■ニュース その1■
田島めぐりの旅。
第9回
どこにもないもの。
田島貴男番長は、
会津田島に古くから伝わる陶芸、田島万古焼の
型破りな急須制作にとりかかろうとしています。
何度も言うようですが、
完成予想図は、こちらです。
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完成予想図。
番長、これ、ほんとうのほんとうに、
できるのでしょうか。
「いや‥‥その‥‥
よし!!
今日もやっぞ!」
スタートの時点で
ほとんど時間切れになっているような
状況ではありますが、がんばりましょう。
ところで、田島万古焼の土の手触りは
工作で使う粘土とは違うんですか?
「ううん、思いっきり粘土。
ザ・粘土ってかんじ」
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のばした土をロール状にし、
少しずつのばして、急須の土台をつくります。
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番長のつくろうとしている急須は、
ふたを受ける部分に
花びらというか王冠というか何というか、の
装飾をつくらなければいけませんね。
「そう。三角をね、1枚ずつ
切っていくわけよ」
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時間のせまる中、地道な作業がつづきます。
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まずは花びらを1枚つけてみました。
お! かわいいですね。
「チッチッチ。これが“かわいい”から
“おぞましい”に変わっていくんだよ。
細部をいちいち
縄文的におぞましくしたいんだよね〜」
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しかし、現時点では
縄文的急須というより
遊園地でレストランに出てくる
たのしいパイシチューポッドのようですね。
「なんだよ、パイシチュー?
たしかに縄文というより
西洋のにおいがするな」
番長、それは‥‥?
ひも状の粘土を
ねじっておられるようですが。
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「そう、これが急須の
取っ手部分になるわけさ。
この、ねじられた3体のヘビが」
ヘビ!?
「からみつき」
しかし、ヘビというより
三つ編みやツタのようにも思えますね。
よけいにかわいい路線に
引っぱっているような‥‥。
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「ヒャハハハ、くやしい!
おぞましい世界にしたいのに!
おぞましくするのって、
意外に手間がかかるんだな。
オレは根ががわいいのかな?
そんなことないよな」
番長は、根がほんとうは、
もしかしたら西洋オバケのような人で‥‥
「キャハハハ、西洋オバケはないだろう!
でも今日は一日通して
自分を思い知る感が漂っているからな。
なにか、この急須が
象徴的にオレを示しているのかな?
じつはヨーロッパの血があんのかな?
オレに」
いや‥‥、ないと思います。
ところで番長、早くしないと
時間がなくなってしまいます。
「ああもう!!
これから目もやんなきゃいけないし、
ツノもつくんなきゃいけないし」
ツノ?
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完成予想図のフタに、
たしかにツノがついています。
い、いそぎましょう。
とりあえず、不可欠なもの‥‥
鼻と目、鼻と目です。
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急須には、リアルな鼻が不可欠です。
「時間がない!
グワキャー!!
1か所ごとに、こだわりたい!!
時間が、もう1日ぐらいほしい!!」
すみません、次回、次回は
そうしましょう。
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鼻、つきました。
この時点で驚いてもかまいません。
「しかしさ、自分でこういうものをつくってみると、
縄文土器がいかに洗練されたものであるか、
かたちとしてどんなにすごいものかが
ほんとうによくわかる。
できないよ、あんなの。創造力がないと」
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サングラスのような目には、無数のブツブツを
ほどこします。怖くなってきました。
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急須に目を入れます。
鼻と目がついた時点で、
確実に、急須に何かが宿りました。
もはやシチューポッドではありません。
制作時間は、あと20分です。
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フタになぜ大きなツノが必要なのか。
問いたい気分をおさえて見守ります。
これに実際
お茶やらコーヒーやらを入れて
つぐ気、ありですか?
「ありありでしょう!
あああああー、
たのしくなってきた!」
あと5分の段階で
たのしくなってきてしまいました。
「んもう、口はあきらめるしかないな。
このへんで、このへんで
よし、いぃぃ〜っっっよし!!
これでできあがりにしよう!」
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ジャーン。完成しました。
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うしろはこんなふうです。すごいです。
ひゃー‥‥しかし、
ほとんど予想図のスケッチどおりです。
すごいものができましたね。
「まじでよくない?
これ、どこにもないよ?」
はい。泣きたいくらいに
どこにもない急須の完成です。
これが無事焼き上がり、
みごと田島万古焼となって、
コーヒーをドドドドーッと飲むのがたのしみですね。
番長作の、どこにもない土偶急須の
制作風景を動画でごらんください。
「つくってるあいだ、
オレ、けっこう無言だったよね」
大丈夫です。
無言でやらないと間に合いませんでしたし、
それに番長はわりにいつも間に合いません。
「ね、タイトルは?
あの急須の名前、何にしようか!」
番長、あの急須に
名前をつけるのはよしませんか。
‥‥たのみます。
*
このあと、いそいで帰り支度をした我々を、
「夜道はわかりづらいから」と
田島万古焼の室井先生は
駅まで送ってくださいました。
外に出るとほんとうに街灯がなく、
先生がいなかったらきっと
道中迷いに迷って
夜が明けることになっていたと思います。
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結局、先生には最後まで
この「オレのニュース」の企画主旨を
芯から説明できた実感のないまま
お別れしましたが、
いまごろ、おかしな一行が風のようにやってきて
残していったあの急須を
大切な窯で「??」と思いながら
焼き上げてくださっているのかと思うと、
ちょっぴり胸が熱くなります。
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田島めぐり、明日は最終回ですよ!
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