国語とからだの役者論 国語とからだの役者論
『VIVANT』や『半沢直樹』シリーズなど、
大ヒット作品に主演し、
いまや日本を代表する俳優のひとりとして
誰もが認める堺雅人さんは、
じつは20年以上前から
ほぼ日とつながりがあるんです。
糸井重里ともときどき会って、
濃く長いやりとりを交わす仲。

そんな堺さんと糸井が「生活のたのしみ展」のときに
開催されたトークショーでたっぷり語り合いました。
思えば、ふたりの公式な対談はほとんどはじめて。
堺雅人さん独特の役者論から学生時代の思い出まで、
思った通り、いえ、思った以上に
おもしろい時間になりました。
第2回 覚えるときぜんぶ文字にします
写真
糸井
文字じゃない情報は苦手なんですか。
たとえば、
「リンゴを思い浮かべてください」
っていう質問があるんですけど‥‥
いま、思い浮かべましたか?
はい。リンゴのイラストを思い浮かべました。
糸井
雑なイラストですか?
雑ですね。
糸井
じゃあ、ぼくと同じくらいですね。
えっ。
糸井
一昨日、漫画家の方と話をしてたときに、
同じことを聞いたんですけど、
思い浮かべるのは、
「写真のようなリンゴ」らしいんですよ。
あ、実物の。はあーー。
糸井
だから描けるんだなぁと。
だから俺、絵が下手なんだ。
写真
会場
(笑)
糸井
下手ですか?
もう笑われますよ。
東村アキコさんっていう、
同郷の2個下の漫画家さんがいるんですけど、
「絵心ないねぇ‥‥」ってしみじみ言われました。
会場
(笑)
糸井
堺くんは、絵心がないっていうか、
字心がありすぎるってことなんじゃないかな。
字心っていうとヘンだけど。
でも、そうですね。
文字情報でぜんぶやってます。
糸井
鈴木慶一っていうバンドマンがいるんだけど、
カーナビの表示がわからなくて、
どっか行くときに、
「何々という信号を左に曲がって」
「何々という店があったら右に曲がって」
「そのまま真っ直ぐ」とか、
ぜんぶ文字情報でナビをしてるらしいです。
‥‥その人、ぼくです。
糸井
あなたですか(笑)!
写真
会場
(笑)
ぼくは、踊りの振りつけを覚えるときに、
一度ぜんぶ文字にします。
「足は右左右」「手は上下斜め右」って。
だからアクションを覚えるのに
ものすごく時間がかかるんです。
糸井
でも、殺陣とか、いっぱいしてるじゃないですか。
いっぱいしてるんです!
劇団☆新感線という劇団で立ち回りをやったときは、
早乙女太一さんと対決する役だったんです。
殺陣の手順って、ふつう3手か4手くらいは
すぐ覚えられるらしいんですけど、
早乙女太一さんは、稽古のとき、
パッパッパッパッパッパッパッと、
20何手をすぐに覚えたんです。
糸井
おおーー。
それはすごいことで、
「太一くん、すごいねー!」って思った瞬間から、
ぼくは震えが止まらなくなって。
写真
会場
(笑)
糸井
あなたの相手ですものね。
本読みのときは、すごく調子よかったんです。
文字しか言わないから。
そのときは、いいなぁ、たのしい役だなぁ、
素敵な作品だなぁと思ってたんですけど‥‥。
「はっ、これ、ぜんぶやるんだ!」
ってことに気がついて、ブルブルブルブル。
そこからぜんぶ文字にして覚えました。
けっこう長い殺陣があったんですけど、
それを本番前まで毎日練習してました。
糸井
そのお芝居、ぼくも観に行ったので覚えてますけど、
楽屋で会ったら、身体、ボロボロでしたよね。
初日はなんとか間に合ったんです。
ぜんぶ文字にして、自分の体に覚え込ませる作業が
3週間かかったのかな。
それで稽古もぜんぶ終わって、
初日に間に合って、よかった、と思ってたら、
その日から2か月同じことをするってことを
すっかり忘れてたんです。
糸井
ああー、じゃあ、そうとうからだに無理が。
無理がかかりました。
糸井さんにお会いしたときは、
たぶんテーピングをぐるぐる巻いてたときで。
糸井
もうね、ほんと、ボロボロなんですよ、
殺陣をやるってだけで。
あのときは、テーピングで立ってました(笑)。
糸井
ねえ(笑)。毎日、刀振り回して、
あの芝居をやってるわけだから。
はい、そうなんです。
写真
糸井
なんか、堺くんからよく、
そういうつらかった話だとか、
苦労した話を聞きますけど、
自分からそっちに
行こうとしてるじゃないですかね。
なんですかねー。
糸井
だから、すくなくとも、
「体から取り込んでいく人」なんだなと
ぼくは思ってます。
あ、その言われ方はうれしいです。
糸井
たとえば、以前も、
舞台をしばらくやってないなっていうときに、
臨時の、お客さんに発表する予定のない
稽古場をつくったり。
ああ、そうですね。
糸井
昔からのお芝居の仲間に声をかけて、
お客さんのいない劇団、
みたいな場をつくって、
散々練習してたじゃないですか。
あのころはちょうどコロナで、
役者さんたちも発表の場がないときだったので、
この機会にいろんなことを教わりたいなと思って、
ああいう場所をつくりました。
糸井
つまり練習をすることが目的、
みたいな場所ですよね。
そうです、そうです。
練習は好きですね。お稽古も好きです。
糸井
ね、お稽古大好きで。
たまたま見学させていただいたんですけど、
そのお稽古を、堺くんだけじゃなく、
みんながたのしそうにやってるんですよ。
はい(笑)。
糸井
すごくそれがうらやましくて。
誰が観るわけでもないのに、
たのしそうに稽古をして、やったあとで、
感想を言い合ってるんだけど、
それがまた熱が入っていて。
たのしかったですね。
また、集ってくださった人たちがすごい人たちで、
それぞれ先生をできるぐらいの方なので、
一緒に合わせてるだけでたのしかったんです。
写真
(明日に続きます)
2026-09-02-WED