕事柄、誰かと一緒に山に入ることも多く、
エネジージェルやエナジードリンクの粉末は、
主に同行者がバテたり、脱水になったときのための
「お守り」として持っていきます。
ずっと行動食袋に入れっぱなしなので、
パッケージがヘタってますが(笑)。
──
残りのようかんやチョコレートバー、
魚肉ソーセージ、カロリーメイトなどが自分用?
服部
そうです。
僕は趣味でトレランをやっていて、
行程を見れば、自分の中で
だいたいのカロリー計算ができるんです。
このルートを、このコースタイムで行くなら、
このぐらいのエネルギーが必要だなって。
ですので、行動食も、消費するカロリーを補充できるか、
ということをまず考えます。
また、体への吸収のスピードも意識していて。
すぐに吸収されてエネルギーになるものと、
時間をかけて吸収されるものを、
バランスよく持っていくようにしています。
──
トレランをされているだけあって、
考え方がアスリート的ですね。
服部
たしかに、そうかもしれません。
塩熱サプリは、発汗で失われた電解質を
補給するために持っていきます。
昨日も山を走って、かなり汗をかいたので、
一袋の半分ぐらいを1日で消費しました。
魚肉ソーセージはたんぱく質を摂るためで、
運動後すぐに食べるようにしています。
──
一つひとつの行動食に明確な役割というか、
意図があるわけですね‥‥勉強になります。
服部
でも、全部が全部、そうじゃないですよ。
たとえば、この「木道ビスコッティ」は、
今年から尾瀬の山小屋で販売を始めたものなんです。
テーマが「いつもの行動食」ということだったので、
トレラン仕様でカロリー計算や
栄養素の話をしちゃいましたが(笑)、
尾瀬に行くときの行動食は
もっと違った考え方でもいいと思うんですよ。
たとえば、景色に合うおやつとか、
一緒に行く人とこれを食べたらたのしそうだなとか。
そういう自由な発想で行動食を選べるのが、
尾瀬のいいところなのかなとも思います。
このビスコッティのおかげで、
カロリーや栄養以外の話もできてよかったです(笑)。
(ほぼ日行動食倶楽部、おしまいです。
今後も行動食を掘り下げていきますので、
どうぞおたのしみに。)
2026-08-01-SAT
(C) HOBONICHI